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第3章 変身レッスン

第14話 二度目のデート

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「ももさん。待ってたよ」

 待ち合わせ場所に行くと、既に蓮さんがきていた。私を見つけると、軽く右手をあげる。
 目が合うと、わずかに首を傾けて笑った。相変わらずの王子様スマイルだ。

「おまたせ!」

 ももなら、元気いっぱいに挨拶する。だってその方が、可愛いって思ってもらえるから。
 客観的に見てももらしい行動をするのではなく、ももがしそうな行動をとる。考え方を変えただけで、前よりもずっとやりやすくなった。

「今日も可愛いね」
「でしょ?」

 褒められた時、ももなら謙遜なんてしない。だって、自分が一番、自分の可愛さを信じているから。
 とはいえ、ももとして振る舞うのに完璧に慣れたわけじゃない。今だって、顔がちょっと赤くなってしまった。

「今日は、二回目のデートだね」

 歩き出した蓮さんが、自然に私の手を握った。目が合うと、唇の端だけを上げて蓮さんが笑う。
 まるで、悪戯が成功した子供みたいな笑顔だ。
 蓮さんがこんな表情をするのはどうしてなんだろう。如月さんには、蓮さんがどう見えているんだろう。

「うん。今日は二人で、思いっきり楽しもうね」

 分からない。分からないからきっと、これから知っていけるはずだ。





 私たちがやってきたのは、池袋にある水族館。商業施設の中にあるから行きやすいし、広すぎず狭すぎず、適度な大きさだ。

「なにから見る?」

 私の手を握ったまま、蓮さんが私の顔を覗き込んだ。

「ペンギン、とか?」

 水族館といえば、ペンギンって気がする。もちろん、他にもいろいろな生き物がいるのは分かってるんだけど。

「いいね。行こうか」
「うん!」

 ペンギンコーナーは人気だったけれど、なんとか見やすい位置に行くことができた。水の中をすいすいと泳いでいる子もいるし、陸にあがってじっとしている子もいる。
 水槽前にペンギンの名前や特徴を書いたパネルがあったけれど、正直、区別なんてつかない。

「どれがどの子が分かる?」

 パネルを指差しながら蓮さんを見ると、蓮さんは一瞬だけ考え込むような顔をして、すぐに軽い溜息を吐いた。

「残念ながら、分からないな」
「一緒だね」

 そろって一歩前に出て、ペンギンを観察する。やっぱり一匹ずつの違いなんてよく分からないけれど、可愛いのは確かだ。





 館内を見てまわった後、私たちは売店コーナーにやってきた。雑貨類や食べ物からぬいぐるみまで、いろいろな物が売っている。

「せっかくだから、今日の記念になにか買わない?」

 私が言うと、すぐに蓮さんは頷いてくれた。二人で並んで、なにかいいものがないかを物色する。
 手軽なのは、お菓子かな。でも、食べたらなくなっちゃうのはちょっともったいない気がする。
 クリアファイルとかペンなら学校でも使えるけど、ちょっと使いにくそうだ。

「これとか、どうかな」

 蓮さんが手にとったのは、ペンギンのマスコットだった。チャームがついているから、鞄やポーチにもつけられる。

「いいね! 一番印象に残ってるの、ペンギンだし」

 今日のデートを象徴するアイテムとしては、これが一番いい気がする。
 それに、マスコットをおそろいで持つなんて、なんだかすごく友達っぽくていい。

「色も一緒にする? それとも、色違いにする?」

 言いながら、蓮さんが何種類かのマスコットを指差した。
 実際のペンギンに似せた黒や灰色の物から、ピンクや紫まで、いろいろな色のマスコットがある。

「じゃあ、お互いのをお互いが偉ぶっていうのはどう?」

 普通に自分で選ぶよりも、きっと記憶に残るはず。そう思って提案したら、蓮さんはすぐに頷いてくれた。





「ももさんには、これかなって」

 蓮さんが私に渡したのは、灰色のペンギンだった。可愛いけれど、ちょっとびっくりする。
 てっきり、ピンク色のペンギンを渡されると思っていたから。

「これ、嫌だった?」
「ううん。ちょっとびっくりしただけ」
「ピンクにしようかとも思ったんだけど、なんとなく、色が僕の髪に似てるかなって」

 そう言うと、蓮さんはくすっと笑った。
 ちょっと色っぽい、今まで見たことがない笑い方だ。

「ももさんには、これを見るたびに、僕を思い出してほしかったから」
「……それ、ちょっと狡くない?」

 王子様すぎるというか、人たらし過ぎるというか。
 如月さんの理想の性格なんだろうけど、どきどきさせられるこっちの身にもなってほしい。

「私が選んだのはこれね」

 私が蓮さんに渡したのは、ピンク色のペンギンだ。

「……もしかして、同じ理由?」
「違うよ。ただ、私が一番可愛いと思う物を、人にもおすすめしたいってだけ」
「それ、ももさんらしいね」

 ももらしいなんて、初めて言われた。
 そう言われるくらい、今の私はちゃんと、天使ももになれてるのかな。
 なんだか誇らしくて、顔がにやけるのを止められなかった。
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