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第4章 ミステリアス少女の秘密
第21話 放課後変身部の一大事
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「これが完成した絵だよ」
一枚の絵を、テーブルの上におく。私が丹精を込めて描いた、雪さんの絵だ。
第一印象で抱いたクールでちょっとミステリアスな雰囲気、意外と自信家なところ、そして結構表情が豊かなところ。
それから、雪さんが好きな物語の世界観。そして、豪快に笑っていた優斗くん。
そういう要素を全部詰め込んだから、ちょっとごちゃごちゃとした絵になってしまった。
だけど、綺麗に描けた。間違いなく、私の自信作だ。
「これ……もらってもいい?」
瞳を輝かせながら、雪さんが私の絵を手にとった。宝物に触れるような優しい手つきが嬉しくて、顔がにやけてしまう。
「もちろん」
「ありがとう。大事にするわ」
絵を眺める雪さんの眼差しがあまりにも優しくて、なんだか照れくさい。
自分が描いた絵をこんなに大切にしてもらえるなんて、幸せだな。
私が幸せを噛み締めて頷いたところで、部室の扉が開いた。そして、蓮さんが入ってくる。
「蓮さん!」
蓮さんと会うのは久しぶりだ。そして今日の蓮さんは、どこか疲れているように見える。
メイクで誤魔化してはいるけれど、かなり顔色が悪い。
「最近どうしたの!? 保健室にだってなかなかこないし……!」
慌てて駆け寄ると、蓮さんが人差し指を唇の前で立てた。
「今、僕は蓮だよ」
優雅な微笑みで牽制された。蓮さんの姿をしている以上、如月さんの話題は出すな、ということだろう。
でも私は、如月さんのことだって気になる。強引に聞くのはだめだって、ちゃんと分かってはいるつもりだけど……。
もしかして、これって、如月さんなりの防具なのかな。
蓮さんの姿でいれば、如月さんの話をせずに済む。心の奥にある、人に見せたくない部分を見せずに済む。
だったらなおさら、強引に話を聞くなんてできない。
如月さんのことをもっと知りたいけど、私は、如月さんを傷つけたいわけじゃないから。
「うん。そうだよね。久しぶり、蓮さん!」
本当の自分を隠す。それだって、変身の立派な意義だ。
「ももさんに絵を描いてもらったのかい? いいね。今度、僕のことも描いてくれる?」
雪さんの絵を見ながら、蓮さんが言った。もちろん、と頷くことしかできない。
蓮さんが……如月さんが喜んでくれるなら、なんでもしてあげたい。だって私は、如月さんのおかげで変わることができたから。前より、自分を好きになれたから。
私は、如月さんになにをしてあげられるんだろう?
扉が開く音がして、思考が遮られた。慌てて扉へ視線を向ける。
「……え?」
そこに立っていたのは、クラスメートにして学校一の爽やかイケメン・早瀬くんだった。
「最近、委員長が妙に楽しそうだから、こっそり後つけてみたんだ。そしたら、旧部室棟の方に行くし、更衣室に入ったかと思ったら、別人の姿で出てくるし」
にこにこと笑いながら、早瀬くんが部室の扉を閉めた。
そして、一歩近づいてくる。
どうしよう。どうしよう。
バレちゃった。早瀬くんに、変身部のことがバレちゃった……!
「それでさ、そっちは、如月さんだよね?」
蓮さんを見て、早瀬くんはあっさりそう言った。おそらく、彼女が更衣室に出入りするところも見られてしまったのだろう。
私たち三人は何も言えなくなって、ただじっと早瀬くんを見つめた。
「いいなあ。なんか、すっごい楽しそう!」
明るくて爽やかな笑顔。こんな状況じゃなければ、私だってつられて笑顔になっていたに違いない。
どうしよう。何か言わなきゃ。でも……。
喋ろうとして、何度も失敗する。口の中が渇いて、何を言えばいいのかが分からなくなる。
私のせいだ。私が後をつけられたから、変身部の存在がバレてしまった。
早瀬くんが変身部の話をみんなに広めちゃったら、私たちはどうなるんだろう?
先生にバレたら、きっと怒られて活動できなくなる。先生じゃなくても、面白おかしく話が広まって、変身部が馬鹿にされるようになったら?
私の大好きな変身部が、なくなってしまう。
間違いなくこれは、放課後変身部の一大事だ。
一枚の絵を、テーブルの上におく。私が丹精を込めて描いた、雪さんの絵だ。
第一印象で抱いたクールでちょっとミステリアスな雰囲気、意外と自信家なところ、そして結構表情が豊かなところ。
それから、雪さんが好きな物語の世界観。そして、豪快に笑っていた優斗くん。
そういう要素を全部詰め込んだから、ちょっとごちゃごちゃとした絵になってしまった。
だけど、綺麗に描けた。間違いなく、私の自信作だ。
「これ……もらってもいい?」
瞳を輝かせながら、雪さんが私の絵を手にとった。宝物に触れるような優しい手つきが嬉しくて、顔がにやけてしまう。
「もちろん」
「ありがとう。大事にするわ」
絵を眺める雪さんの眼差しがあまりにも優しくて、なんだか照れくさい。
自分が描いた絵をこんなに大切にしてもらえるなんて、幸せだな。
私が幸せを噛み締めて頷いたところで、部室の扉が開いた。そして、蓮さんが入ってくる。
「蓮さん!」
蓮さんと会うのは久しぶりだ。そして今日の蓮さんは、どこか疲れているように見える。
メイクで誤魔化してはいるけれど、かなり顔色が悪い。
「最近どうしたの!? 保健室にだってなかなかこないし……!」
慌てて駆け寄ると、蓮さんが人差し指を唇の前で立てた。
「今、僕は蓮だよ」
優雅な微笑みで牽制された。蓮さんの姿をしている以上、如月さんの話題は出すな、ということだろう。
でも私は、如月さんのことだって気になる。強引に聞くのはだめだって、ちゃんと分かってはいるつもりだけど……。
もしかして、これって、如月さんなりの防具なのかな。
蓮さんの姿でいれば、如月さんの話をせずに済む。心の奥にある、人に見せたくない部分を見せずに済む。
だったらなおさら、強引に話を聞くなんてできない。
如月さんのことをもっと知りたいけど、私は、如月さんを傷つけたいわけじゃないから。
「うん。そうだよね。久しぶり、蓮さん!」
本当の自分を隠す。それだって、変身の立派な意義だ。
「ももさんに絵を描いてもらったのかい? いいね。今度、僕のことも描いてくれる?」
雪さんの絵を見ながら、蓮さんが言った。もちろん、と頷くことしかできない。
蓮さんが……如月さんが喜んでくれるなら、なんでもしてあげたい。だって私は、如月さんのおかげで変わることができたから。前より、自分を好きになれたから。
私は、如月さんになにをしてあげられるんだろう?
扉が開く音がして、思考が遮られた。慌てて扉へ視線を向ける。
「……え?」
そこに立っていたのは、クラスメートにして学校一の爽やかイケメン・早瀬くんだった。
「最近、委員長が妙に楽しそうだから、こっそり後つけてみたんだ。そしたら、旧部室棟の方に行くし、更衣室に入ったかと思ったら、別人の姿で出てくるし」
にこにこと笑いながら、早瀬くんが部室の扉を閉めた。
そして、一歩近づいてくる。
どうしよう。どうしよう。
バレちゃった。早瀬くんに、変身部のことがバレちゃった……!
「それでさ、そっちは、如月さんだよね?」
蓮さんを見て、早瀬くんはあっさりそう言った。おそらく、彼女が更衣室に出入りするところも見られてしまったのだろう。
私たち三人は何も言えなくなって、ただじっと早瀬くんを見つめた。
「いいなあ。なんか、すっごい楽しそう!」
明るくて爽やかな笑顔。こんな状況じゃなければ、私だってつられて笑顔になっていたに違いない。
どうしよう。何か言わなきゃ。でも……。
喋ろうとして、何度も失敗する。口の中が渇いて、何を言えばいいのかが分からなくなる。
私のせいだ。私が後をつけられたから、変身部の存在がバレてしまった。
早瀬くんが変身部の話をみんなに広めちゃったら、私たちはどうなるんだろう?
先生にバレたら、きっと怒られて活動できなくなる。先生じゃなくても、面白おかしく話が広まって、変身部が馬鹿にされるようになったら?
私の大好きな変身部が、なくなってしまう。
間違いなくこれは、放課後変身部の一大事だ。
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