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第4章 ミステリアス少女の秘密
第20話 ミステリアス少女の正体
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「私はね、小さい頃から、アニメや漫画、小説が好きだったの」
静かな口調で、はっきりと雪さんが話し始めた。
一言も聞き逃したくなくて、必死に耳を澄ませる。
「中でも、なんていうのかな……いわゆる、ゴスロリみたいな世界観が好きで。可愛い服も好きだし、可愛い女の子も好きで、特に黒髪美少女が一番好きだった」
「確かにアニメの黒髪美少女って、独特の魅力があるもんね」
「うん。そうなの」
雪さんが力強く頷く。どうやら、雪さんの黒髪美少女愛はかなり強いみたいだ。
「それで私……すっごく好きなアニメがあるの。原作は小説で、憂国の女神っていうやつ」
「あ! それ、知ってる。原作は読めてないけど、アニメは見たよ」
憂国の女神は、数年前にかなり流行ったアニメだ。
荒廃した未来の世界で、人間兵器として生み出された美少女たち。彼女たちは戦争の道具として扱われ、最初は主人である軍に利用されていた。
しかし後半、少女たちは自我を持ち始め、連帯して軍に歯向かうようになる。最終的には負けてしまうものの、再び物として扱われることを拒み、自らを破壊する……という展開だ。
確か、綺麗な絵柄と鬱展開のギャップで、すごく話題になっていた。
「本当? 私、とにかく憂国の女神が大好きなの。中でも、メインヒロインのエミリアが大好きで」
言われてみれば、雪さんはエミリアに似ている気がする。
エミリアは物静かな黒髪美少女で、内側に強い情熱を秘めた子だった。
「私、アニメはもちろん、原作もコミカライズもOVAも劇場版も、全部チェックしてて」
雪さんが早口で語り続ける。いつもの落ち着いた姿とはかけ離れているが、これはこれで魅力的だ。
好きなものについて話す人って、すごくきらきらしてるから。
「それで、好きだな、可愛いなって思ってるうちに、エミリアみたいになりたくなったの」
「うんうん」
「で、エミリアみたいな可愛い服とかも着てみたくなって、いろいろ調べてたら、どんどん興味が湧いてきて」
話しながら、雪さんがどんどん近づいてくる。あまりに前のめり過ぎて、私が一歩後ろへ下がったくらいだ。
「だんだん、可愛い服を着て、メイクもしてみたくなって。それならやっぱり、女の子の方がいいかなって」
「……ん?」
雪さんの言葉に引っかかってしまう。
女の子の方がいい? なんかその言い方、ちょっと変な気が……。
「……あ」
しまった、という表情で雪さんは溜息を吐いた。
しばしの沈黙が部室を満たした後、雪さんがふっきれたような顔つきになる。
そして、雪さんは自分の髪の毛を思いっきり引っ張った。すると、長くて綺麗な黒髪が外れる。
雪さんの髪は、ウィッグだったのだ。そして、雪さんの地毛はかなり短かった。
「え、えーっと……雪さんの地毛って、かなり短いんだね?」
「はあ? 馬鹿なの、お前」
いつもより大きくて、低い声。びっくりして声を出せずにいると、雪さんがまた溜息を吐いた。
「本当は男なんだよ、俺」
「え、ええっー!?」
旧部室棟全体に響きそうなほど大きな声が出てしまった。雪さんが、両手で耳をおさえて舌打ちする。
なんか柄悪くない?
「うるさい」
「だ、だって……!」
如月さんは変身部で男装し、蓮さんになっている。だから、雪さんが誰かの女装だという可能性もあったはずだ。
でも、そんなこと考えたこともなかった。
雪さん、どこからどう見ても女の子だったんだもん……!
今だって、ショートヘアの可愛い女の子にしか見えない。
「だから、お前たちと違う更衣室使ってたわけ」
「……恥ずかしがり屋なだけかと思ってた」
「まあ、俺の女装は完璧だからな。そう思って当然か」
ふん、と自信満々に雪さんが鼻を鳴らした。いや、今目の前にいるこの男子は、もう雪さんではない。
「この際だから教えてやる。俺の本名は如月優斗。三年二組だ」
「き、如月……?」
「ああ。姫乃は俺の従妹だ。家も近いし、兄妹みたいなもんだな」
「そ、そんな……!」
兄妹みたいな関係なら、お互いのことを知っているのは当たり前だ。
なのに私、勝手にもやもやしてたんだ……。
「驚いたか?」
「驚くことが多すぎて、頭がついていかないというか……」
「がっかりしたか? 俺が男で」
「いえ、それはまったく!」
反射的に答えてしまったけれど、間違いなく私の本音だ。
「だって、雪さんが男子だなんて想像もしなかったから。だから、もっと知りたくなった!」
「……なんだよ、それ」
雪さん……もとい、優斗くんが、大きく口を開けて笑う。
気持ちいいほど、豪快な笑い方だ。
「雪さんのことだけじゃなくて、優斗くんのことも、もっと教えて。二人の好きをたくさん詰め込んだ絵を描きたいから」
「分かった。ただし、一個だけ条件がある」
「条件?」
「俺のこと、死ぬほど綺麗に描けよ」
「それはもう、もちろん!」
頭の中に、いろんなアイディアが浮かんでくる。表現したいことが多すぎて、一枚の絵にまとまるか不安なくらいだ。
静かな口調で、はっきりと雪さんが話し始めた。
一言も聞き逃したくなくて、必死に耳を澄ませる。
「中でも、なんていうのかな……いわゆる、ゴスロリみたいな世界観が好きで。可愛い服も好きだし、可愛い女の子も好きで、特に黒髪美少女が一番好きだった」
「確かにアニメの黒髪美少女って、独特の魅力があるもんね」
「うん。そうなの」
雪さんが力強く頷く。どうやら、雪さんの黒髪美少女愛はかなり強いみたいだ。
「それで私……すっごく好きなアニメがあるの。原作は小説で、憂国の女神っていうやつ」
「あ! それ、知ってる。原作は読めてないけど、アニメは見たよ」
憂国の女神は、数年前にかなり流行ったアニメだ。
荒廃した未来の世界で、人間兵器として生み出された美少女たち。彼女たちは戦争の道具として扱われ、最初は主人である軍に利用されていた。
しかし後半、少女たちは自我を持ち始め、連帯して軍に歯向かうようになる。最終的には負けてしまうものの、再び物として扱われることを拒み、自らを破壊する……という展開だ。
確か、綺麗な絵柄と鬱展開のギャップで、すごく話題になっていた。
「本当? 私、とにかく憂国の女神が大好きなの。中でも、メインヒロインのエミリアが大好きで」
言われてみれば、雪さんはエミリアに似ている気がする。
エミリアは物静かな黒髪美少女で、内側に強い情熱を秘めた子だった。
「私、アニメはもちろん、原作もコミカライズもOVAも劇場版も、全部チェックしてて」
雪さんが早口で語り続ける。いつもの落ち着いた姿とはかけ離れているが、これはこれで魅力的だ。
好きなものについて話す人って、すごくきらきらしてるから。
「それで、好きだな、可愛いなって思ってるうちに、エミリアみたいになりたくなったの」
「うんうん」
「で、エミリアみたいな可愛い服とかも着てみたくなって、いろいろ調べてたら、どんどん興味が湧いてきて」
話しながら、雪さんがどんどん近づいてくる。あまりに前のめり過ぎて、私が一歩後ろへ下がったくらいだ。
「だんだん、可愛い服を着て、メイクもしてみたくなって。それならやっぱり、女の子の方がいいかなって」
「……ん?」
雪さんの言葉に引っかかってしまう。
女の子の方がいい? なんかその言い方、ちょっと変な気が……。
「……あ」
しまった、という表情で雪さんは溜息を吐いた。
しばしの沈黙が部室を満たした後、雪さんがふっきれたような顔つきになる。
そして、雪さんは自分の髪の毛を思いっきり引っ張った。すると、長くて綺麗な黒髪が外れる。
雪さんの髪は、ウィッグだったのだ。そして、雪さんの地毛はかなり短かった。
「え、えーっと……雪さんの地毛って、かなり短いんだね?」
「はあ? 馬鹿なの、お前」
いつもより大きくて、低い声。びっくりして声を出せずにいると、雪さんがまた溜息を吐いた。
「本当は男なんだよ、俺」
「え、ええっー!?」
旧部室棟全体に響きそうなほど大きな声が出てしまった。雪さんが、両手で耳をおさえて舌打ちする。
なんか柄悪くない?
「うるさい」
「だ、だって……!」
如月さんは変身部で男装し、蓮さんになっている。だから、雪さんが誰かの女装だという可能性もあったはずだ。
でも、そんなこと考えたこともなかった。
雪さん、どこからどう見ても女の子だったんだもん……!
今だって、ショートヘアの可愛い女の子にしか見えない。
「だから、お前たちと違う更衣室使ってたわけ」
「……恥ずかしがり屋なだけかと思ってた」
「まあ、俺の女装は完璧だからな。そう思って当然か」
ふん、と自信満々に雪さんが鼻を鳴らした。いや、今目の前にいるこの男子は、もう雪さんではない。
「この際だから教えてやる。俺の本名は如月優斗。三年二組だ」
「き、如月……?」
「ああ。姫乃は俺の従妹だ。家も近いし、兄妹みたいなもんだな」
「そ、そんな……!」
兄妹みたいな関係なら、お互いのことを知っているのは当たり前だ。
なのに私、勝手にもやもやしてたんだ……。
「驚いたか?」
「驚くことが多すぎて、頭がついていかないというか……」
「がっかりしたか? 俺が男で」
「いえ、それはまったく!」
反射的に答えてしまったけれど、間違いなく私の本音だ。
「だって、雪さんが男子だなんて想像もしなかったから。だから、もっと知りたくなった!」
「……なんだよ、それ」
雪さん……もとい、優斗くんが、大きく口を開けて笑う。
気持ちいいほど、豪快な笑い方だ。
「雪さんのことだけじゃなくて、優斗くんのことも、もっと教えて。二人の好きをたくさん詰め込んだ絵を描きたいから」
「分かった。ただし、一個だけ条件がある」
「条件?」
「俺のこと、死ぬほど綺麗に描けよ」
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