上 下
20 / 37
第4章 ミステリアス少女の秘密

第20話 ミステリアス少女の正体

しおりを挟む
「私はね、小さい頃から、アニメや漫画、小説が好きだったの」

 静かな口調で、はっきりと雪さんが話し始めた。
 一言も聞き逃したくなくて、必死に耳を澄ませる。

「中でも、なんていうのかな……いわゆる、ゴスロリみたいな世界観が好きで。可愛い服も好きだし、可愛い女の子も好きで、特に黒髪美少女が一番好きだった」
「確かにアニメの黒髪美少女って、独特の魅力があるもんね」
「うん。そうなの」

 雪さんが力強く頷く。どうやら、雪さんの黒髪美少女愛はかなり強いみたいだ。

「それで私……すっごく好きなアニメがあるの。原作は小説で、憂国の女神っていうやつ」
「あ! それ、知ってる。原作は読めてないけど、アニメは見たよ」

 憂国の女神は、数年前にかなり流行ったアニメだ。
 荒廃した未来の世界で、人間兵器として生み出された美少女たち。彼女たちは戦争の道具として扱われ、最初は主人である軍に利用されていた。
 しかし後半、少女たちは自我を持ち始め、連帯して軍に歯向かうようになる。最終的には負けてしまうものの、再び物として扱われることを拒み、自らを破壊する……という展開だ。
 確か、綺麗な絵柄と鬱展開のギャップで、すごく話題になっていた。

「本当? 私、とにかく憂国の女神が大好きなの。中でも、メインヒロインのエミリアが大好きで」

 言われてみれば、雪さんはエミリアに似ている気がする。
 エミリアは物静かな黒髪美少女で、内側に強い情熱を秘めた子だった。

「私、アニメはもちろん、原作もコミカライズもOVAも劇場版も、全部チェックしてて」

 雪さんが早口で語り続ける。いつもの落ち着いた姿とはかけ離れているが、これはこれで魅力的だ。
 好きなものについて話す人って、すごくきらきらしてるから。

「それで、好きだな、可愛いなって思ってるうちに、エミリアみたいになりたくなったの」
「うんうん」
「で、エミリアみたいな可愛い服とかも着てみたくなって、いろいろ調べてたら、どんどん興味が湧いてきて」

 話しながら、雪さんがどんどん近づいてくる。あまりに前のめり過ぎて、私が一歩後ろへ下がったくらいだ。

「だんだん、可愛い服を着て、メイクもしてみたくなって。それならやっぱり、女の子の方がいいかなって」
「……ん?」

 雪さんの言葉に引っかかってしまう。
 女の子の方がいい? なんかその言い方、ちょっと変な気が……。

「……あ」

 しまった、という表情で雪さんは溜息を吐いた。
 しばしの沈黙が部室を満たした後、雪さんがふっきれたような顔つきになる。
 そして、雪さんは自分の髪の毛を思いっきり引っ張った。すると、長くて綺麗な黒髪が外れる。
 雪さんの髪は、ウィッグだったのだ。そして、雪さんの地毛はかなり短かった。

「え、えーっと……雪さんの地毛って、かなり短いんだね?」
「はあ? 馬鹿なの、お前」

 いつもより大きくて、低い声。びっくりして声を出せずにいると、雪さんがまた溜息を吐いた。

「本当は男なんだよ、俺」
「え、ええっー!?」

 旧部室棟全体に響きそうなほど大きな声が出てしまった。雪さんが、両手で耳をおさえて舌打ちする。
 なんか柄悪くない?

「うるさい」
「だ、だって……!」

 如月さんは変身部で男装し、蓮さんになっている。だから、雪さんが誰かの女装だという可能性もあったはずだ。
 でも、そんなこと考えたこともなかった。
 雪さん、どこからどう見ても女の子だったんだもん……!
 今だって、ショートヘアの可愛い女の子にしか見えない。

「だから、お前たちと違う更衣室使ってたわけ」
「……恥ずかしがり屋なだけかと思ってた」
「まあ、俺の女装は完璧だからな。そう思って当然か」

 ふん、と自信満々に雪さんが鼻を鳴らした。いや、今目の前にいるこの男子は、もう雪さんではない。

「この際だから教えてやる。俺の本名は如月優斗まさと。三年二組だ」
「き、如月……?」
「ああ。姫乃は俺の従妹だ。家も近いし、兄妹みたいなもんだな」
「そ、そんな……!」

 兄妹みたいな関係なら、お互いのことを知っているのは当たり前だ。
 なのに私、勝手にもやもやしてたんだ……。

「驚いたか?」
「驚くことが多すぎて、頭がついていかないというか……」
「がっかりしたか? 俺が男で」
「いえ、それはまったく!」

 反射的に答えてしまったけれど、間違いなく私の本音だ。

「だって、雪さんが男子だなんて想像もしなかったから。だから、もっと知りたくなった!」
「……なんだよ、それ」

 雪さん……もとい、優斗くんが、大きく口を開けて笑う。
 気持ちいいほど、豪快な笑い方だ。

「雪さんのことだけじゃなくて、優斗くんのことも、もっと教えて。二人の好きをたくさん詰め込んだ絵を描きたいから」
「分かった。ただし、一個だけ条件がある」
「条件?」
「俺のこと、死ぬほど綺麗に描けよ」
「それはもう、もちろん!」

 頭の中に、いろんなアイディアが浮かんでくる。表現したいことが多すぎて、一枚の絵にまとまるか不安なくらいだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

トリビアのイズミ 「小学6年生の男児は、女児用のパンツをはくと100%勃起する」

九拾七
大衆娯楽
かつての人気テレビ番組をオマージュしたものです。 現代ではありえない倫理観なのでご注意を。

クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男

湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です 閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

女子に間違えられました、、

夜碧ひな
青春
1:文化祭で女装コンテストに強制的に出場させられた有川 日向。コンテスト終了後、日向を可愛い女子だと間違えた1年先輩の朝日 滉太から告白を受ける。猛アピールをしてくる滉太に仕方なくOKしてしまう日向。 果たして2人の運命とは? 2:そこから数ヶ月。また新たなスタートをきった日向たち。が、そこに新たな人物が!? そして周りの人物達が引き起こすハチャメチャストーリーとは! ちょっと不思議なヒューマンラブコメディー。 ※この物語はフィクション作品です。個名、団体などは現実世界において一切関係ありません。

処理中です...