放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく

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第4章 ミステリアス少女の秘密

第17話 どうしても

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「私は小説ならいろいろ読むの。新しいのも、古いのも。訳書も、日本の本も」

 すごい。雪さんって、見た目通り、文学少女なんだ。
 こんなに楽しそうに語るってことは、そういうキャラってだけじゃなくて、雪さん自身が本を好きってことだよね。

「特に好きなのは歴史とSFかな」
「歴史とSFって、結構真逆な気もするけど……」
「うん。ある意味ね。でもなんていうか、未来も過去も、変わらないものがあるんだなって思うのが好きなの」
「変わらないもの?」
「そう。生活環境も住む場所も文化も違うけど、人間の本質は変わらないんだなって。人間同士で争ったり、逆に協力し合ったり」
「なるほど……」

 正直、雪さんが言っていることを全部理解できたわけじゃない。でも、なんとなく分かる気がする。

「現実とは違う世界を楽しめるのと同時に、現実と照らし合わせて共感したり、納得したりできる。そういう本が好きかな」

 そう言って笑った雪さんは、すごくきらきらして見えた。
 好きなことを語る時の目って、こんなに綺麗なんだ。

「ねえ、今度、雪さんのおすすめの本、貸してくれない?」
「いいの? そんなこと言われたら私、押しつけるタイプだけど」
「うん。雪さんなら大歓迎」
「じゃあ、約束だから。絶対忘れないでよ」

 念を押すように雪さんが言う。ちょっとだけ子供っぽい表情が可愛くて、つい笑ってしまった。
 雪さんって、こういう顔もするんだ。
 ちょっとだけど、前より雪さんのことを知れた気がする。

「読書以外だと、何をしてることが多い?」
「勉強かな。一応、三年生だし。受験がないから、焦りはないけどね」
「雪さんって、勉強は得意なの?」
「苦手ではないかな。好きかどうかは、科目による」
「変身部の部室では、いつも数学の問題集をやってるよね?」

 というか、数学以外を勉強しているところは見たことがない気がする。

「うん。私、一番数学が苦手だし嫌いだから」

 好きな科目じゃなくて、苦手な科目をやってたんだ。
 雪さんってきっと、真面目な人なんだろうな。

「じゃあ、好きな科目は?」
「社会と国語」
「それ、ももと一緒!」

 私がわざとらしく満面の笑みで笑うと、雪さんは口元に手を当ててくすっと笑った。

「質問ばっかりして……もも、そんなに私のこと気になるの?」
「うん」
「やっぱり。なのに、私の本名は聞かないんだ?」

 からかうように雪さんが笑う。心の中が全部見透かされたような気分になる笑顔だ。
 雪さんって、意外と表情豊かだよね。
 最初はもっと無表情で、クールって感じのイメージだったけど。

「強引に聞くのは、違うなって思ってるから」

 無理に本名を聞き出そうとは思わない。ただいつか、雪さんが私に教えたいと思ってくれたら、すごく嬉しいだろうな。
 その日がくるまで、私はちゃんと待つつもり。

「じゃあ、いつか教えてあげる」

 雪さんは悪戯っぽく笑った。小悪魔みたいな表情も、雪さんにはよく似合っている。

「ついでだし、私のことも変身部のことも、いろいろ聞いていいよ。答えるかは分からないけど」
「じゃあ、変身部って、どうやってできたんですか?」

 気になっていたけれど、聞けていなかったことだ。

「そうね。私の口からは、姫乃個人のことは言えないけど……」

 蓮、ではなく、雪さんは如月さんを姫乃と呼んだ。
 私だって呼んだことがない、如月さんの下の名前。

「私が、姫乃のために作ったの。学校にくるきっかけになったらなって」

 雪さんは長い髪を耳にかけ、ちょっとだけ寂しそうに笑った。その表情に、なんだか胸が締めつけられる。

「ねえ、もも。……いや、望結。一言だけ、伝えたいことがあるの。いい?」

 望結、と名前を呼ばれるのは初めてだ。
 今の私はももだけど、つい、頷いてしまう。

「姫乃と出会ってくれて、ありがとう」

 雪さんの目はすごく優しい。如月さんのことを本当に大切に思っているんだって伝わってくる。
 それに、心底私に感謝してくれてることも。
 だけど……。

「お礼を言われるようなことじゃないから」

 私だって、如月さんに出会えてよかったと思ってる。だからこそ、雪さんからお礼を言われるのは、なんか嫌だ。

「うん。そうだね。ごめん。でも、どうしても言いたくて」

 ちょっときつい返事をしてしまったのに、雪さんは穏やかな笑顔でそう言ってくれた。
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