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第2章 ようこそ、放課後変身部へ!

第6話 部活ネーム

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「じゃあさっそく、放課後変身部についてもっと詳しく説明するね」

 蓮さんは椅子に座って、長い足を見せつけるようにゆっくりと足を組んだ。
 その表情はとてもいきいきとしていて、見ているだけで嬉しくなってくる。

 ここでの如月さん……ううん、蓮さんは、こんな風に堂々と話す人なんだ。

「放課後変身部では、どんな格好をしても自由。僕たちは制服を着ていることが多いけど、別に私服だっていい」

 雪さんは頷くだけで、口を挟もうとはしない。あまり口数が多いタイプではないのだろうか。

「そして、前にも言ったけど僕たちには部活ネームがあって、それで呼び合うのがここでのルール」
「うん。それが、月城蓮さんと、佐倉雪さんって名前なんだよね」
「そう。そして、本名を呼ぶのは禁止」

 なるほど。放課後変身部の活動をしている間は、如月さんを本名で呼ばないように気をつけなきゃ。

「だから、委員長にも部活ネームをつけてもらう必要がある」
「部活ネーム……」
「うん。どんな名前でもいい。自分で、自分に名前をつけるんだよ」

 私は、天野って苗字も、望結って名前も別に嫌いじゃない。
 私の望みが実を結んで幸せになれますように、って両親が一生懸命考えてくれたことも知ってる。
 でも、私が考えた名前じゃない。
 自分で自分に名前をつける……なんて、すごく、わくわくしちゃうかも。

「二人は、どうやって部活ネームを決めたの?」
「僕は、格好良くて、中性的な名前、ってイメージで決めたかな」

 そう言って、蓮さんは手を顎にあて、少しだけ首を傾げた。
 わざとらしくて、ちょっぴり芝居がかったそんな仕草が、蓮さんにはよく似合っている。

「雪さんは?」

 蓮さんが雪さんに視線を向けると、雪さんも部活ネームの由来を教えてくれた。

「私は雰囲気、かな。ちょっと物静かそうで……それに、雪、って言葉の響きも、なんか好きで」
「なるほど……」

 確かに月城蓮、という名前は中性的な蓮さんの見た目にぴったりだ。
 佐倉雪、という名前も、物静かな文学少女、という印象の雪さんらしい。
 自分の見た目も名前も自由に決められるからこそ、イメージとぴったりな名前になってるんだろうな。

「まあ、焦らないで、ゆっくり決めたらいいよ。名前も、それ以外のことも」

 そう言って、蓮さんがにっこりと笑う。甘い笑顔には、やはり見惚れてしまった。

「見た目も、性別も、名前も、性格も、仕草も……ここでは、全部自由だから」

 全てが自由。まるで、真っ白なキャンバスに絵を描いていくみたいだ。

「ありがとう。ゆっくり、考えてみる」

 部活ネームはきっと、ここでの私を表す大切な名前。
 だからこそ、心の底からいいなって思える名前にしたい。

「うん。それと、変身部は活動日とか活動時間は決まってないんだ。だから、好きな時にきて、好きな時に帰っていいし、部室で何をしてもいい」
「やることがないってだけだけどね」

 雪さんが横から言って、呆れたように溜息を吐く。
 でもその表情はとても柔らかくて、変身部の活動が好きだってことが伝わってくる。

「で、最後に一つ。変身部で一番大事なルールは、他人に変身部の存在を言わないこと。いい?」
「うん、分かった。絶対、誰にも言わない」

 先生たちにも、クラスメートにも秘密の部活。なんだかアニメや漫画みたいでどきどきする。

「ありがとう。それ以外、たいていのことは自由だから」

 蓮さんが説明をそう締めくくると、雪さんが読書を始めた。ブックカバーをつけているから、どんな本を読んでいるのかは分からない。
 本当に、ここでは好きなことをしていいんだ。
 気が抜けるのと同時に、大きなあくびをしてしまった。そういえば、重度の寝不足だったのだ。

「眠いの? なら、寝ちゃってもいいんだよ」

 蓮さんに優しい声で言われたら、もう我慢できない。私はもう一度大あくびをして、机に突っ伏した。
 わずかに開いた窓から、生温い風が吹きこんでくる。正面の席からは、雪さんが本のページをめくる音が聞こえてくる。
 なんて居心地がいい場所なんだろう。

「おやすみ、委員長」

 耳元で、蓮さんが甘く囁いてくれた。
 学校で寝るなんて、生まれて初めて。私がそんなことをする日がくるなんて……。
 おやすみ、と蓮さんに返すよりも先に、私は睡魔に身をゆだねた。
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