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出汁巻き玉子と豚の角煮
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「あぁぁ………疲れたあぁぁぁ………」
年度初めの残業続きの毎日も今日で一段落。明日からは久しぶりの連休だ。
デスクにべしょっと崩れ落ちているとコン、と軽い音と共に缶コーヒーが置かれて顔を上げる。
「お疲れ。」
同期の一真が声を掛けてきた。一時期死にそうな顔してて心配してたけど、最近は大分顔色が良くなった。
「今日久しぶりに飲み行く?…ほら、何回か誘ってくれてたけど断ってて悪いなって思ってたし…」
ちょっと罰が悪そうにゴニョゴニョと誘ってくる一真に笑顔を返す。
「お、良いねえ。とはいえこの時間じゃなあ…」
時計が示す時間は終電の3本前くらいか。
「あ、俺さこういう時の取っておき知ってんだよ」
行けんなら早く行こうぜ、と歩き出そうとする一真を慌てて追いかける。
駅に着いて缶コーヒーを開ける。
次の電車が来るまではまだ時間がある。
「それにしてもさぁ、良かったよ」
何が?とこちらを見てくる一真の気配を感じながら缶コーヒーを一気に飲み干す。
甘いコーヒーの味が疲れた脳みそに栄養を送ってくる。
「…これでもさぁ、結構心配してたんだぞ。お前なんかさぁ、あん時めちゃくちゃ顔色わるかったし」
一真が苦笑する。
「…やっぱそう?」
同期の中でも飛び抜けて優秀で、配属された営業でもめちゃくちゃ期待されてたコイツ。一時期上司が変わって営業の方針が変わってからしばらくして、明らかに暗い顔をするようになって。
「なんかあったらさあ、話くらいしろよ」
「…ごめん。なんかさあ、余裕無くて」
「…おう」
俺はいつだって要領があんま良くなくて。うまくいかない時、いつもコイツはさりげなく俺を気遣ってくれた。だから、俺もさ、コイツが辛い時くらいなんかしてやりたかったんだけどな。
「…そんな顔すんなよ。あのな、今日の店、マジで俺の取っておきだから」
「まじぃ?若手エースさんの取っておき、期待しちゃって良いですか?」
「そんな騒げる感じじゃないけどな。良い店だよ…ほら、もうちょい気張れよ」
ちょうど電車が来て、終電間際のギュウギュウの電車に体を捩じ込む。
疲れた体にコレはきちぃ。
でも、アイツが取っておきっていうくらいなんだから良い店なんだろう。大した事無かったらアイツに奢らせてやる。
しばらく満員電車に揺られて、一真の家の最寄駅で弾き出されるように電車から降りる。
まだそこそこに人通りのある路地を歩いて、人気の少ない裏通りに入る。
ビルとビルの隙間に、ポツン、とその店はあった。
店名は無い。ただ、入り口の横に「営業中」とだけ札がかかっている。
へー。何ていうんだろう。凄い高級そうとか、派手な感じはしないけど確かに隠れ家っぽくて良い雰囲気だ。
ほんのりと良い匂いが漂ってきて、ぐう、と腹が鳴った。
一真がドアを開けると鈴を振るような女性の声が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ…あら、こんばんわ」
一真の顔を見ると少しだけ罰が悪そうな顔をして照れ笑いを浮かべていた。
なんかあったんか?
年度初めの残業続きの毎日も今日で一段落。明日からは久しぶりの連休だ。
デスクにべしょっと崩れ落ちているとコン、と軽い音と共に缶コーヒーが置かれて顔を上げる。
「お疲れ。」
同期の一真が声を掛けてきた。一時期死にそうな顔してて心配してたけど、最近は大分顔色が良くなった。
「今日久しぶりに飲み行く?…ほら、何回か誘ってくれてたけど断ってて悪いなって思ってたし…」
ちょっと罰が悪そうにゴニョゴニョと誘ってくる一真に笑顔を返す。
「お、良いねえ。とはいえこの時間じゃなあ…」
時計が示す時間は終電の3本前くらいか。
「あ、俺さこういう時の取っておき知ってんだよ」
行けんなら早く行こうぜ、と歩き出そうとする一真を慌てて追いかける。
駅に着いて缶コーヒーを開ける。
次の電車が来るまではまだ時間がある。
「それにしてもさぁ、良かったよ」
何が?とこちらを見てくる一真の気配を感じながら缶コーヒーを一気に飲み干す。
甘いコーヒーの味が疲れた脳みそに栄養を送ってくる。
「…これでもさぁ、結構心配してたんだぞ。お前なんかさぁ、あん時めちゃくちゃ顔色わるかったし」
一真が苦笑する。
「…やっぱそう?」
同期の中でも飛び抜けて優秀で、配属された営業でもめちゃくちゃ期待されてたコイツ。一時期上司が変わって営業の方針が変わってからしばらくして、明らかに暗い顔をするようになって。
「なんかあったらさあ、話くらいしろよ」
「…ごめん。なんかさあ、余裕無くて」
「…おう」
俺はいつだって要領があんま良くなくて。うまくいかない時、いつもコイツはさりげなく俺を気遣ってくれた。だから、俺もさ、コイツが辛い時くらいなんかしてやりたかったんだけどな。
「…そんな顔すんなよ。あのな、今日の店、マジで俺の取っておきだから」
「まじぃ?若手エースさんの取っておき、期待しちゃって良いですか?」
「そんな騒げる感じじゃないけどな。良い店だよ…ほら、もうちょい気張れよ」
ちょうど電車が来て、終電間際のギュウギュウの電車に体を捩じ込む。
疲れた体にコレはきちぃ。
でも、アイツが取っておきっていうくらいなんだから良い店なんだろう。大した事無かったらアイツに奢らせてやる。
しばらく満員電車に揺られて、一真の家の最寄駅で弾き出されるように電車から降りる。
まだそこそこに人通りのある路地を歩いて、人気の少ない裏通りに入る。
ビルとビルの隙間に、ポツン、とその店はあった。
店名は無い。ただ、入り口の横に「営業中」とだけ札がかかっている。
へー。何ていうんだろう。凄い高級そうとか、派手な感じはしないけど確かに隠れ家っぽくて良い雰囲気だ。
ほんのりと良い匂いが漂ってきて、ぐう、と腹が鳴った。
一真がドアを開けると鈴を振るような女性の声が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ…あら、こんばんわ」
一真の顔を見ると少しだけ罰が悪そうな顔をして照れ笑いを浮かべていた。
なんかあったんか?
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