おやすみご飯

水宝玉

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椎茸とナスの挽肉詰め天麩羅

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ああ、終わった。


もう私の人生には彼しかいないと思ってた。
彼に出逢うために生まれてきたんだと思った。

彼の為なら何でも出来たし、彼の為なら死んでも良いと思った。
彼が好きだと言ったから、ずっと伸ばしてきた髪も切ったし、ネイルだってやめた。
細い子が好きだって言ったから、10kg痩せた。
彼が好きな長めのスカートを履いて、彼の為に毎日彼が好きだっていうもので埋め尽くしてご飯を作った。
「美味しい」
そんなたわいもない言葉が何よりも嬉しくて毎日が幸せだった。

いつからだろう。
ご飯を作っても食べてくれない日が増えた。
帰る時間が少しずつ遅くなって、会える時間が減った。
彼を疑った事なんて無かった。
彼を責めた事も無かった。
彼が幸せでいれば他に何も要らなかったから。

でも。
「………俺達、別れよ?」
そんなあっけない一言で3年続いた蜜月は終わりを告げた。
「重いんだよ、なんていうか」
なんで。
なんで?
私はあなたを責めた事も無かった。
あなたにもっと好きになって欲しくて、あなたが好きだって言った通りの女の子になった。
あなただって、あんなに喜んでくれてたのに。
「そういうとこだよ…」
目も合わせてくれない。
やだ。
やだよ。
こんなの違う。
なんで?なんで?なんで??
ねぇ、どうして?
「沙羅の事が、俺もう、分かんない」
わかんないって。
私は私だよ。
何にも変わってない。
ただ、あなたの事が好きなだけだよ。
そばに居させてよ。
もっとあなた好みの女の子になるから。
「………分かんないなら、やっぱ、もう無理だよ」
目が合った。
見た事が無いくらい悲しそうに歪んだ目が私を捉えて、その顔をさせてるのが私だって気がついて
ああ、これはもうだめだって、それだけは分かった。

絶望感で世界が満たされていく。

数日がぼんやり過ぎた。
ここ数日間の事は悪い夢でも見ているみたいであんまり覚えてない。
仕事を終えて自分の家に帰ってきて、鍵を開けようとした時に、キーケースの中に彼の部屋の合鍵が無い事に違和感を感じて。
不意にこれが現実だって気がついて。
冷たい床にへたり込んで、わんわん泣いた。
夕暮れの光が差し込む部屋が暗くなって、全部が嫌になって目的も無く部屋を飛び出した。

大好きな彼が好きな大好きなもので満たされた部屋がどうしようも無く空っぽで、そこに座り込んでいる自分がなんだか酷く場違いで、自分の部屋なのに居場所が無くて。

何処かに行きたくて、でもどこにも行けなくて、もどかしくて思わず電車に飛び乗った。
ボンヤリ流れる景色を見ていたらまた涙が溢れてきそうだった。
……帰らなきゃ。帰りたく無いな。
一人でいたくなかった。
知らない駅で降りて、フラフラと街を彷徨う。
……おなか、すいたな。
きゅう、とこんな時でもお腹が鳴る。
ここ数日、何を食べたのかも覚えてない。
ふと。
雑居ビルの隙間に小さな灯りが目に入った。
光に誘われる虫のように、フラフラと足が引き寄せられる。

「いらっしゃいませ、こんばんわ」

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