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魔国編

26 白の空間と…

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何も聞こえない…
何も感じない…

さっきまで全身が凍えるほど感じていた威圧も殺意も…
渦巻く様々な気配や魔力も

全てが何も存在しなかったかのように感じるほどに…

私は何も感じなかった

恐る恐る目を開けるとそこは何もない真っ白な空間で、私は死んだのか…
と感じた

サキやリオン達はどうなったの ??
皆無事なの ?
リオンは…リオンは何処 ??

不安と恐怖に襲われ私は真っ白の空間で一人佇みポロポロと涙を落とした

「リオン…セバスさん、キール様、サキ…」

いくら名前を読んでも誰も声を返してくれない

「いや、嫌だよ…一人は嫌だよ…リオン…ねぇ、リオンお願い返事して !! リオン !! 一人にしないでよ !!」

声が出る限り名前を呼び叫び続けても周りは変わらず白い空間のままで私はその空間にずっと閉じ込められた
お腹も減らなければ喉も乾かず、生理現象なども起きない不思議な空間
どれくらいこの空間にいるのだろうか ?
呼んでも返してくれないことは分かっているのに呼んでしまう愛しい人の名前
もうこれ以上出ることは無いだろうと思うのに、勝手にこぼれ落ちていく涙

「リオン…リオンがいない世界なんて、時なんていらない…」

私はフラリと白の空間を歩いていく
どこまでも続く白い世界、自分しか感じられないこの空間
何を思い何を感じなんの為に歩き出したのか…
自分でも分からない中私はただただ前へと進んでいく

「リオンに会いたい…」
「リオンはどうしてるの ?」
「リオン…」
「あの頃に、戻りたい」
「時が戻せればいいのに」

フワリと白い世界に何か丸い物が浮かんだ
それに惹かれ近づいていくと段々それから音が聞こえてくる

カチ、コチ、カチ、コチ、カチ、コチ…

永遠と流れる一定のリズムと音
それは前世で聞いたことのある音だった

「これ…は、時計 ??」

そっと丸いものに触れると形が変わっていく
人一人が入れるほどの大きなボンボン時計
でもその時計はどこかで見たことのある時計だった

「これ、は…前世の雪だった頃に大爺曽祖父ちゃんに託されたボンボン時計」



ーーーーーーーー

頭に流れる昔の記憶
子供の頃田舎に住んでる大爺ちゃんがいる家に遊びに行ってかくれんぼしてよく隠れた時計
カチコチとリズム良く奏でる優しい音にいつもその中で眠りこけて大爺ちゃんに布団に運ばれてた
音が弱くなったり、リズムが狂うといつも大爺ちゃんとネジを巻いて時計の針を直ししばらく聞いていた
ずっとずっと一緒だったボンボン時計

ふと不思議なことを思い出した
いつも泊まった日の夜は夜中に必ず目が覚めた
なんの夢か分からないけれど怖い、とても怖い夢を見ていた気がする
目が覚めてグスグス夜中に一人で泣いているといつも鳴る時間でもないのにボーンと1回、昼間よりも大きな音を鳴らし大爺ちゃんを呼んでくれていた
家の中には他にもみんないるのに必ず大爺ちゃんだけが目を覚まし、時計のある部屋で寝ていた私の所に来てくれていた

「優しい時計」

大爺ちゃんが亡くなる寸前私はこの時計のネジを大爺ちゃんに託された

「この時計は生きとるんだ、時計が認めた者だけがネジを使うことができその者の時を刻む。この時計は時神の時計なんだよ」

そう言って頭を撫でて語ってくれた
大爺ちゃんの前は大爺ちゃんの母親がネジを持っていてその事を教えてくれたと言って笑っていた
選ばれた者だけがネジを回すことができ時を動かせる

「雪や。何が起きても時を恨んだらあかんよ、あの頃が良かったあの頃のままなら良かったのに…と恨んだらあかん」
「じゃあ戻りたいとか思ったても駄目なの ?」
「そうやって願う事は過ごしてきた時間を、時を拒絶することになる、恨んだことになるんだよ」
「うー、難しいよー」
「生きとし生けるもの皆全て時を刻む。それは例え神様だとしてもだ」
「神様も ?」
「そうだよ、神様も儂等とは比べられん程の時間を生きる。だがその時間を刻むのは、作るのは神様ではなくこの時神の時計なんだ」

そう言って部屋にある時計を見つめた
大爺ちゃんの視線を追い私も見つめる
カチコチ、カチコチといつもよりゆっくりなリズムで鳴る時計の音

「ネジ巻き直さないとだめかなぁ ? ねぇ、大爺ちゃん」
「あれは儂の時を刻んどる音じゃ、儂ももう長くない」
「そんなこと言わないで、まだいっぱい私は大爺ちゃんと生きるの」
「雪や、あの時計が次に大きく鳴り続けた時儂はもうこの世におらんだろう」
「大爺ちゃん」
「儂が死んだら次は雪、お前がこのネジを持ちあの時計の時を刻むんだ」
「私が ?」
「儂の次に認められた、選ばれたのは雪だからな」

カ…チ…コチ…カチ…コ…チ

「雪、お前は時神に選ばれた子だ、きっと何か意味がある」
「選ばれた意味 ??」
「儂がさっき言っただろう。時を…「恨むな、拒絶するな」そうだ」
「なら、私はこれからこうだったらじゃなくてこんな時にするって願うようにするよ !!」

…カチ…コ…チ、カ…チコ、チ

「あ…あ、ぁぁ…そして、幸せ、な時、を刻むん、だよ」
「うん、ねぇ大爺ちゃん。大好きだよ」
「………わ、しも、ゆ、きと、と、きを…すごせ、てし、あわせだっ、た」

カ、チン…ボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーンボーン…

鳴り止まない時計の音…
その時計の音を聞いたとき大爺ちゃんの時が止まったことを誰にも言われなくても理解した

「大爺ちゃん、私は時を…拒絶なんて絶対しないって、約束するからね」

ーーーーーーーー

「そう、だった…私はマリアンだから時の魔力を持ってると思ってた。でも違った。私はもともと時に愛されていたから…マリアンに転生したのね」

フワリと手の中に落ちてくる硬いもの大事に持っていてある日大爺ちゃんの娘である大叔母さんが時計を売ると無理矢理奪われてしまったネジ…
錆びてボロボロになりかけてしまっているネジ…
時計は私と離れた後どんな時を過ごしたのだろうか…

「ごめん…ごめんね…」

ぎゅと握りしめ涙が溢れ手を濡らしていく

「約束を守れずごめんね…なのに私を待っていてくれてありがとう」

じわりと暖かくなっていく手の中の物…

「これからは約束を守るよ。過ぎたときを恨むことも、拒絶する事ももうやめる」

手の中の熱が増えていき光が溢れる

「私は…皆と生きたい、例えこれから辛いことが起きてもそれは私が刻んだときだから…1分でも、1秒でも忘れず守り大切にし生きていきたい !!」

手の中にあったネジが光ったままフワリと浮き上がり手から離れ私の目の前に浮かぶ

「全ての時を刻み、時を知らせる。それが時の魔術であり時の魔法」
… そして全ての命あるモノの時を刻む神 …
「タイクロノス」

ボロボロになっていたネジが綺麗になり姿を変えていく
様々な色に変わる瞳と足元まである長い髪
今まで、見た事もないほどの美で作られた顔
男とも女とも言えない中性的な声と体型をした人がそこに立っていた
その人は私を見てフッと口元を緩め優しく見つめ下ろし口を開いた


… やっと我に気づいたか、我の愛しい子よ …
 




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