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獣国編

38 取り憑いて

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リオンの言葉に私も彼女も驚きのあまりなにも答えることができなかった…そして、しばらく黙った後ようやく理解した彼女はリオンに震える声で話しかけた。

「ま、まって…取り憑いているって ?? 転生でしょ ?」
「その身体の魔力を外から見せてもらったがぼんやりとだが二重になっていた。つまりその身体の持ち主の魂と別の魂、二つの魂がその身体に存在している事になる」
「ぅ…そ」
「現実だ」
「じ、じゃあ…もしかしてたまに聞こえる…返してって声は」
「その身体の持ち主の魂が訴えているのだろうな」
「そんな」

彼女は茫然としながらそんなと繰り返し呟いていた。
彼女が聞いたという声がその身体の持ち主本人で、そんな声を聞きながら気のせいか ? と思い生活していた彼女にとって今の言葉はどれだけショックだったのか…
転生ならば喜べるけれど、転生ではなく他人の身体を乗っ取ったとなると喜ぶなんてできない…
私だったら…そんなの耐えられないかもしれない…。

「な、ならわたしはなんなの ?」
「お前はどこから来た」
「わたし、は…彼女と同じ日本で…」

ノロリと視線を送ってくる彼女に私は首を横に降った

「私は日本で死んでこちらに転生したわ…貴女は向こうで死んだの ?」
「わたし…あれ ?最後の記憶は…体育の授業でドッチボールしてて頭にボールをぶつけて…あれ ?」
「その後は ?」
「…保健室に、直くんが連れてってくれ…て」
「うん」
「ベットで横に…」
「もしかして」
「その後の事覚えてない…」
「そう…リオン」

私は彼女が話しかけてから側に行き背中を撫でながら彼女の話を聞いた。
段々と小さくなっていく声…もしかして彼女はわたしが思っていたよりも小さかったのかもしれない。
高校生くらいかと思っていたけれど…もしかしたら
私はそう思い胸が苦しくなってリオンに声をかけた。
だけどリオンは首を横に降るだけでどうすればいいか分からない、どうしようもないと表現してくる。
どうしようと思い始めた頃ユーフラテス様が彼女に声をかけた。

「君は…身体の持ち主の声が聞けるのか ?」
「…た、まに声が聞こえるの」
「なら、今君の方から声をかけて見たらどうだ」
「わたし、から ?」
「ああ」
「声をかける…」

彼女は目を閉じ胸に手を当てながら言われたように自分の中に声をかけ始めた。
しばらくすると彼女の髪の間から大きめの耳が映えてきた、その事に私は少し驚いたが彼女が顔を上げた瞬間息を飲んだ。

普通より少し細いぐらいだったはずの目が…
キラキラとパチクリと真ん丸い目になっていて全体的の印象がものすごく変わっていたからだ…

「貴女は…」
「助けてくださり、ありがとうございます。わたくしの名前はモブナリ・ログイン、ログイン伯爵家の三女です」
「私はマリアン」
「リオンだ」
「はい、彼女の中で見ていました」
「聞いてもいい ? 中って…」
「はい。彼女が私の身体を使っている間私は彼女の中に閉じ込められていました…、ですが彼女が見たり聞いたり体験したことは全て私も見え聞こえ、感じていました」
「……」
「たまに彼女が私の身体を使うのが不安定なときがありました。その時に彼女に身体を返してって呼び掛けたんです。ですが、無視されてしまい…」

本物のモブナリ様が出てきたことで顔も彼女を取り巻く空気も全てが変わった事に動揺しつつ私は彼女の話に耳を傾けた。
彼女の話ではきっと日本人の彼女は今逆に本人の中で今の様子を見て聞いているのかもしれない…
今の状態を何とかして、もし彼女の身体が向こうで生きているのならば彼女を向こうに帰らせて上げたい…私はそう思った。

その後しばらくしてふと思い出したことがあった。
それは…

「モブナリ・ログイン殿…私はユーフラテス・ユーロともうします。貴女は私がずっとさがし続けていた番です。もし、貴方に婚約者がいなければ…私と番になってほしい」
「ユーフラテス様…私には婚約者等いません。番の事も嬉しいです…ですが、今の私は…」
「必ず私があなたを元に戻せるようになにか方法がないか探します。ですから私と番になってほしい」
「ユーフラテス様…」
「ユースと」
「ユース様……」
「君の事をモナと読んでもいいかい ?」
「はい…」

そう彼、ユーフラテス様の存在だ
ユーフラテス様は今まで(といってもつい先ほどだけど…)の姿とは想像できないほど凛とし色気をだし赤い目を光らせ彼女を、モブナリを見つめ声をかけていた。
その光景に私とリオンは空気になりただただ見ているだけだった。





ーーーーーーーー

オマケ

「ちなみにモブナリ様ってなんの動物なんですか ?」
「わたくしですか ??」
「はい !! 」
「わたくしは…ターシャですわ」
「ターシャ ? 誰かの名前 ?」
「ターシャ、またの名をメガネザルだ」
「あ、リオン」
「リア探したぞ」
「どうかした ??」
「あれほど離れるなと言っといたはずだがな」

そういって私の頬に指を当て顎に滑らせ持ち上げた。
そして近付いて来るリオンに見とれていたら視界の端に瞳を大きく明け口許をてで隠しながらまじまじと見てくるモブナリ様がいて…
私は恥ずかしさに駆られ逃げたのだった…

「誰もいないところでお願いしますわーーーー !!」





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