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菊桜銀行、古野森支店は平常通り
デートの申し込み(2)
しおりを挟む「デートしてくれなければ、俺はつづらのことを職場で、とても贔屓する」
何て言ったのだ、この社会人は。
いや、こんな発言をする人間が、社会の歯車なわけがない。
「嫌味を言われていたら、飛んで行って、つづらの良いところを懇々と説明するし、つづらの仕事が終わらなければ最優先でそちらを手伝う……事務はわからないけれど、今から学ぼう。そして仕事場ですれ違うたびに愛をささやく。飲み会では、つづらの隣に必ず座ることにする。いや、俺の膝の上に」
「もー! 止めてください!」
止まらない高峰さんの口を、物理的に抑えた。もちろん手である。
「『なんでもいうことを聞く券』を使って、デートしてくれなければ、強硬手段にでるぞ、とそういいたいんですね? つまりは!」
ふがふがふが、となにがしかを喋ったみたいだが、私の手の中で消した。
「本当に、何が目的なんですか」
高峰さんの口元に伸ばした手は、優しくつかまれ、いとも簡単に外された。
「法律うんぬんの話は、あれだな。わかりづらいな。途中から自分でも何言ってるかわからなかった。検事でも弁護士でもないのにな。ああ、約束手柄の方で例えたほうがよかったか?」
「結構です」
「期限がないから、小切手の方が近いか……? いや、小切手も一応期限があるしな……」
真剣に考え込んでいらっしゃる。
生暖かく見守れば、再び私に向けて口を開いた。
「つづらは、一か月の期間限定だが、他の人間のものにならない事、それからチャンスをくれることに了承した。なら、一か月のこの間、例え嫌だろうが、デートを了承してほしい。チャンスを欲しい」
真っすぐな瞳。
例え話をしなくたって、こんなに懇願しなくたって、高峰さんならばもっと強引な方法も思いついただろう。
けれど、それをしなかった。
私の「よし」を待っている。
犬みたい。
ただし大型犬でシェパード。
百八十センチ越えの身長を持つ彼は、みえない耳を垂れさせているみたいだった。
「わかりました。でも、今週はダメです。実家に帰るので」
「わかった。じゃあ、来週の土曜日に」
即、日にちを確定させるのは、できる男だからゆえなのか。
それとも、必死だからか。私ごときに? そんなまさか。
「大丈夫だ。つづら。嫌がることはしない。婚前交渉はしないと誓おう」
「デート自体が嫌なんですけど」
ていうか婚前交渉以外はする気なのだろうか。
「男は狼だ。好きな女性を前に何をするか保証ができないため、『婚前交渉はしない』というラインだけ引かせてくれ」
こっぱずかしいことを、真顔でいうような人だった。
私の頭の中を除いたような反応に、面を食らって言葉が出てこなかった。
「では、駅まで送ろう」
私の手のひらには、一枚の券。
小学校の時、私が確かに高峰さんに渡したもの。
有効期限でも書いておけばよかっただろうか。今更遅いけども。
ためいき一つついて、何故か嬉しそうな彼を睨んでおいた。
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