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第七章 君が多々良さんで、僕は

あなたにご提案(5)

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「多々良さん姉妹が、一人でもかけたら、残った二人は悲しみに暮れるでしょう。今も、あなたは小菊やマリちゃんに心配をかけて、暗い顔をさせている。多々良さん姉妹が好きな僕にとっては許せない現状です。そして、あなたが死ねば、多々良姉妹の悲しみは永遠に晴れることはないでしょう―――だから、結婚します」
 

「ちょ、っと待って」


 「あ、小菊でもいいです。男かどうかは置いておくとして、まぁひとまずオランダ国籍をとって結婚することにします。あなたを死なせないためなら、あの二人は、こんな欠陥人間と結婚することも苦にはしないでしょうから」


 「それって」

 「もしも、約束を破って、あなたが死んだ場合は、あなたの姉妹に、責任が回ってくると考えてください」


 「死んでしまったあなたが、寂しくないように、二人を殺します」


  ニコリ、と笑ってみる。ぎこちない表情になったと思う。小椿さんの目にはどう移ったのか、少なくとも、気持ちのいいものとして意識されるわけはない。


 「貴方が生きると言うなら、姉妹のどちらかと結婚しますし、貴方がどうしても死ぬというなら僕は姉妹を殺します」


  小椿さんは唇を震わせている

「自殺も一人じゃできない人間が何、を」

  胸ポケットに、シャーペンを入れておいて良かった。こういう時に使うものだと、三郎は暗に教えてくれていたのだろうか。そんなわけはないけれど。


  取り出したシャーペンで、左手首を刺す。

  悲鳴。


  ウサギの目から生えたシャーペンと同じ。左手首の静脈に向かって突き刺さるシャーペン。
 
 
  一人じゃ自殺できないのは、あなたもですよ、小椿さん。苦痛によって飲み込んだ言葉。
  
 吹き出した血は足元に水たまりを作る。
  
 シャーペンが栓となっている今、致命傷になるほどの出血にはまだなっていない。
  もう一本入れていたシャーペンを、小椿さんに向かって投げれば、いつかの時と同じようにキレイに掴む。
 
「姉妹を引き合いに出しても、動かないのならば、死を引き合いに出しましょう」

  白い指が、黒いシャーペンを握り締めている。


 「僕のことが好きなら、僕が寂しくないように、一緒に死んでください」

  赤い血は、じわじわと砂にとけていく。


 「そ、ん、なの」
 「だけど、僕が今まで言ったこと全てが嘘で、僕のことが好きだなんてのが嘘なら、自殺なんてしないでください」


  好きなら、死んで。


  嫌いなら、死ぬな。


  これが、僕にできるお膳立て。


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