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第六章 多々良さん探し 開始

小菊さんとさきっちょだけ(4)

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「ボクのことを好きになってくれなきゃ、困るんだよ」

 「なんだか。僕が小菊さんを好きにならなきゃいけない義務があるような言い方ですね」

 「そう聞こえるなら、そう言う事なんだよ」

 「会話の主導権を取られ始めましたが、小菊さん、追い詰められてること、わかってますか?」

  余裕をかましていた小菊さんとの距離は、あと三歩ほどだ。


 「取引をしよう……。これは、キミにとって価値のある取引だよ」

  冷や汗を額に浮かべながら発される台詞に、何を信じろと言うのか。苦し紛れの言葉にしか聞こえないけれど、僕は弱い立場の人間のコトも考えられるクズ人間の鏡なので、小菊さんの妄言の続きを促す。


 「キミが知りたいことを、教えてあげる。ただし、『一つだけ』か『たくさん』かを選ぶんだ」

 「どういうことですか?」

 「『一つだけ』なら、本当に、なんでも、一つ真実の答えを教えてあげる。『たくさん』なら、君が出す質問全
部に答えてあげる。ただし、それは真実じゃない可能性もある。嘘を織り交ぜる」

  なかなか面白い提案をしてくる。

 「多々良さんは誰か、と聞いても、答えてくれるんですか?」

 「『一つだけ』の場合は、真実を、絶対教える」

  小菊さんは僕の反応に、微笑んだ。僕が、その答えを他人から求めていない―――ということを知っている、理解しているのだろう。

  そう、僕が見つけなければいけない答えを、小菊さんから聞くことはない。

 「『たくさん』を選択しましょう。僕の気が済むまで答えてください。その代り、あなたのことを女だと思って、これからもずっと接していくことにします。むしろその方が幸せなのかもしれないと思ってきたことは内緒です」

 「なんだかよくわからないけれど、質問どうぞ」


  背後の扉にへばりついてい小菊さんは、そこから離れ、すぐそばに置いてあったダンボールの上に座った。僕はその目の前に、まるで靴磨きをする少年のように座り、問いかける。


「あなたの家族構成を教えてください」
「姉が一人と、妹が一人」

「血液型は?」
「AB」


「星座は?」
「ふたご座」


「姉妹のことは好きですか?」
「んー大嫌い」

  くすっ、っと声を立て、小菊さんは笑う。

 「そんなんじゃ、嘘か本当かなんて、すぐ分かっちゃいますよ?」

 「表情を読むことができない尋問なんて、痛くもかゆくもない」


  言葉に詰まる。全体として認識することができないから、些細な表情の変化など、僕にはわからないのだ。

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