上 下
49 / 95
第六章 多々良さん探し 開始

小手毬さんとうさぎのお世話(2)

しおりを挟む


「悪女と、魔女……じゃあ、ツバキさんは、何なんですか?」

 「ん、んー? お姫様、かな」

 「一番可愛らしいですね、なぜですか?」

 「そんな感じ、しない?」

  昨日の夜を思い出してしまう。長い手足の、つややかな黒髪の、制服姿のお姫様。

 「お姫様は、スーパーが嫌いなんですね」

  きっと、地元密着の小売店などでは彼女を満足させることができないのだ。
 高潔な彼女はきっと自分で買い物に行くことなく、執事やメイド、を使わせるのだ。
 
 シャーシンにもこだわりがあるのだろう。きっとg一万円くらいのシャー芯でなければツバキさんの唯一無二のシャーペンは受け付けない。
  
 僕の中で多々良ツバキが、取り返しのつかなくなるくらいのお嬢様になってしまう前に考えを止めることにした。
  マリちゃんは、
 
「え? そうなの?」
  
と、珍しく素直に聞き返した。

 「昨日、そう言ってたんです。この町の文房具店が嫌いだとも言ってました」


  しばらく何かを考えたような素振りをした後、合点が行ったように、マリちゃんは「ああ」と言い

「多分、ツバキちゃんは、別にスーパーも、この町の文房具店も、嫌いじゃないよ。ただ」

  廊下の途中で足を止めた。

  ただ、本当に嫌いなのは―――。


 「ひとのめ」

  ふとすれば、風に消えてしまいそうな言葉を、聞き漏らすことはなかった。

 「人の、目?」
 「見られることが嫌なの」

  人の目が気になる、なんて、なんて人間的な悩みなのだろうか。
  あの、崖の上に咲く染み一つない真っ白い花のような、どこか現世に存在しているというのが信じられないような、多々良さん候補の一人が、そんな人間的な悩みを持つだなんて。

  とても、気になる。


 「ツバキちゃんは、見られたくなくて、誰からも、視線を向けて欲しくなくて、それで」

  マリちゃんの言葉はそれ以上続かなかった。

  言いにくい事情があるのだろうか、うつむいたまま、口を開くことはない。

  ならば聞かないのは紳士であれば当然のことである。けれど。

  気になる。
  ツバキさんは、一体何をしたと言うのか。

  思わせぶりなセリフが多いのは、十分に小悪魔であるという証拠になるよ、マリちゃん。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...