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第六章 多々良さん探し 開始

小手毬さんとうさぎのお世話(2)

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「悪女と、魔女……じゃあ、ツバキさんは、何なんですか?」

 「ん、んー? お姫様、かな」

 「一番可愛らしいですね、なぜですか?」

 「そんな感じ、しない?」

  昨日の夜を思い出してしまう。長い手足の、つややかな黒髪の、制服姿のお姫様。

 「お姫様は、スーパーが嫌いなんですね」

  きっと、地元密着の小売店などでは彼女を満足させることができないのだ。
 高潔な彼女はきっと自分で買い物に行くことなく、執事やメイド、を使わせるのだ。
 
 シャーシンにもこだわりがあるのだろう。きっとg一万円くらいのシャー芯でなければツバキさんの唯一無二のシャーペンは受け付けない。
  
 僕の中で多々良ツバキが、取り返しのつかなくなるくらいのお嬢様になってしまう前に考えを止めることにした。
  マリちゃんは、
 
「え? そうなの?」
  
と、珍しく素直に聞き返した。

 「昨日、そう言ってたんです。この町の文房具店が嫌いだとも言ってました」


  しばらく何かを考えたような素振りをした後、合点が行ったように、マリちゃんは「ああ」と言い

「多分、ツバキちゃんは、別にスーパーも、この町の文房具店も、嫌いじゃないよ。ただ」

  廊下の途中で足を止めた。

  ただ、本当に嫌いなのは―――。


 「ひとのめ」

  ふとすれば、風に消えてしまいそうな言葉を、聞き漏らすことはなかった。

 「人の、目?」
 「見られることが嫌なの」

  人の目が気になる、なんて、なんて人間的な悩みなのだろうか。
  あの、崖の上に咲く染み一つない真っ白い花のような、どこか現世に存在しているというのが信じられないような、多々良さん候補の一人が、そんな人間的な悩みを持つだなんて。

  とても、気になる。


 「ツバキちゃんは、見られたくなくて、誰からも、視線を向けて欲しくなくて、それで」

  マリちゃんの言葉はそれ以上続かなかった。

  言いにくい事情があるのだろうか、うつむいたまま、口を開くことはない。

  ならば聞かないのは紳士であれば当然のことである。けれど。

  気になる。
  ツバキさんは、一体何をしたと言うのか。

  思わせぶりなセリフが多いのは、十分に小悪魔であるという証拠になるよ、マリちゃん。


 
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