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第六章 多々良さん探し 開始

小椿さんと、うさぎのお世話(3)

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「マリちゃんが死ぬとしたら、どんな理由ですか?」

  小学生とする会話にしては、殺伐とした話題提供だったが、多々良家の人間が優しいのか、マリちゃんが優しいのか、素直に答えてくれた。

 「自分を、思い出させたいとき、かな」


  また、小学生らしからぬ回答である。

 「死ぬっていうのは、とても、怖い事で、すべてのことの、最後の方法だと思うの」

  彼女は、自分のためではなく、他人の意識に生き返るために、死ぬと言う。

  明言はしていないけれど、言葉の裏をたどれば、そう言う事だと思った。

  マリちゃんはつぶらな瞳でこちらを見据える。


 「知ってる? 動物って自殺しないんだよ?」

  洗い終わったエサ入れを、ウサギ小屋のすぐそばにあった布巾で拭いて、小屋に戻したマリちゃんは、中に
入ったまま出てこない。


  まるでマリちゃんもウサギになったかのようである。静かに、彼女は自分より弱い生き物を見つめている。な
らば、僕も小屋の中に入ろう。五畳ほどの大きな小屋の中、ウサギ三匹と人間二匹。


 「ウサギは、可愛いなぁ」

  幼女と並んで、ウサギを観察する。

  白い綿毛の塊は、人間なんか意も介さず跳ね回っている。ふ、と、何やら一匹様子がおかしいように見えた。

  僕の目線に気付いたのかマリちゃんは。


 「一匹だけ、体調が悪いの。あのね、噂なんだけど、マリの先生が夜な夜なウサギ小屋にやってきて血を吸ってるからなんだって。本当だと思う?」

 「マリちゃんが良い子にしてたら、元気になりますよ」

 「また子供扱いして!」

  そっぽを向かれてしまった。

  僕も、子供のころは、怖い話、信ぴょう性の薄い話、出所がいまいち怪しい話、など、自分とは違う世界のものにあこがれたものである。さっきの女の先生とやらも、どうせウサギの世話をかいがいしく焼いていただけであろう。

  子供というのはえてして尾ひれや背びれをお話の中に付けたがるものだと思う。
 
「これ以上子供扱いするんだったら、私、自殺しちゃうんだからね!」

  そんな、家出すると同じ感覚で言ってもらいたくない。

 「マリちゃんは、自殺しませんよ」


  怪訝そうな顔をして、マリちゃんは僕の顔を覗く。


 「なんで?」

 「ウサギさんみたいに可愛いから」

  動物は自殺しない。

  うまい事を言ったつもりだったのだけど、また顔を背けられてしまった。


  多々良さん相手に主導権を取ろうとしたのが間違いだったのかもしれない。彼女は例え小学生でも、多々良さんなのである。自殺した可能性もある、彼女なのだから。

  後姿から見えるのは、彼女の、少し赤くなった耳だけで。



  これ以降の今日、マリちゃんは、ずっと不機嫌だった。

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