上 下
79 / 109
第四章 レイラとして、私として

魔物と黒い手鏡は突然に(3)

しおりを挟む

「千里眼の女、という人から買ったのよ。大丈夫だわ。出てくるのは、私にとって都合のいい魔物よ」
 
 にっこりと、ピルチュイさんは微笑んでいる。
 私が魔法を使い、ピルチュイさんの鏡をはたき落とす前に、召喚はなされた。

 なされてしまった。
 
 手鏡から、黒い煙があふれだし、あたりを包み込む。
 鼻を突くような匂いと、ピリピリとした肌の痛みは、魔界の瘴気の特徴だった。
 
 手鏡は地面に落ちる。

「ピルチュイさん!」
 
 ピルチュイさんは、意識を失ったように、その場に倒れこんでしまった。
 女の子二人は、彼女に駆け寄る。
 
 私も、ピルチュイさんに駆け寄りたいところ、だけれど。
 そんなわけにもいかない。
 
 目の前には魔物が三匹。
 犬の形が二匹と、鳥の形が一匹。
 
 真っ黒い容貌は、魔のものであることを表していた。
 瘴気を見にまとい、触ることさえも、毒だということをうかがわせる。
 
 ピルチュイさんは多分、千里眼の女に良いように言われて、魔物を召喚する鏡を買ったのだろう。安全な魔物だよ、とか。あなたのいうことを聞く魔物だよ。とか。
 
 本来なら、千里眼の女は一発キャラだから。
 こんなところで名前を聞くことはなかったはずだ。
 
 すべてが狂ってきている。
 多分、誰も、助けに来ない。
 
 千里眼の女は、もしかすると、対象が私ということを知っていたのかもしれない。
 前回でのことの恨みを持って、今回のことが起こった、とそう考えるべきかもしれない。
 
 ピルチュイさんの隣にいた二人の女の子は、学業ができるが、魔法はそうでもなかったはずだ。二人はただおびえて、ピルチュイさんの横にいる。

 彼女が倒れてしまった今、この中で、一番魔法が使えるのは、私。

 杖を取り出す。
 なんとしても、魔物を倒さなければならない。 

 自身に防御魔法、自動回避魔法をお守り程度にかける。
 魔物相手に、どれだけ通用するかなんて、わからない。

 こんな時に、テオがいたら……。
 考えても仕方がない。
 
 にらみ合いが続いた。
 
 刹那。
 
 犬の魔物が二体、同時に襲い掛かってきた。
 自動回避、のち、魔物の一匹を杖で殴ることに成功する。
 
 軽い脳震盪を起こした犬に追撃で空に飛ばすことができた。
 
 杖で直接殴ったのは、何も思いつかなかったからである。
 
 テオの魔法塾の成果がでて、何かを空に飛ばす魔法等、詠唱なしでできる者はあるのだけど。
 
 空に飛ばされた一匹の犬は、犬かきのように空をかいている。
 魔法学校校舎、屋上の高さまであげた。のろしのように、この事態を誰か気づいてくれればいいのだけど。

「れ、レイラさん!」
 女の子が叫んだ。

 鳥が私めがけて突進してきていた。
 狙いが定まりにくい。

 が、自動回避は成功した。
 けれど、鳥は私の横をすり抜けて、地面に落ちていた、黒い手鏡をくわえた―――?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー

光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。 誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。 私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。 えぇ?! 私、仙人になれるの?! 異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。 それなら、仙人になりまーす。 だって、その方が楽しそうじゃない? 辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。 ケセラセラだ。 私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。 まぁ、何とかなるよ。 貴方のこと、忘れたりしないから 一緒に、生きていこう。 表紙はAIによる作成です。

泥酔魔王の過失転生~酔った勢いで転生魔法を使ったなんて絶対にバレたくない!~

近度 有無
ファンタジー
魔界を統べる魔王とその配下たちは新たな幹部の誕生に宴を開いていた。 それはただの祝いの場で、よくあるような光景。 しかし誰も知らない──魔王にとって唯一の弱点が酒であるということを。 酔いつぶれた魔王は柱を敵と見間違え、攻撃。効くはずもなく、嘔吐を敵の精神攻撃と勘違い。 そのまま逃げるように転生魔法を行使してしまう。 そして、次に目覚めた時には、 「あれ? なんか幼児の身体になってない?」 あの最強と謳われた魔王が酔って間違って転生? それも人間に? そんなことがバレたら恥ずかしくて死ぬどころじゃない……! 魔王は身元がバレないようにごく普通の人間として生きていくことを誓う。 しかし、勇者ですら敵わない魔王が普通の、それも人間の生活を真似できるわけもなく…… これは自分が元魔王だと、誰にもバレずに生きていきたい魔王が無自覚に無双してしまうような物語。

領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください

悠木真帆
恋愛
冒険者ギルド職員のサリサは冒険者たちの活動のために日々事務仕事に追われている。そんなある日。サリサの観察眼に目をつけた領主ヴィルテイト・リーベルトが冒険者ギルドにやってきてダンジョンで見つかった変死体の謎解きを依頼してくる。サリサはすぐさま拒絶。だが、その抵抗を虚しく事件解決の当事者に。ひょんなことから領主と冒険者ギルド職員が組んで謎解きをすることに。 はじめは拒んでいたサリサも領主の一面に接して心の距離が縮まっていくーー しかし事件は2人を近づけては引き離す 忙しいサリサのところに事件が舞い込むたび“領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください”と叫ぶのであった。

【猫画像あり】島猫たちのエピソード

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
【保護猫リンネの物語】連載中! 2024.4.15~ シャーパン猫の子育てと御世話の日々を、画像を添えて綴っています。 2024年4月15日午前4時。 1匹の老猫が、その命を終えました。 5匹の仔猫が、新たに生を受けました。 同じ時刻に死を迎えた老猫と、生を受けた仔猫。 島猫たちのエピソード、保護猫リンネと子供たちのお話をどうぞ。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

処理中です...