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第一章 愉快な攻略対象たち
テオに怒られるのは覚悟してました(1)
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「オレとお前の関係はなんだ」
「友達です」
「馬鹿か!」
なぜ私は自室で正座させられているのだろう。
入学式も無事終わり、五体満足でおうちに帰ってきた私に、テオは何の文句があるというのだろうか。
「もう一度聞く。オレとお前の関係はなんだ?」
「保護者?」
「このボケ!」
うう、とテオの強い言葉に打ちのめされる。
フィリと日向ぼっこの最中、鬼の形相でテオはやってきた。
そこから問答無用でクルト君と相乗りの馬車に突っ込まれ、帰宅した次第である。
話すことがある、と、言われ、自室の中でこうしてテオと二人向かい合っているわけだけど。
「契約関係にある、妖精と人間だろ?」
もっともです。
積み重なる参考書に腰かけ、銀髪の妖精さんは私を睨みつけている。
「お前に何かあると、オレは、妖精として人間の危機を守れなかった妖精のレッテルが貼られる。わかってるよな?」
はい、存じてます。
この国では、成人するまで妖精と契約を結び、彼らと助け合い成長していく。
妖精交じりのフィリには、そのような妖精はいないが、これは特例。
成人になるまで、人間は妖精に守ってもらう。
妖精側のメリットは、ほとんどない。
長寿の彼らにとって、人間の十八年など、瞬きの間の出来事だからだ。ただの娯楽であったり、人間への興味であったりが多い。というかそれがほとんどだ。
妖精は好奇心旺盛で、人間が好きな種族であるらしい。
そういえば、テオは、なんで私と契約をしてくれたのだろう。
「あの黒髪男の妖精みたいに、ちんまい作業だけができるわけじゃねえんだよ。オレみたいな能力のある妖精がぁ? お前のお守りすらできないなんて、他の妖精に何て言われるかわかるかぁ?」
黒髪男とは、アカツキ君だ。
アカツキ君のトーンのように、一つのことに特化する妖精がほとんどである。
テオが、言ってしまえば異常だ。
「魔法学校の入学式に遅刻しやがって、そのうえ、妖精交じりの男と屋上で寝て。どうやって忍び込んだんだよ! なんでそんな発想になるんだよ! 頭お花畑か!」
「ご、ごめんなさい……」
テオの怒号が飛ぶ。
耳をふさいでも多分指の間をすり抜けて入ってくるレベルの声量だ。
ちんまいのに、怒る声だけ大きい。
「あ、テオ、質問、しつもーん。そういえば、テオが私のこと見つけるの遅かったけど、なんで? 結構時間たってたよね?」
あ、テオの地雷を自分で踏んでしまった気がする。
妖精さんの小さい眉間にたくさんのしわが寄っている。
先ほどの怒声が飛んでくると思ったが、違った。
「それは、あの妖精交じりの魔法の影響だよ。なんかの魔法で、存在を薄くしてたんだよ。多分、教師とか、お前ら以外の人間に見つからないように」
テオは目を反らした。
口元はへの字にまがり、ばつが悪そうな顔、である。
もしかすると、私をすぐに探せなかったことを悔やんでいるのだろうか。
それか、彼のプライドの問題かもしれない。
言い方は悪いが、テオの感知魔法が、フィリに負けたということだからだ。自分の妖精としての能力に自信を持っているテオだ。少々気にしててもおかしくない。
「テオ、ごめんね?」
「……何が」
「えっと……心配かけて」
銀髪の妖精さんは、腰かけていた参考書から離れ、私の目の前まで浮遊してきた。
「わかってるなら、いい」
小さな小さな手が、私の額に触れ、
「あいたっ!」
デコピンされた。
「お前が、事故にあってなくて、本当に良かった」
ほほに手が触れる。
小さく、優しい手だ。
テオは本当に優しい。
「友達です」
「馬鹿か!」
なぜ私は自室で正座させられているのだろう。
入学式も無事終わり、五体満足でおうちに帰ってきた私に、テオは何の文句があるというのだろうか。
「もう一度聞く。オレとお前の関係はなんだ?」
「保護者?」
「このボケ!」
うう、とテオの強い言葉に打ちのめされる。
フィリと日向ぼっこの最中、鬼の形相でテオはやってきた。
そこから問答無用でクルト君と相乗りの馬車に突っ込まれ、帰宅した次第である。
話すことがある、と、言われ、自室の中でこうしてテオと二人向かい合っているわけだけど。
「契約関係にある、妖精と人間だろ?」
もっともです。
積み重なる参考書に腰かけ、銀髪の妖精さんは私を睨みつけている。
「お前に何かあると、オレは、妖精として人間の危機を守れなかった妖精のレッテルが貼られる。わかってるよな?」
はい、存じてます。
この国では、成人するまで妖精と契約を結び、彼らと助け合い成長していく。
妖精交じりのフィリには、そのような妖精はいないが、これは特例。
成人になるまで、人間は妖精に守ってもらう。
妖精側のメリットは、ほとんどない。
長寿の彼らにとって、人間の十八年など、瞬きの間の出来事だからだ。ただの娯楽であったり、人間への興味であったりが多い。というかそれがほとんどだ。
妖精は好奇心旺盛で、人間が好きな種族であるらしい。
そういえば、テオは、なんで私と契約をしてくれたのだろう。
「あの黒髪男の妖精みたいに、ちんまい作業だけができるわけじゃねえんだよ。オレみたいな能力のある妖精がぁ? お前のお守りすらできないなんて、他の妖精に何て言われるかわかるかぁ?」
黒髪男とは、アカツキ君だ。
アカツキ君のトーンのように、一つのことに特化する妖精がほとんどである。
テオが、言ってしまえば異常だ。
「魔法学校の入学式に遅刻しやがって、そのうえ、妖精交じりの男と屋上で寝て。どうやって忍び込んだんだよ! なんでそんな発想になるんだよ! 頭お花畑か!」
「ご、ごめんなさい……」
テオの怒号が飛ぶ。
耳をふさいでも多分指の間をすり抜けて入ってくるレベルの声量だ。
ちんまいのに、怒る声だけ大きい。
「あ、テオ、質問、しつもーん。そういえば、テオが私のこと見つけるの遅かったけど、なんで? 結構時間たってたよね?」
あ、テオの地雷を自分で踏んでしまった気がする。
妖精さんの小さい眉間にたくさんのしわが寄っている。
先ほどの怒声が飛んでくると思ったが、違った。
「それは、あの妖精交じりの魔法の影響だよ。なんかの魔法で、存在を薄くしてたんだよ。多分、教師とか、お前ら以外の人間に見つからないように」
テオは目を反らした。
口元はへの字にまがり、ばつが悪そうな顔、である。
もしかすると、私をすぐに探せなかったことを悔やんでいるのだろうか。
それか、彼のプライドの問題かもしれない。
言い方は悪いが、テオの感知魔法が、フィリに負けたということだからだ。自分の妖精としての能力に自信を持っているテオだ。少々気にしててもおかしくない。
「テオ、ごめんね?」
「……何が」
「えっと……心配かけて」
銀髪の妖精さんは、腰かけていた参考書から離れ、私の目の前まで浮遊してきた。
「わかってるなら、いい」
小さな小さな手が、私の額に触れ、
「あいたっ!」
デコピンされた。
「お前が、事故にあってなくて、本当に良かった」
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小さく、優しい手だ。
テオは本当に優しい。
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