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第一章 愉快な攻略対象たち
不思議な男の子はお日様が好き(2)
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入学式は、はぐれもの二人をおいて、滞りなく始まっており会場の門は閉まっていた。
今から、入ることはできないだろう。
割り当てられた自分のクラスで、入学式が終わるのを待つのが最善だろう。
さて、ここからも問題がある
度重なるイレギュラーによって、ここから先、今日この日が、一体どういうイベントになるのかがわからないのだ。
いや、レイラ、考えろ。
一つ一つのイベントを攻略すればいいというのは、二次元だけだ。
三次元では、行間がある。
イベントの間にも、主人公は、私は、生存している。
そして、それは攻略対象たちもそうだ。
少なくとも、全てのアカツキ君のイベントをこなせば、アカツキ君のエンドに入れるわけではない―――かもしれない。
だって、ここはリアルなのだから。
確かに、感触のある、熱のある、空間。
背中をつつかれる。
「ボク、行くね」
考え事をしていた私に、フィリはそう告げる。
「あ、待って」
「……?」
「送ってくれてありがとう」
間に合わなかったけど。
フィリは小首をかしげて、少し考えるような仕草をした後、会釈をするようにしながら、中庭のほうに、ゆっくり歩いて行った。
どうやら、彼はクラスのほうには行かず、今日はこのままさぼるみたいだ。
入学式の後は、一応担任の自己紹介や、クラスメイト同士の紹介があると思うのだが、フィリにとっては些細なことなのだろう。
彼が、マイペースに行動するのには少々理由がある。
妖精交じりは、人間離れした魔法が使える分、人間と同じような生活リズムが苦手だったりする。混ざっている妖精の種類にもよるが、日の光に当たり続けなければ体調不良になる、だとか、砂糖菓子しか食べられない、だとか。
制約が、身体にかかるのだ。
しかし、その個人の特性は、この国であまり認知されない。
だから、フィリ君の行動は、マイペースというより、自分勝手というように見られてしまうのだ。
彼の特性を知っているのは、理解できるのは、この学校で私だけだ。まだ。
一か月後に、授業中に、突然、私の膝の上に倒れてしまったフィリ君を、保健室に連れていく、というイベントがある。
本当なら、そこから、彼の特性、悩みを知るのだ。
遠ざかっていく彼の後ろ姿。少し、ふらふらしているようにも見える。
魔法を使いすぎてしまったのかもしれない。
―ーーここで、また主人公の取るべき行動と、違う行動をして、今後のイベントが変わる可能性がある。
平和な乙女ゲー世界生活の計算が狂ってしまうかもしれない。
一番安定の、アカツキ君のルートから離れてしまうかもしれない。
でも、ここで、彼を見なかったことにするのは、何かが違う。
それは私じゃない。レイラでもない。
「フィリ君、私、屋上の鍵、開けられるから、そこで日光浴しよ!」
廊下の向こうにいる彼に叫ぶ。
植物の妖精交じりの彼は、日光に十分当たり、睡眠をとることで、自身の姿を保つことができる。私を抱え、急いで入学式まで駆けてくれた彼は、多分、エネルギー切れ寸前である。
中庭に行き、より高い木の上に行き、日に当たる。
けれど、それよりも、もっといい場所を、私は知っているのだ。
ゆっくりと、白髪の頭はこちらを向く。
紫色の瞳は細まり、嬉しそうに微笑んでいた。
真っ赤なハイヒールを脱いで、彼に近寄った
今から、入ることはできないだろう。
割り当てられた自分のクラスで、入学式が終わるのを待つのが最善だろう。
さて、ここからも問題がある
度重なるイレギュラーによって、ここから先、今日この日が、一体どういうイベントになるのかがわからないのだ。
いや、レイラ、考えろ。
一つ一つのイベントを攻略すればいいというのは、二次元だけだ。
三次元では、行間がある。
イベントの間にも、主人公は、私は、生存している。
そして、それは攻略対象たちもそうだ。
少なくとも、全てのアカツキ君のイベントをこなせば、アカツキ君のエンドに入れるわけではない―――かもしれない。
だって、ここはリアルなのだから。
確かに、感触のある、熱のある、空間。
背中をつつかれる。
「ボク、行くね」
考え事をしていた私に、フィリはそう告げる。
「あ、待って」
「……?」
「送ってくれてありがとう」
間に合わなかったけど。
フィリは小首をかしげて、少し考えるような仕草をした後、会釈をするようにしながら、中庭のほうに、ゆっくり歩いて行った。
どうやら、彼はクラスのほうには行かず、今日はこのままさぼるみたいだ。
入学式の後は、一応担任の自己紹介や、クラスメイト同士の紹介があると思うのだが、フィリにとっては些細なことなのだろう。
彼が、マイペースに行動するのには少々理由がある。
妖精交じりは、人間離れした魔法が使える分、人間と同じような生活リズムが苦手だったりする。混ざっている妖精の種類にもよるが、日の光に当たり続けなければ体調不良になる、だとか、砂糖菓子しか食べられない、だとか。
制約が、身体にかかるのだ。
しかし、その個人の特性は、この国であまり認知されない。
だから、フィリ君の行動は、マイペースというより、自分勝手というように見られてしまうのだ。
彼の特性を知っているのは、理解できるのは、この学校で私だけだ。まだ。
一か月後に、授業中に、突然、私の膝の上に倒れてしまったフィリ君を、保健室に連れていく、というイベントがある。
本当なら、そこから、彼の特性、悩みを知るのだ。
遠ざかっていく彼の後ろ姿。少し、ふらふらしているようにも見える。
魔法を使いすぎてしまったのかもしれない。
―ーーここで、また主人公の取るべき行動と、違う行動をして、今後のイベントが変わる可能性がある。
平和な乙女ゲー世界生活の計算が狂ってしまうかもしれない。
一番安定の、アカツキ君のルートから離れてしまうかもしれない。
でも、ここで、彼を見なかったことにするのは、何かが違う。
それは私じゃない。レイラでもない。
「フィリ君、私、屋上の鍵、開けられるから、そこで日光浴しよ!」
廊下の向こうにいる彼に叫ぶ。
植物の妖精交じりの彼は、日光に十分当たり、睡眠をとることで、自身の姿を保つことができる。私を抱え、急いで入学式まで駆けてくれた彼は、多分、エネルギー切れ寸前である。
中庭に行き、より高い木の上に行き、日に当たる。
けれど、それよりも、もっといい場所を、私は知っているのだ。
ゆっくりと、白髪の頭はこちらを向く。
紫色の瞳は細まり、嬉しそうに微笑んでいた。
真っ赤なハイヒールを脱いで、彼に近寄った
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