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第一章 愉快な攻略対象たち

過保護な自称兄と(2)

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「レイラ? 入っていいかい?」

 クルト君だ。噂をすればなんとやらだ。

「いいよ!」
 扉が開かれ、大量の本を抱えたクルト君が入ってきていた。
 魔法を使って重さをなくしてるのだろう、軽々持っている。

「レイラ、魔法学校への入学の準備は進んでいるかい?」
 本を私の机の上に置いた後、柔和な笑顔でクルト君はこちらを優しく見つめた。
 茶色のさらさらとした髪の毛。緑色の目は利発そうな印象しか与えない。
 私よりとても高い身長。ベッドに座る私は彼をとても見上げるかたちになる。

 魔法学校の制服を着ているのを見ると、どうやら学校帰りに直接私の部屋に来たらしい。
 テオのような妖精は、彼にはいなかった。
 この国の成人年齢は十八歳。妖精との契約は成人までの人もいる。
 成人になると同時に、自身の妖精と契約を切り、円満にさよならをしたらしい。
 だから彼には妖精がいない。

「レイラ?」
「あ、うん……じゃないや、はい、クルト兄様」
「ど、どこかのお嬢様が現れたかと思った。どうしたんだ急に」
「魔法学校の先輩になるわけだし、年上だし、敬意を払ってみたんだけど……だめ?」
「ダメじゃないけど」
 
 クルト君は顔をくしゃくしゃにして笑っている。
 どうやら私の渾身の猫かぶりは、クルト君にとっては面白いものらしい。

「レイラは家族なんだから、そういうのはいいんだって」
「家族……」
「そう、妹。僕の妹だよ」

  そういうだろうとは思っていた。
 二歳年上のクルト君は、私が居候させてもらってる家の息子だ。クレーデル家の息子。
 私の家と同じくらいの貴族だ。父方の親戚にあたる。
 
 この家も、父親が魔法騎士であり、王のために日夜働いている。
 私の家の事情を分かってくれて、まるで本当の家族のように接してくれている。
 その優しさはよく知っている。

「ほら、これ、僕が使ってた魔法に関する参考書。わかりやすいのを選んで持ってきたから、よかったら読んで?」
「あ、ありがとう……」

 僕が使ってた、というからには、お古の本なのかなと思いきやすべて新品だった。このクルト君という男、新しく私のために参考書を買いなおしてくれたと見える。

「魔法よりドレスとか、そういうもののほうがよかったかなとは思ったんだけど……」
 首を横に振る。

「うれしいよ、クルト君」
「喜んでくれて何よりだよ」
 緑色の瞳は優しく細まった。
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