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【47】他には何も要らない(5)
しおりを挟む「……セノの、代償って?」
後ろを振り返る。
普段は強い光を放つ金瞳が弱々しく潤んでいた。
「生殖機能が無いんだ。俺は子をなすことが出来ない。欠陥人間だ」
息が止まったのは一瞬だけだった。
「セノは欠陥人間なんかじゃない」
考えるよりも先に口に出た言葉だった。
「ヒトとして子孫を残すことは大切だって言う人が確かにいるかもしれないけど、私はそうだとは思わない。私にとっては雨が降ったくらいの、些細なことだよ」
深緑色の髪を撫でる。セノフォンテはフラミーニアの肩に顔を伏せているから、どんな表情をしているのかはわからない。
セノフォンテが代償に対してかなりセンシティブに感じているようだが、気にする必要はないということを伝えたかった。
「子供が出来なくても、一緒に笑って、一緒にご飯を食べて、一緒に眠れる。それだけで凄く幸せなことだと思うの。セノは全部叶えられる。何一つ欠陥なんてないよ」
セノフォンテは何も言わないので、フラミーニアは話を続けた。
「貴族社会ではそう簡単な問題じゃないのかもしれないけど。私が何も持っていない無知人間だからこんなこと言えるんだろうって言われちゃうかもだけど。子供が居ようと居なかろうと、幸福の有無には関係がないように思うんだけどなぁ。大丈夫、セノは絶対に幸せになれるよ」
「フランがして」
抱き締める腕の力が強くなる。
「フランが俺のこと幸せにしてよ」
「えっと……私じゃ色々と何もかも足りないと思うんだけど」
「色々って戸籍とかってこと?」
「それもだし、」
「分かった。ならその色々をなんとかする。そうしたら一緒に暮らそう」
「ふふっ、なんとかするって言っても、なんとかなるの?」
クスクスと小さく笑う。それを咎めるように頬をむに、と摘まれた。
「男爵位といっても継ぐ人が居ないし、一代限りで国へ返還する。元々偶然賜った爵位だし。それならフランとの婚姻を否定する人も居ないよ」
「えぇー? どうなんだろう?」
むにむにと頬肉を揉まれて後ろを向かされる。
金色が視界いっぱいに広がって温かいものが唇に触れた。
「……キスしていいって聞かなかったね」
「うん。……嫌?」
「ううん」
もう一度密接に触れ合うと、「好きだよ」と言って微笑んだ。
いつものように真っ赤にして顔を逸らされると思ったのだけれど。
「うん。俺も」
再び唇が触れ合って。
フラミーニアの心が多幸感で溢れていくのを感じた。
あぁ、私の方が離れられないかもしれない。
そう思ってしまうほどに。
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