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【42】あなたと前だけを(12)
しおりを挟む「そんなことより! フランの薬、順調に売れていること報告しなくて良いのか?」
「あ、そうそう! メリッサに教わって漸く作れるようになった薬、定期的に街へ卸しているの」
「ネドマお婆さんの薬屋かしら?」
「そう! アルトゥルさんにおすすめしてもらった経営学の本を読んで、子供向けに甘いシロップの薬を作ったら凄く好評だったの」
「すごいじゃない!」
「アルトゥルさんとセノの助言のおかげだよ」
「フラミーニアさんが頑張った成果ですよ」
改めて感謝を伝える。
【魔力転移】の価値しかなかった過去の自分とは違い、今なら胸を張って前を向ける。
それもメリッサやセノフォンテ、みんなのお陰だ。みんながいなければ今のフラミーニアは無かったから。
森の恵みである果実を食卓に並べ、皆で味わいながら会話を楽しむ。
メリッサやセノフォンテと二人きりで過ごすことが多かったから、こうやって大人数で会話をするのも楽しくてついつい頬が緩みっぱなしになる。
お茶のおかわり分を淹れようと席を立つと、レオポルドも同様に起立した。
「フラミーニア、そろそろ薬草畑を案内してもらって良いか?」
「分かりました!」
「俺も行く」
「セノはここで待て」
「でも護衛が、」
「待っていろ」と圧をかけられ、セノフォンテはしぶしぶ席についた。
レオポルドと共に裏庭にある畑を案内する。
「薬草ごとに場所を分けています。土は腐葉土を混ぜていまして、その配分は薬草ごとに変えています。奥側は敢えて日陰を作って高い湿度のなかで生育しています」
「そうか。その知識はメリッサが?」
「本の知識を元にこの森の気候を鑑みて、試行錯誤してこの配分にたどり着きました」
「そうか。君と二人三脚で頑張ったんだな」
指で葉をそっと撫で、薬草を見つめる瞳は妹を思いやる兄のものだった。
なんだかフラミーニアまで嬉しくなってしまう。
「私はただ雑用をしただけで。殆どメリッサが頑張った成果ですよ」
「いや、そんなことはない。君がいなければメリッサはここまで生き生きとしていなかっただろう」
「そう、ですかね……?」
フラミーニアがメリッサに対して何かしてあげられたという覚えがない。むしろメリッサから与えてもらうことの方が多かったと思う。
しかし王太子に言い返すのもなんだか失礼な気がして、不承不承しつつ口をつぐんだ。
「フラミーニア。【魔力転移】という稀有な魔力を有していたにもかかわらず、デレッダ公爵から君を助けることが出来なかった。王太子として申し訳なく思う」
「いいいいえ‼︎ そんな、王太子様が謝ることではありません! むしろこの国の為ではなく自分本位な理由で勝手に魔力を手放してしまって……私の方こそごめんなさい」
「君の置かれていた境遇では、そうするしか方法がなかったことは理解している。そしてその強力な魔力をセノに授けてくれて……礼を言う」
「私にはセノしか居なかったですし、お礼を言われることではありません。私も貰ってくれるなら大好きな人へ譲りたかったですから」
目を細めて向日葵のように笑顔になる。
魔力を渡した相手がセノフォンテで良かった。そのことを後悔したことは一度もない。
「ありがとう。これからもメリッサとセノの側に居てやってほしい」
「……でも魔力無しのただの平民が、王女や近衛騎士と仲良くなんて、周囲からは良く思われないのでは、」
「そんなことはない。まぁ、君がどう思っていようと、あいつらが離さないとは思うがな」
レオポルドはスッと立ち上がると「戻ろうか」と言って玄関の方へ向かっていった。
フラミーニアは複雑な想いを抱えながら、その背中を追いかけていった。
身重なメリッサを慮り、滞在一時間ほどでメリッサ達は帰城していった。
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