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【18】突然の再会(4)

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「フランの事情があったにしろ、フランの魔力はいま全て俺の体にある。俺にはその責任を負う義務がある」
「責任なんて……私が勝手にやったことだし」
「いや、本来魔力量が増えるなんてあり得ないことだ。フランのお陰で【変化魔法】も長時間使えるようになったし変化するスピードも速くなった。俺がフランから何もかもを奪ってしまったことへの責任をとりたいんだ」

 真剣にそう話すセノフォンテに頑なに否と伝える。

「私、魔力を捨ててあの家を飛び出したのは誰かの為にただ生かされるのではなくて、自由に生きてみたかったからなの。だからセノが私のためって言うのなら、私はそれを許容出来ないよ。私なんかに縛られないで、セノはセノの人生を歩んで欲しい」

 フラミーニアの意志の強さを感じ取ったセノフォンテは、観念したように手を離した。

「……分かった。とりあえず今は身を引く。だけど責任をとりたいと思う気持ちは変わらないから」
「うん……」

 サァと一際強い風が吹いた。
 火照った体が少し落ち着いていく。

「とりあえず、今日はもう行くね。明日、また来るから。じゃあね、フラン」

 セノフォンテはそう言うと森の中へ入っていった。

 一人川に残ったフラミーニアは何度も何度も冷たい水で顔を洗ったが、なかなか熱が引いてくれなかった。




「メリッサは、セノと知り合いだったの?」

 家に戻ってしばらくした後、メリッサに問いかける。
 フラミーニアは泥がついた薬草を水で洗い流し、メリッサは綺麗になった薬草を部位ごとに分けてザルに広げていた。

「ええ。幼い頃から知ってるわ。兄と仲が良かったから」
「そっか。幼馴染なんだね」
「ここで住むようになってからセノが薬を運んでくれることになったの。監視する役目もあってね。フランに黙っててごめんなさい」
「ううん。いいの」
「フランは家に閉じ籠っていたのに、セノと知り合いだったのね」
「初めて出来た友達なの。あの日、魔力を転移させてから、ずっと会って謝りたいと思ってた」
「え? フランが魔力を渡したのって犬って言ってなかったかしら?」
「うん。その犬、セノだったの」
「セノは一体何をしているのよ……」

 作業する手を一旦止めると、メリッサは深い溜め息を吐いた。

「私、勝手なことをしてごめんってずっと謝りたかったの。だけど、もっと自立して自分の足でしっかり立てるようになってから会いたかったな……。あ、もしかしたらあの坊主頭も見られてたのかな……」
「前を向いて進んでいたのだから、例え見られていたとしても何も恥じることないわよ。それとも魔力の代償を受けて変わった容姿を見られたくなかった?」
「ううん。この見た目、自分では気に入ってるからそれはいいの。……でもやっぱり坊主頭は少し恥ずかしいかな……」

 胸上で揺れる黒髪を見つめる。

「ただ、胸を張れるくらいに自信をつけてから、セノに会いたかったなって」
「フランは十分魅力的よ」
「えっ」

 がばっと隣を向く。メリッサはなんでもないように薬草を葉と茎と根に分けている。

「何よ?」
「いや、メリッサがそんなことを言うなんてびっくりして」
「私そんな変なことを言ったかしら?」

 メリッサは一度フラミーニアに視線をやり、すぐに手元に戻す。
 フラミーニアのだらしなく緩んだ口元を見て、少々呆れた様子だったが。

「……嬉しい。ありがとうメリッサ」
「フランのそういうところよ。あー。それよりも明日が憂鬱だわ」

 今日採集した分の薬草を仕分けを終えると、ザルを抱えて外へ出た。

 太陽が燦々と降りそそぐ、晴れやかな日だった。
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