わたしの王子の願いごと

高橋央り

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24.わたしの願いごと…

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数分後、冷たい風が吹いて、気付けばチョコレートの袋も手紙も消えてなくなっていた。

寒くなってきたためか、人通りもかなり減っていた。

美菜の目の前には、指輪を握りしめていた右手があった。

彼女は、その手を恐る恐る開く。

指輪までなくなっていたら、ただの幻覚だと思えそうだったが、ダイヤの指輪は、美菜の手の中にあった。

指輪のダイヤは、美菜を見つめているかのように、静寂の冬を映して輝いている。

全て幻覚であることを望んだのか、それとも憲斗に会えたことが幻じゃないことを望んだのか、よく分からなかったが、とにかく指輪があったことに、美菜は少し安堵した。

携帯のメッセージを確認したが、2つとも確かにあった。

美菜は白い吐息を繰り返しながら、何とか状況を整理しようとする。

とにかく、憲斗に再会したのも、憲斗が死んじゃったのも、憲斗からの2つのメッセージが来たのも、現実みたい……。

チョコレートの袋や手紙は消えてしまったけれど、憲斗は天使さんに言った最期の願いで、さっき私に会いに来てくれた…。

私をずっと好きでいてくれてて、小学校での告白も本気で、覚えてくれてて、指輪まで買ってくれてた…。

でも、亡くなった…。もう会えない……。

「憲斗は、私が笑顔でいることを望んでたんだよね…」

美菜は自分を励まそうとする、心の声を聞いた。

ゆっくりと立ち上がった美菜は、笑顔になろうと、涙の真顔のまま、口角を上げる。

美菜は少し薄暗くなった冬の道を、1人ぼっちで、ふらふらと進む。

また幽体離脱のように、自分の体が右へ左へ、出て行っては戻ってくる、変な感覚がしている。

大きな通りに出て、人混みの中に入ると、擦れ違う人達の声がする。

「願いごと、何にしたの?」

小学生くらいの男の子の声だ。

祖父母と手を繋いで歩いている。

男の子の祖父が答える。

「え?あぁ…、神社でか。まーくんのサッカーが上手になりますようにって、願ったぞ」

男の子は嬉しそうに、「かはははーーっ」と高い声で笑った。

美菜は瞬きを繰り返す。

「願いごと…、今の私の願いごと………、憲斗の願いごと…」

美菜はゆっくりと口を閉じて、また開く。

「…笑顔で生きること。…みんなで仲間だって気付いて、微笑って生きることのできる世界、地球にすること…かな」

そう呟いた美菜の瞼に、優しく何かが触れる。
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