骨董屋の主人

藤野 朔夜

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「梓、ソレを持って来た男に、口説かれたって?」
 ええ?!ちょっとタマ?どんな説明したの?
 っていうか、あれ口説かれてたってこと?あれ?そうなの?
 あぁ、なんか俺の物にしたい、みたいなこと言ってたけど。それって、そういう意味なの?
 だったら、ますます勇くんに居てもらわないと、僕は怖い。
『気付いておらなんだから、強制的に男は放り出しといたぞ』
「タマ、お前役に立つな」
『今頃気付いたか。ほうれ、コレが妙な物が入っとる木箱だ」
 僕が一人で考えてる間に、勇くんとタマの間で話が進んで行く。
 それはちょっと嫌だ。
 けど、あの木箱に僕は近付きたくない。
 彼が居た時は、頑張ってレジ台の中には居たけど。
 その後は、タマに遠くに運んでもらった。触るのも怖いんだから、仕方ないじゃん。
「梓、コレ持って来た奴と会う時は、俺をちゃんと呼べよ?」
 勇くんに、うんうんと頷く。
 今更気付いたんだけどね。タマが居なかったら、僕どうなってたんだろう。
 怖くて考えたくもない。
 というか、あの同級生はそんなこと考えてたのか。全く関りが無かった僕なのに。
『なんやしら、怨念とも違うかなぁ』
 タマは箱を持ったまま、首を傾げている。
「怨念というより、思念だな。心だけが取り残されている感じか?」
 勇くん!中身見て無いのに、どうしてそんなにわかるの?
 もうびっくりだよ。
 そうか。思念なんだ。
『もっと生きたい』
『自由に生きたい』
 ってずっとその箱の中から聞こえて来るんだよね。
 不気味でしかないよ。
 なんかたくさんの声で、多重奏になってるし。微妙にズレてたりとかするから、おどろおどろしい感じが余計にしてる。こんな多重奏聞きたくもない。
 タマは平気で持ってるけど。大丈夫なの?
『ほう。人間の思いだけが残っておるか。なるほどのう』
「ここで開けるのは、結界が必要だな。あと梓は怖いだろうから、住居の方に居て良いぞ?」
 こ、怖いけど。でもその……。
「勇くんのこと、見てたいから。ここに居たい」
 前みたいに、怖くないっては思えないけど。
 だけど、だからこそ、かな。勇くんの傍に居る方が、怖くないんだ。
 何が起こってるか、わからない方が怖い。
 フッと笑った勇くんが、カッコ良すぎる。僕の怖さなんて、吹き飛ぶ勢いだ。
「タマは梓の傍に居てくれ」
 勇くんに言われて、タマは木箱を勇くんに渡してから、こっちに来てくれた。
 うん。勇くんにタマも居るから、怖くない。大丈夫。
 勇くんは何かを木箱に張っている。多分結界?
『勇がどうにか出来るかいな?』
 作業している勇くんは、こっちを見ない。
「出来なきゃやろうとしない。タマこそ俺の力を評価したらどうだ」
 タマに今更使えると気付いたか、とか言われてたのの返答だろうか。
 僕には勇くんもタマもすごいとしか思えないから、どこまで力が強いとか、全くわからない。
『言うのう。ならば俺はここで見とるだけにするかぁ』
 特に何もしない。というタマの宣言だろうか。
「梓だけは守れよ。それ以外はいらん」
 勇くんはキッパリと返してる。
 僕ってずっと守られてばっかだなぁ。駄目だよなぁ。
『気にするでない。梓は俺と勇に守られておれ』
 僕の心を読んだような、タマの言葉。勇くんは特に何も言わない。
 多分木箱に集中しているからだろうなぁ。
 妙な物頼んじゃったよね、僕。
『アレは勇の仕事だからの。そこも気にする必要はなかろ。さぁて、箱の中身はなんであろうな?」
 タマは本当に僕の心を読んでいるんだろうか。
 タマなら出来る気がするから、もう何も言わない。
 カタリと音がして、木箱が開いた。
 途端に声がうるさくなったけど。でも何かが飛び出て来るとかは無かった。
 これって、勇くんの結界のおかげ?
「西洋人形か……古そうだが。戦前から日本に有ったなら、この思念も頷けるな」
 自由に生きたい、か。
 戦前から日本に来てた人形なら、戦争中によく破壊されなかったよね。
 あ、だからもっと生きたい、なの?
「戦前から、その人形日本に居たの?」
 そんなことまでわかっちゃうの?
「そんな感じだ。戦争中は木箱に入れられたままだったんだろうな。だから破壊からは免れたんだろうけど。もっと生きたいとか、自由に生きたいとかは、その持ち主の思念とこの人形の思いが混じったんだろう。だから余計に肥大している」
 木箱の中じゃ、そりゃあたしかに自由じゃないよね。それに西洋人形なら、壊されるっていう懸念も有っただろう。
 生きたくても生きれない人も、戦争中はたくさん居ただろう。自由なんて無い様な時代だったのかもしれない。戦争のことなんて、僕は聞いたこともほとんど無いからわからないけど。
 そっかぁ。そんな思いがたくさん詰まっちゃったんだ。
 だから多重奏になってるのかな?
 持ち主は、点々と変わって行ったんだろうか。
「持ち主が、変わって行ったから、そんなにたくさんの声がするの?」
 たくさんの声はその証拠?
「そうかもしれないな。まぁけど、思念だけでここまで肥大になってるんだ。箱を普通に開けてたら、何かが起きてたかもしれないな」
 それは怖いよ。
 あの時開けない様に止めて良かった。
『その思念とやら、どうにか出来るのか?ソレが有るんじゃあ、買い取りも出来ぬ。他で何かが起きても勇も困るだろう』
 そうだよ。うん。
 あのままじゃ、絶対買い取りたくは無い。それに他所で何か起こったら、きっと勇くん困るよね。
「あぁ。昇華させるくらいは出来る。が、まぁこれは……買い取れるのか?」
 どういう意味だろう?
 思念を昇華させることが出来るのはすごいよね。でも、買い取れない物なの?
 それだったら、まぁ引き取ってもらうだけだし。問題無いけど。
『うむ?おおう。結構な具合にヒビが入っとるなぁ。コレはいかん』
 タマは少しだけ僕から離れて、勇くんの近くに行ったから、人形の状態を教えてくれた。
「多分、戦争中に木箱に入れたは良いが、緩和剤が無かったんだろうな。あちこちに持ち出されてる間に、ヒビが入ったんだろう。だからだな。余計にもっと生きたいって思念が膨れ上がったのは」
 西洋人形だからって、壊されはしなかったけど。結局は持ち主が点々とした分、壊れて行ってしまったのかな。
 それなら買い取らないって形でも良いんだけど。
 勇くんに働いてもらった分のお金は僕が払えば良いんだし。このままこの思念が残ってる方が、世界にとっては駄目なんじゃないのかな。
「僕が依頼人って形で、えとその思念、昇華してあげて欲しい」
 このままずっと、思い続けるのは、人形も疲れるだろうな。だから、思いを昇華させてあげたい。
「ん?別に依頼として受けなくても良い。こういうのが残ってる方が、俺たちの仕事が増える要因だからな。まぁ、昇華させた後に、梓が見て買い取るか返すか決めてくれ」
 勇くん、前回の時も僕からお金取って無いし。
 駄目なんじゃないの?
 っていうか、そんなに僕に甘くしたら、僕は本当に依存しちゃうから、僕自身が怖いよ。
「梓は俺に依存して、甘えたら良いんだ。こういう場には、こういったモノがよく来る。特に梓は見える人間だから、余計だな。それに一々金払ってたら、キリが無いだろ?大丈夫だ。梓は俺が守るし、こういうのは俺が祓うから」
 元々俺がここに居ることも、こういうのが来る要因にもなってるからな。
 とか呟いてるの聞こえたけど。
 勇くんがここに居てくれなきゃ、僕は怖いから。だからここから去って行くのだけはやめて欲しい。
 僕が寄りかかっても、絶対に勇くんは倒れたりしない。
 そんな安心感が僕にはもう有るんだ。
 だから、これからもここに来て欲しいよ。
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