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大学一回生になりました
合宿の、はず
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「秀さーん」
スタジオへ来た瞬間、秀に何かがまとわりついて来た。
「懐くな」
スパン、と弾くが、相手は気にしていない様子で、笑っている。
「何やってんだ、お前」
半眼で秀が見やる相手は、渡辺純だ。何故、ここにいる。
否、彼もスタジオを使っているのだから、いてもおかしくはない。
だが、普段自分にこうもかまってこないはずの人間が、何故絡んでくるのか。
「あー、なるほど。榊祐也さん、発見」
ピシッと純が差した相手は、たしかに祐也だが。試したな、こいつ。秀は内心であきらめたため息をついた。
「あれ、誰かに似てません?」
純は首を傾げて秀に聞いてくる。
「祐也は響也と双子だよ」
純の差す指を、人を指差すなと制しながら、秀は答える。
「なーんだ。だったら、早く教えてくれても、良かったじゃないですか」
ぽややーんと見せかけだけの、笑顔だ。こいつ本当に、ただ単に楽しんでる。秀は再度心でため息をつく。
「おい、純。何やってんだ、お前は」
バンッと勢いよく、第二スタジオの扉が開く。
抜け出している純を回収に来たのは、響也だった。
「あ、泉林の姫だ」
「ちょ、響也、それ内緒だから!」
純に絡まれていた秀に、自然と響也の目が行く。
響也の発した言葉に、慌てた純が声を上げる。
「泉林の、姫?」
呟いたのは、祐也だ。
「お、何で祐也がいるんだ?」
今気付いたとばかりに、響也は視線を祐也に持って行って、話しを逸らそうとしている。
「おい、純。何か隠し事があるようだな」
地を這っているのは、秀の声だ。
ヤバい、と顔に出した純が、「太一ー、助けてー」と第二スタジオへ帰って行こうとする。
「待て、純」
後ろから襟首を掴んだ秀によって、行動はできなかったが。
恨めしそうな純の目が、響也を見る。「すまん」と謝る響也は、今まで顔を合せてはいたが、言わずにいた言葉だったのだろう。
今回唐突に顔を合せたことで、声に出してしまったようだ。
「あー、えーっと、ほら、あのさ……」
純が何やら、わけのわからないことを言っている。
「おい、純と響也、帰りが遅い!」
再度第二スタジオの扉が開いて、姿を現したのは太一だ。
そこで、秀に睨みつけられて襟首を掴まれている純と、申し訳なさそうにしている響也の姿を見ることになる。
そして、秀の近くに知らない人間が四人。
「何これ?」
太一が、秀に言う。
秀がいることには、別に驚いてはいない。純が「秀さん返ってきた」とか言ってスタジオを抜けたのだから。
「響也が、泉林の姫って口滑らせたんだよね。何度も黙ってて、って言ったのに」
純の恨めしそうな視線の先の響也を、太一は呆れた顔で見る。
「近隣高校にも、たしかに流れた噂だったけど……俺らが姫呼びを王呼びに、変えたんだけどなぁ。頑張って。当時のことは俺まだ入学前で知らないけど。秀さんを生徒会長にしたかった先輩が、靡かない秀さんに付けたあだ名だったし」
響也に対して、恨み言のような言葉が出る太一。
「俺らの学年だと、姫と王が混在してるけど。純の代からは王が普通だし。何、響也って、もしかして姫呼びされてた時に、見に来てたとかしたの?」
姫とか王とか……、秀本人には、全くわけのわからない話しである。
たしかに、生徒会長の話しは、断り続けた過去があるが。
「見に行きました。友人と。男じゃん!って思ったけど。たしかに美人とも思ったし」
白状した響也に、「あー」と太一と純が呻いた。
それは、知ってて当然だ。知ってることを最初は、単に噂を聞いてて知っていたのかと思ったのだが。確実に秀がそうだと、わかったと言う事は、見に来ていた確率を考えておくべきたった。と思う二人だ。
「……俺もその噂知ってる」
黙っていた祐也が、口をはさんだ。
「はぁ?」
秀が、ようやく純の襟首を離し、祐也に向き直る。
「や、見には行かなかったけど。……響也が美人の男って言ってたのは、聞いてる。その後に姫が王に変わったってのも、知ってる」
「頑張ったので!俺の代の生徒会長になった、雷矢が!俺は副会長として一応頑張ったので!」
太一が食い気味に、強く主張する。ちなみに雷矢は、太一たちのバンドメンバーの一人だ。
「んで、今その姫でも王でもどっちでも良いけど、泉林の高嶺の花に、恋人ができたって噂が回ってきたりしてるんだけど……」
もうあれだ、この場合、姫とか王とか呼ばれちゃってたのは、秀だと確定している。
そうなると、恋人ができた噂もたしかにその通りなんだけど。と祐也が秀を見る。
「なんで、近隣の高校の卒業生にまで、噂が流れ着くんだよ……」
「えー、そりゃ、その噂の発信源が、泉林の現生徒会長だからさぁ。真実味があると、やっぱり出回るんだよね」
ケロッとした顔で太一は言う。
秀は項垂れているようにも見える。
「知らない所で、どんな呼ばれ方をしてたかとかは、この際どうでも良いんだが。今でも定着していることの方が、重要じゃねぇか」
卒業したのに、何故にまだその呼び名が残るのだ。と秀は思う。
しかも、近隣高校まで巻き込んでいる。
「そりゃ、今の生徒会長が、秀さんの一番の信望者だからじゃね?」
太一の何気ない一言。
それにより、秀は再度純の襟首を掴む。
「お、い」
そろりと逃げようとしていた純は、その場で固まる。
「お前のは、ただの見せかけだろうが」
なんで、そうなった。と秀は思う。
「勘違いが勘違いをよんで、こんがらがったので、訂正のしようが、無くなったと言いますか。なんというか……」
「違うだろ。太一から目線外させるのに、俺を都合良く使った結果だろうが」
「そうとも言いますね!」
しどろもどろだった純が、開き直ったので、秀はとりあえず蹴り転がしておいた。「痛い」とか呻いている純は放置だ。
「相変わらずですね。秀さんってば」
そこにまた、新たな声がかかる。どうやら、純どころか太一までなかなか帰って来ないので、第二スタジオの面々が、出て来たようだった。
太一たちには、見慣れた光景である。
が、秀側の四人には、全くもって、どうなってるんだ、な状態である。
「あ、どーもー。第二スタジオ使ってまーす。たしか、大学生の方々が、第一スタジオ使うって聞いてたんですけど。秀さんのバンドメンバーさんたち?」
彼は朗らかに、秀の隣や後ろにいた四人に声をかける。
「で、この馬鹿とか、こっちのアホは回収してきますんでー。お気になさらずー」
純を馬鹿と呼び、響也をアホと呼んで、戻るように促す。
朗らかな顔で、毒を平気で吐く人種である。
「あ、そだ。秀さん。さすがに着物、着替えた方が良いですよ?」
言われて秀はやっと、自分がまだ着流しのままなのに気付く。
「あー、楽だったから。気にしてなかった」
「気にしましょうよ。さすがに。俺は見慣れてますけどね。で、四人の中に秀さんの恋人さん、いたりとか?」
戻れ戻れ、と純と響也、他二人を戻らせる割に、彼はそのまま太一とともに残っている。
しかも、核心を突くことを、忘れない。
「俺の代で頑張って姫呼び訂正したんで。頑張ったご褒美に、教えてくれても良いですよねー」
「雷矢、純よりタチ悪くなってるぞ」
純たちを戻した意味が、雷矢の言葉でなくなってしまう。太一が突っ込みを入れているが、雷矢はどこ吹く風である。
しかも、話しを聞いていたことを、隠しもしていない。
「……着替えてくる。これ第一スタジオの鍵」
そう言って、秀は近くにいた祐也に鍵を渡して、逃げるように去って行った。
「あ、逃げられた」
特に、気にはしてないのだろう。雷矢はポツリと呟くだけに終わる。
「後で、皆さんの練習中、覗いて良いですか?俺たちの方も、来てくれてかまいませんから」
雷矢は四人へと声をかける。
太一も、秀のバンドが気になるので、見に行きたい気持ちは同じだ。
「え、君たちは、インディーズデビューの曲作ってるって、秀に聞いてるんだけど」
そんなバンドを、見に行っても良いものか、と祐也は言うのだが。
「気にしないですよ?俺ら。っていうか、秀さんの歌聞けるなら、こっちも聞かれても問題ないです」
あっさりとした、雷矢の返事。
「秀の歌ファンって、どんだけいるんだ?」
敏行の言葉は、全員の心境だった。
スタジオへ来た瞬間、秀に何かがまとわりついて来た。
「懐くな」
スパン、と弾くが、相手は気にしていない様子で、笑っている。
「何やってんだ、お前」
半眼で秀が見やる相手は、渡辺純だ。何故、ここにいる。
否、彼もスタジオを使っているのだから、いてもおかしくはない。
だが、普段自分にこうもかまってこないはずの人間が、何故絡んでくるのか。
「あー、なるほど。榊祐也さん、発見」
ピシッと純が差した相手は、たしかに祐也だが。試したな、こいつ。秀は内心であきらめたため息をついた。
「あれ、誰かに似てません?」
純は首を傾げて秀に聞いてくる。
「祐也は響也と双子だよ」
純の差す指を、人を指差すなと制しながら、秀は答える。
「なーんだ。だったら、早く教えてくれても、良かったじゃないですか」
ぽややーんと見せかけだけの、笑顔だ。こいつ本当に、ただ単に楽しんでる。秀は再度心でため息をつく。
「おい、純。何やってんだ、お前は」
バンッと勢いよく、第二スタジオの扉が開く。
抜け出している純を回収に来たのは、響也だった。
「あ、泉林の姫だ」
「ちょ、響也、それ内緒だから!」
純に絡まれていた秀に、自然と響也の目が行く。
響也の発した言葉に、慌てた純が声を上げる。
「泉林の、姫?」
呟いたのは、祐也だ。
「お、何で祐也がいるんだ?」
今気付いたとばかりに、響也は視線を祐也に持って行って、話しを逸らそうとしている。
「おい、純。何か隠し事があるようだな」
地を這っているのは、秀の声だ。
ヤバい、と顔に出した純が、「太一ー、助けてー」と第二スタジオへ帰って行こうとする。
「待て、純」
後ろから襟首を掴んだ秀によって、行動はできなかったが。
恨めしそうな純の目が、響也を見る。「すまん」と謝る響也は、今まで顔を合せてはいたが、言わずにいた言葉だったのだろう。
今回唐突に顔を合せたことで、声に出してしまったようだ。
「あー、えーっと、ほら、あのさ……」
純が何やら、わけのわからないことを言っている。
「おい、純と響也、帰りが遅い!」
再度第二スタジオの扉が開いて、姿を現したのは太一だ。
そこで、秀に睨みつけられて襟首を掴まれている純と、申し訳なさそうにしている響也の姿を見ることになる。
そして、秀の近くに知らない人間が四人。
「何これ?」
太一が、秀に言う。
秀がいることには、別に驚いてはいない。純が「秀さん返ってきた」とか言ってスタジオを抜けたのだから。
「響也が、泉林の姫って口滑らせたんだよね。何度も黙ってて、って言ったのに」
純の恨めしそうな視線の先の響也を、太一は呆れた顔で見る。
「近隣高校にも、たしかに流れた噂だったけど……俺らが姫呼びを王呼びに、変えたんだけどなぁ。頑張って。当時のことは俺まだ入学前で知らないけど。秀さんを生徒会長にしたかった先輩が、靡かない秀さんに付けたあだ名だったし」
響也に対して、恨み言のような言葉が出る太一。
「俺らの学年だと、姫と王が混在してるけど。純の代からは王が普通だし。何、響也って、もしかして姫呼びされてた時に、見に来てたとかしたの?」
姫とか王とか……、秀本人には、全くわけのわからない話しである。
たしかに、生徒会長の話しは、断り続けた過去があるが。
「見に行きました。友人と。男じゃん!って思ったけど。たしかに美人とも思ったし」
白状した響也に、「あー」と太一と純が呻いた。
それは、知ってて当然だ。知ってることを最初は、単に噂を聞いてて知っていたのかと思ったのだが。確実に秀がそうだと、わかったと言う事は、見に来ていた確率を考えておくべきたった。と思う二人だ。
「……俺もその噂知ってる」
黙っていた祐也が、口をはさんだ。
「はぁ?」
秀が、ようやく純の襟首を離し、祐也に向き直る。
「や、見には行かなかったけど。……響也が美人の男って言ってたのは、聞いてる。その後に姫が王に変わったってのも、知ってる」
「頑張ったので!俺の代の生徒会長になった、雷矢が!俺は副会長として一応頑張ったので!」
太一が食い気味に、強く主張する。ちなみに雷矢は、太一たちのバンドメンバーの一人だ。
「んで、今その姫でも王でもどっちでも良いけど、泉林の高嶺の花に、恋人ができたって噂が回ってきたりしてるんだけど……」
もうあれだ、この場合、姫とか王とか呼ばれちゃってたのは、秀だと確定している。
そうなると、恋人ができた噂もたしかにその通りなんだけど。と祐也が秀を見る。
「なんで、近隣の高校の卒業生にまで、噂が流れ着くんだよ……」
「えー、そりゃ、その噂の発信源が、泉林の現生徒会長だからさぁ。真実味があると、やっぱり出回るんだよね」
ケロッとした顔で太一は言う。
秀は項垂れているようにも見える。
「知らない所で、どんな呼ばれ方をしてたかとかは、この際どうでも良いんだが。今でも定着していることの方が、重要じゃねぇか」
卒業したのに、何故にまだその呼び名が残るのだ。と秀は思う。
しかも、近隣高校まで巻き込んでいる。
「そりゃ、今の生徒会長が、秀さんの一番の信望者だからじゃね?」
太一の何気ない一言。
それにより、秀は再度純の襟首を掴む。
「お、い」
そろりと逃げようとしていた純は、その場で固まる。
「お前のは、ただの見せかけだろうが」
なんで、そうなった。と秀は思う。
「勘違いが勘違いをよんで、こんがらがったので、訂正のしようが、無くなったと言いますか。なんというか……」
「違うだろ。太一から目線外させるのに、俺を都合良く使った結果だろうが」
「そうとも言いますね!」
しどろもどろだった純が、開き直ったので、秀はとりあえず蹴り転がしておいた。「痛い」とか呻いている純は放置だ。
「相変わらずですね。秀さんってば」
そこにまた、新たな声がかかる。どうやら、純どころか太一までなかなか帰って来ないので、第二スタジオの面々が、出て来たようだった。
太一たちには、見慣れた光景である。
が、秀側の四人には、全くもって、どうなってるんだ、な状態である。
「あ、どーもー。第二スタジオ使ってまーす。たしか、大学生の方々が、第一スタジオ使うって聞いてたんですけど。秀さんのバンドメンバーさんたち?」
彼は朗らかに、秀の隣や後ろにいた四人に声をかける。
「で、この馬鹿とか、こっちのアホは回収してきますんでー。お気になさらずー」
純を馬鹿と呼び、響也をアホと呼んで、戻るように促す。
朗らかな顔で、毒を平気で吐く人種である。
「あ、そだ。秀さん。さすがに着物、着替えた方が良いですよ?」
言われて秀はやっと、自分がまだ着流しのままなのに気付く。
「あー、楽だったから。気にしてなかった」
「気にしましょうよ。さすがに。俺は見慣れてますけどね。で、四人の中に秀さんの恋人さん、いたりとか?」
戻れ戻れ、と純と響也、他二人を戻らせる割に、彼はそのまま太一とともに残っている。
しかも、核心を突くことを、忘れない。
「俺の代で頑張って姫呼び訂正したんで。頑張ったご褒美に、教えてくれても良いですよねー」
「雷矢、純よりタチ悪くなってるぞ」
純たちを戻した意味が、雷矢の言葉でなくなってしまう。太一が突っ込みを入れているが、雷矢はどこ吹く風である。
しかも、話しを聞いていたことを、隠しもしていない。
「……着替えてくる。これ第一スタジオの鍵」
そう言って、秀は近くにいた祐也に鍵を渡して、逃げるように去って行った。
「あ、逃げられた」
特に、気にはしてないのだろう。雷矢はポツリと呟くだけに終わる。
「後で、皆さんの練習中、覗いて良いですか?俺たちの方も、来てくれてかまいませんから」
雷矢は四人へと声をかける。
太一も、秀のバンドが気になるので、見に行きたい気持ちは同じだ。
「え、君たちは、インディーズデビューの曲作ってるって、秀に聞いてるんだけど」
そんなバンドを、見に行っても良いものか、と祐也は言うのだが。
「気にしないですよ?俺ら。っていうか、秀さんの歌聞けるなら、こっちも聞かれても問題ないです」
あっさりとした、雷矢の返事。
「秀の歌ファンって、どんだけいるんだ?」
敏行の言葉は、全員の心境だった。
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