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君が消えた、夏
第二章 ②
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「あれ、正さんは?」
事務所に戻った高校生三人は、疑問を持つ。
口にしたのは章だったけれど。
「あぁ、亜希姉に呼び出されて出てったよ。なんか問題があったとかじゃないみたいだから、気にするな」
秀はそう答えて、昼食を用意したソファの場へ三人を呼ぶ。
「あ、お茶とかは自分で用意してきてくれ」
そう言うと、章がサッと動いて三人分のお茶を用意してくる。
秀の分はすでに自分で用意済みである。
「秀さんが、作ったご飯ですか?」
勇はまだ、秀に慣れていない所がある。秀本人もそれをわかっているから、勇の固い口調は気にしない。
元々あまり高校生たちと、交流していないのだ。大学と高校の時間の関係とか、休日に秀が事務所にいることも、最近では珍しいことに換算されるので。
「まぁ、な。食べれる味だとは思うが、無理だったら食べれるのだけ食べてくれ」
好き嫌いもあるだろうし、そこは強く言わない。
だが、修行するのに休憩は必須なことだ。
休憩なしで力を使い続けるのは、体力の消費もだけれど、精神的にもよくない。
「秀さんの御飯とか、初めて食べる」
章はどことなく嬉しそうに笑っている。
休日の修行の際、休憩を言い渡しにくるのは正で、ほとんどの場合はそのまま自分の部屋に戻って、休憩しつつ自分でご飯を用意する。
「修行してる時に、自分で作るのも面倒だろうと、思ったからな」
秀はそれだけだ、と言うが。しっかり自分たちのことを考えて、用意してくれるのは本当に嬉しいものだと高校生たちは思う。
本当は、出前でもとるかと考えていたのだが。思いの外自分が作った料理を美味しそうに食べる高校生たちが、可愛く見えてしまったので、これはこれで良かったな、と秀は思った。
「美味しい」
呟いた秋人に、秀は素直にありがとうと言った。
「こういうのも、たまには悪くないな」
高校生たちと仲良く昼食。
少し前までの秀では、絶対に考えなかったことだ。
修行ばかりしている高校生たちだけれど、こうやって気を緩めている姿は、普通の高校生となんら変わりない。
秀が高校生の頃は、よく事務所にいはしたが、パソコンとにらめっこばかりで、ほとんど会話をすることなく、後は部屋にいた。
章なんかは、楽しいという気持ちが前面に出ている。感情表現が一番豊かなのは、章だろう。
多少苦手だと思っていた秀に対して、勇の苦手意識もなくなってきているようだった。
「俺あんまり自分で作るご飯うまくなくて、誰かに作ってもらうってすごい良いことですね」
しみじみと勇は思う。
初めての自炊生活だ。ここでやっと母のありがたみや、施設の人のありがたみがわかったと、勇は思う。
「そうなんだよね。自分で作るご飯でも、誰かと食べるってだけでも違ってくるし」
これからは、皆で食べようよ、と提案をする章。
「順番に当番決めて、とか?」
勇は乗り気らしい。
秋人も何も言わないところをみると、嫌ではないのだろう。
誰かと一緒にご飯を食べる。簡単なようで、簡単にはいかないこと。特に成長していけば。
親元を離れ、一人暮らしになれば、余計に叶わなくなるものだ。
「秀さんは?」
どうやら、皆の仲間に、秀も入っていたらしい。秀は少し驚いた顔を見せる。
「俺はいい。いつも事務所にいるわけでもないし」
そう秀は答えた。
たいていの休日は、出かけている事が多い秀。残念と顔に顔に書いてある章を見ながら、秀はごめんな、と言う。
「正兄、誘ってみたら?」
あの長兄は、実はとても高校生たちを大切に思っている。
だから、休憩時間はしっかり取らせるようにと、秀に言い置いて出かけて行ったのだ。
正に言われて、昼になっても鍛錬場にいる高校生たちに気付き、迎えに行ったのだ。でなければ、秀が誰かの世話を焼くなんてことは、ほとんどしない。
「あ、正さん!一緒に食べてくれるかな」
章の顔が、輝いた。
今まで正に休憩を言い渡されてからは、ほぼ皆部屋に戻るのが常だった。
正が鍛錬場に現れ、休憩を言い渡された時に、誘ってみたら良いのではないかと、章は思ったのだ。
「誘ってみようか」
勇はやっぱり乗り気らしく。章と二人で楽しそうだ。
秋人はそんな章と勇を見ながら、黙ってお茶を口にしている。
秋人が会話に加わる時は、自分が嫌だと思う時くらいだ。だから、何も言わない秋人を、章も勇も気にしない。
言ってこないということは、この提案は秋人には了承されたものだ、という考えだ。
三か月くらいで、秋人のことを理解できてきた自分に、勇は自分で少し驚く。
最近では、章とこうして二人で話しをしていても、秋人が勇を睨むことはなくなっていた。
仲間と認識されたようで、勇は少し嬉しくなる。
事務所に戻った高校生三人は、疑問を持つ。
口にしたのは章だったけれど。
「あぁ、亜希姉に呼び出されて出てったよ。なんか問題があったとかじゃないみたいだから、気にするな」
秀はそう答えて、昼食を用意したソファの場へ三人を呼ぶ。
「あ、お茶とかは自分で用意してきてくれ」
そう言うと、章がサッと動いて三人分のお茶を用意してくる。
秀の分はすでに自分で用意済みである。
「秀さんが、作ったご飯ですか?」
勇はまだ、秀に慣れていない所がある。秀本人もそれをわかっているから、勇の固い口調は気にしない。
元々あまり高校生たちと、交流していないのだ。大学と高校の時間の関係とか、休日に秀が事務所にいることも、最近では珍しいことに換算されるので。
「まぁ、な。食べれる味だとは思うが、無理だったら食べれるのだけ食べてくれ」
好き嫌いもあるだろうし、そこは強く言わない。
だが、修行するのに休憩は必須なことだ。
休憩なしで力を使い続けるのは、体力の消費もだけれど、精神的にもよくない。
「秀さんの御飯とか、初めて食べる」
章はどことなく嬉しそうに笑っている。
休日の修行の際、休憩を言い渡しにくるのは正で、ほとんどの場合はそのまま自分の部屋に戻って、休憩しつつ自分でご飯を用意する。
「修行してる時に、自分で作るのも面倒だろうと、思ったからな」
秀はそれだけだ、と言うが。しっかり自分たちのことを考えて、用意してくれるのは本当に嬉しいものだと高校生たちは思う。
本当は、出前でもとるかと考えていたのだが。思いの外自分が作った料理を美味しそうに食べる高校生たちが、可愛く見えてしまったので、これはこれで良かったな、と秀は思った。
「美味しい」
呟いた秋人に、秀は素直にありがとうと言った。
「こういうのも、たまには悪くないな」
高校生たちと仲良く昼食。
少し前までの秀では、絶対に考えなかったことだ。
修行ばかりしている高校生たちだけれど、こうやって気を緩めている姿は、普通の高校生となんら変わりない。
秀が高校生の頃は、よく事務所にいはしたが、パソコンとにらめっこばかりで、ほとんど会話をすることなく、後は部屋にいた。
章なんかは、楽しいという気持ちが前面に出ている。感情表現が一番豊かなのは、章だろう。
多少苦手だと思っていた秀に対して、勇の苦手意識もなくなってきているようだった。
「俺あんまり自分で作るご飯うまくなくて、誰かに作ってもらうってすごい良いことですね」
しみじみと勇は思う。
初めての自炊生活だ。ここでやっと母のありがたみや、施設の人のありがたみがわかったと、勇は思う。
「そうなんだよね。自分で作るご飯でも、誰かと食べるってだけでも違ってくるし」
これからは、皆で食べようよ、と提案をする章。
「順番に当番決めて、とか?」
勇は乗り気らしい。
秋人も何も言わないところをみると、嫌ではないのだろう。
誰かと一緒にご飯を食べる。簡単なようで、簡単にはいかないこと。特に成長していけば。
親元を離れ、一人暮らしになれば、余計に叶わなくなるものだ。
「秀さんは?」
どうやら、皆の仲間に、秀も入っていたらしい。秀は少し驚いた顔を見せる。
「俺はいい。いつも事務所にいるわけでもないし」
そう秀は答えた。
たいていの休日は、出かけている事が多い秀。残念と顔に顔に書いてある章を見ながら、秀はごめんな、と言う。
「正兄、誘ってみたら?」
あの長兄は、実はとても高校生たちを大切に思っている。
だから、休憩時間はしっかり取らせるようにと、秀に言い置いて出かけて行ったのだ。
正に言われて、昼になっても鍛錬場にいる高校生たちに気付き、迎えに行ったのだ。でなければ、秀が誰かの世話を焼くなんてことは、ほとんどしない。
「あ、正さん!一緒に食べてくれるかな」
章の顔が、輝いた。
今まで正に休憩を言い渡されてからは、ほぼ皆部屋に戻るのが常だった。
正が鍛錬場に現れ、休憩を言い渡された時に、誘ってみたら良いのではないかと、章は思ったのだ。
「誘ってみようか」
勇はやっぱり乗り気らしく。章と二人で楽しそうだ。
秋人はそんな章と勇を見ながら、黙ってお茶を口にしている。
秋人が会話に加わる時は、自分が嫌だと思う時くらいだ。だから、何も言わない秋人を、章も勇も気にしない。
言ってこないということは、この提案は秋人には了承されたものだ、という考えだ。
三か月くらいで、秋人のことを理解できてきた自分に、勇は自分で少し驚く。
最近では、章とこうして二人で話しをしていても、秋人が勇を睨むことはなくなっていた。
仲間と認識されたようで、勇は少し嬉しくなる。
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