稜蘭高校 ドタバタ日記

藤野 朔夜

文字の大きさ
上 下
15 / 40
騒動の始まり 入学式

しおりを挟む
「シュールだ」
  ぼんやりと英語教師ラミュエールは呟いた。
「傍観に徹しないでくださいね。だいたい、あなたの存在がシュールです」
  やんわり言いつつ黒髪日本語教師は、何の断りも入れずにラミュエールを、恐慌状態の新入生たちのバタバタに放り込んだ。
「君はねっ!」
  と反論をしようとしつつラミュエールは、そうだよね彼はそういう人間だよ、とあきらめの境地で、何が何だかわからなくなっている世界へと目を向けた。
「君も傍観者にはならないようにね!」
  と言葉を言い換えて。
「はいはい。わかってますよ」
  思いの外近くから声が返って来たことに、ラミュエールは驚いて隣を見る。いつの間にか、黒髪教師はそこに立っていた。
「ったく、びっくりするじゃないか」
  文句を言いはするのだが。
「傍観に徹するなと言ったのは、私ですからね」
  黒髪教師は気にも止めず、最初の引き金となった生徒の元へと歩んでいる。
  移動中に飛んでくる椅子を器用に避け、または腕で薙ぎ払いながら。
  さすが教師陣の中で、最上位とも言えるほどの力を持った霊能力者である。
「かわいくないなぁ」
「あなたに可愛いとか、言われたくはないですね」
  嫌味の応酬は、こんな時でも発生する。


「まったく、冗談じゃない」
  壇上を背にして、すぐに動ける体勢を取りながら、恭は呟く。
「ホンマ、冗談やったらええのになぁ」
  笑いつつ、恭と同じような姿勢を取っている、金髪の新入生が言う。
「冗談じゃないから、先生とか先輩たちとか、慌ててるんだろ?」
  金髪の向こうにいる圭吾が、しごくまっとうなことを言う。
「ま、そらそうや。ところで、疲れへん?結界張るけど、入る?」
  もうあかん、と良いながら、金髪は座り込む。
「入れる結界で、しっかりしたものなら」
「入れてくれるなら」
  恭は厳しいことを言いながら座り込み、圭吾も同じように座り込んだ。
  座り込むというより、へたり込むと言った方が、三人の状態はあっているかもしれない。
「引き金、自分らの後ろにおった奴やろ?よく無事やったな」
  結界を張った後、金髪は普通に話しかけてきた。
  どうやら、冷静な生徒が固まった為に、ここはより安全地帯となったらしい。
「あぁ。まぁ、なんつーか、虫の知らせ?第六感?これって俺にも有るのかわかんねーけど。後は俺の運動神経!」
  圭吾は普段どおりだ。恐慌状態に陥っていても、引きずられない精神力の持ち主なのだから。
「俺は今回圭吾に助けられたな」
  恭は未だに硬い表情だ。
  自分を押さえなければと思っていた矢先だった為、恭は反応出来なかったのだ。それだけのことだが、恭のプライドが自分自身を許せないでいる。
「自分霊能力者やん?この結界強いのはわかるやろ?そんな硬ならんでもええやん」
  軽口のままの金髪は、恭に言った後、圭吾へと向きを変えた。
「自分入試満点やったって、ホンマ?つか、俺も圭吾って呼んでええ?俺は小野田良二おのだりょうじ。良二でええで」
  小野田良二と名乗った金髪は、再度恭に向き直って、名前は?と聞いている。
  恭のプライドの問題など、知ったことではない、という良二の問いかけ。
  さっきまでの緊張感はかけらもない。忙しい奴である。
「泉恭史郎。恭で良い。たしかに、強い結界だな」
  恭は良二につられてか、少し肩の力が抜けた。
「そやろ?結界だけは自信あんねん」
  恭に褒められて、胸を張る良二を見て、圭吾は笑う。
  圭吾にも、緊張感なんてかけらもない。
「コレ、どうするんだろうな」
  圭吾の呟き。三人は講堂の中を見渡す。
  収拾を付けようとして、さらに悪化しているように見えるのは、気のせいだろうか?
  今や、在校生の椅子や、教師陣の椅子も中を舞っている。
  マイクは役に立たず、あきらめたような先生や在校生もちらほらと目に止まる。
  何人かの教師が、事態を収めようとしているようにも見えるが、一向に埒があかないようだった。


「きみ、大丈夫だから、ゆっくり息をしてごらん?」
  起爆剤になった生徒の元に辿り着いた黒髪教師は、静かに彼に語りかけた。
「いっそのこと、感化されてる生徒の生気吸うとかしちゃった方が、収拾付きそうだよねぇ」
  物騒なことを言い出しているのは、一緒について来たラミュエールだ。
「それはそれで収拾付かなくなりそうなので、最後の手段にして下さい」
  やんわりと、黒髪教師の待ったがかかる。
  この二人にも、緊張感など無い。
  ラミュエールはヴァンパイアだ。言っている物騒なことは、きっと出来てしまうことなのだろう。否、出来ないことを言うような奴ではないから、簡単に出来ることを言っているのだろう。黒髪教師は、ラミュエールをそう分析している。
「けどさ、一番手っ取り早いでしょ。後から保健室なり、どこかの空き教室なりで、治療してあげたら問題ないよね」
  騒動が面倒なのだろう。早く終わらせられる対策があるのだから、それを使おうと言っているだけのようだ。
「たしかにそうですが。誰が治療するのです?」
  黒髪教師も、わかっている。
  それでも簡単に承諾できないのは、ヴァンパイアが闇の力であるからだ。そして、治療にかかる時間と力。
「君と俺。一応生気は本人に半分は返せるよ。じゃなきゃこんなこと、言い出さないからね。たしかに俺の力は闇に属するけどさ。このまんまじゃ、どうしようもないんじゃないの?一人づつ、そうやって鎮めるの?すっごい時間かかるよね?」
  ラミュエールは、少々苛立っているようだ。
  冷静に見えて、負のオーラはラミュエールに近いのだ。
  感化されることこそないが、少し尖ってしまうことは、仕方ないのだろう。
「感化されている生徒だけ、ということが可能ですか?その後の彼らの後遺症は?」
  黒髪教師は、冷静だった。
  冷静に講堂を見渡し、ラミュエールに問う。
「近くに行けば良いだけだよ。後遺症なんていうのは、残らない。血をもらうわけでもないし。そうでなければ、君にこんな提案しないよ」
  事も無げに言うラミュエール。さっさと事態を収めたいという感情しかないようだ。
  黒髪教師は苦笑した。面倒なことを好まないのは、彼だって同じだから。
「では、そうしましょうか」
  一人厄介な子がいますけどね。とは心の中だけに止めた。
  黒髪教師とラミュエールは、感化されている生徒から生徒へと渡り歩いて行く。


  唐突に、講堂内が静かになって行った。
  起爆剤になった生徒。それに感化された生徒たちが、次々と倒れて行ったからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

オレに触らないでくれ

mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。 見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。 宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。 高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。 『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...