FULLMOON 番外編

藤野 朔夜

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シアンとリズバーラ ②

出会いの秘密

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  偶然だった。
  ほんの気紛れに、人間の世界を見に行って、そこで見付けた。
  母の人間の世界での子孫。
  面差しが似ていた。よく笑う子だった。
  でも、苦しそうでも有った。
  生き辛いと思っているのだろうか。彼女も母と同じように、心も無い相手との子供を、身籠らねばならないのだろうか。
  そう思ったら、加護を渡していた。
  気付いたら、そう動いていた。
  まだあの子が小さな頃に、一度会っただけ。忘れていたら、それはそれで良かった。
「覚えておくんだよ。君の生涯は俺が守る」
  なんて甘言なんだろう。
  自分でも笑いが込み上げて、あの子の元から去った後、しばらく笑ってた。
  同じ血が流れてる。年齢的には孫?曾孫?
  どっちだって良いけども。
  彼女には教えようか、どうしようか。
  そういえば、俺の母親はどうして父に付いて来たんだったか。
  アジスタの母は、アジスタを産んでから狂ったらしい。幽閉された場所で、自害したんだってさ。
  自害って出来るんだね、俺たちも。
  アジスタは血が濃い。だからかな、身籠ってから、どんどん狂ってしまったんだって。
  父はそんな同族のことは、何とも思ってなかったのか。いや、そうでもないのかな。
  アジスタと俺やリグとの間には、結構な年の差が有る。
  ここまで育つと年齢差なんて気にしないけど。
  あの子はどう思うだろうか。先祖がまだ生きていて、しかも闇の人間になってるとか聞いたら。
  もう成人した女性だから、子ども扱いしたら怒るかな。でも俺にとっては、ちょっとした気紛れで見付けた子ども。
  あの子は俺のこと、忘れてなかった。
  声をかけたら、一発で俺だってわかったしね。覚えてたら今後も加護をあげよう、ってだけで会いに行ったんだけど……。
  人間っていうのは、すぐに育つ。もう成人過ぎたんだから、びっくりだよね。
  あぁ、母の血が、途絶えてしまう。
  父に付いて来てしまうくらいだから、人間の世界のことなんか気にもしてないかな。
  それならそれで良いんだけど。母がそれを嫌がったら、俺の加護は無くさなきゃだなぁ。
  取り消しても、良いんだけど……。
  母の子孫だから、俺の子を身籠らせても駄目だし。
  それに俺との子じゃ、その子はクォーターになって、余計に生き辛くなるね。
  あぁ、どうしようか。
  たまたま見付けたあの子に、俺の方が囚われたみたい。
  光の中で生きれるあの子が羨ましい。
  でもそれだけじゃあない。わかってる。


「お前は光を見付けなさい。光を見付けなければ、お前は闇に狂うかもしれない」
  そう言ったのは父親だ。
  魔物と人間のハーフだから、完全な闇じゃない。だからだろうね。
  俺には光が必要だと、父は言ったんだ。
  リグもそうかもしれないけど。アイツも多分言われてるし。
  アジスタは光なんていらない存在だろうな。
  でもグライシズはずっと傍にいるけど。アイツは何だろう?
  って、どうでも良いや。同族同士で一緒にいるだけだし。
  あの子は俺の光になってくれるだろうか。
  光を求めてしまうのは、俺自身の本能なんだろう。
  だからそこは別に良い。ああ、そういうものなんだ、って納得した。
  あの子を見てからだけど。
  焦がれて止まない光が、あの子だったんだ。
  さて、だからどうしよう。
  俺にとってはあの子は光だし、失くしたくない存在。
  でもあの子にとって、俺は何だろうね。
  まさか俺がこんなこと考えるようになるなんて、思ってもいなかった。
  おっかしいなぁ。気紛れに生きてたはずなのに。
  光が無くて、闇に狂っても別に良いやって思ってもいたくらい。気紛れだった。
  まぁ、父だって「かもしれない」程度のことだったみたいだし。
  ただ本当に、あの子を見て、俺の中で燻ってた闇が晴れたのは事実なんだよね。
  まったくもう。どうしたら良いのさ。
  いつもなら、リグで遊ぶんだけど。そんな気も起こらないくらい部屋にこもって、あの子のこと考えてる。
  馬鹿じゃないの。って自分でも思うんだけど、ねぇ。
  人間であるあの子は、いつか必ず俺を置いて逝ってしまう。そんなことはわかってるんだよ。
  そこが問題ではないんだ。
  俺にとって、あの子が光で有るのは確かだし。
  俺さえあの子を見失わなきゃ、このまま生きて行ける気がするんだよね。
  問題はさ、あの子の今後。
  あの子が子供を身籠るかどうかってこと。
  結婚してるんだし、貴族は子どもを欲しがって当然だ。
  でもあの子には俺の加護が有るから、子どもが出来ない。そうなると、あの子はどうなる?
  離縁何てことは、多分無いだろうけど。
  あの子の結婚相手だって、あの子との家の繋がり無くす訳にはいかないだろうし。
  あの子の結婚相手が、外に子ども作って、その子どもを引き取ってくれたら、一番なんだよね。
  どうやら、外に女作ってるみたいだし。そりゃそうだよね。
  不思議には思わないだろうけど、あの子と夜を共にしてないんだから。男だったら、欲求は溜まるさ。
  発散先で子ども作って、引き取って育ててくれないかな。そしたら外面上、あの貴族は血を絶やさない。
  あの子をあの男にあげるってのは、やっぱり嫌。
  あの子も望んでないし。母の血は途絶えるけどさ。そこはきっと許してくれるよね。
  馬鹿みたいに考えてるけど、結局はあの子がどうしたいかを聞かなきゃどうしようもない。
  ただ、ねぇ。
「あなたは、なぁに?」
  小さい頃のあの子の声がよみがえる。
  瞬間的に、俺を人間ではないと、わかっているような言葉。
  多分無意識だったんだろうけど。
  今回会いに行ったけど、俺の外見が変わっていないこと、全然気にもしてなかった。
  うーん。あの子は直感的にわかってるんだよね。
  俺が人間じゃないって。
  まぁそこも含めて、今後どうするか。あの子に聞くしかないかな。
  一人で考えてたって、それはただの俺の考えだし。
  やっぱりさ、あの子が望むこと、してあげたいんだよね。
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