10 / 12
リグアザードとグライシズ
勘違い
しおりを挟む
「あれ、まだいたんだ」
グライシズに声をかけてきたのは、二人目の弟。
昨日は一人目の弟と話しをした記憶があるけど。今この場にいたのは、弟その二だった。
「まだいましたよー。アジスタのとこにね」
今日の僕は、昨日までの不機嫌さなんて、さっぱりとなくなっている。
さらりと弟その二に返して、僕はアジスタの為に、水を取りに来たのだったと、さっさと台所へ向かう。
ちゃんと後始末はしましたよ。アジスタが、ソファを見て眉間に皺を寄せたから、ソファも綺麗にしてきた。
ぐったりしてる大男を運ぶのは、さすがに苦労したけど。今はアジスタは、大人しくベッドにいるはずだ。というか、いてもらわなきゃ困る。
あんな状態で、あの女の子に会いにでも行かれたら、僕はちょっと本気で女の子を殺しそう。
「あんたってさ、アジスタの事、怖くないわけ?」
いっつも一緒にいるよな。と弟その二。
何、気になるの。そんなこと。
「君たちが産まれる前から、ずっと一緒にいたからねぇ。今更だよ。というか、僕はアジスタを怖いと思った事は、一度もないかな。何せ産まれたばっかのアジスタを見てるし」
可愛かったなぁ、産まれたばっかのアジスタ。
いや、今と同じく無表情だったけど。子どもらしからぬ、無表情だったけど。
だもんだから、困ったアジスタの親が、当時まだ子どもだった僕なら、アジスタの事わかってあげられるんじゃないかとか言って、会わせてくれたのには感謝だよね。僕だって、初めからわかる事なんて少なかったけど。無表情なりに、訴えてくることは何となーくで察して、世話焼いてたら、そのまま僕がアジスタの世話係になってたけど。
「産まれたばっかのアジスタ……」
想像つかないのか、弟その二は繰り返している。
や、まぁ、君たちが産まれた時にはすでにアジスタ大人だったしね。
僕たちの種族で言う、大人。だけどさ。
「癇癪起こして、力暴走させてるアジスタを止めるの、僕の役目だったからね」
思い通りにならない、して欲しいことが伝わらならないと、よく癇癪を起していた。
いや、わかんないから。無表情で訴えられても。
でも、そんなこと繰り返してたら、段々とアジスタの考えはわかってくるもので。
子どもだったからっていうのも、大きかったかもしれない。
何をして欲しいだとか、そういう事は何となくわかるようになってて、癇癪を起すのも少なくなって行ったと思う。
アジスタも成長して行けば、どんどん力の制御方法わかってきてたし。
まぁ、無表情でも僕が色々とわかって先回りするようになったもんだから、今でも無表情なんだけど。
アジスタをわかる為には、観察が必要で。そのまま観察し続けた結果が、今の僕のこのどうしようもない想いに繋がるんだけど。
「力暴走させたアジスタなんて、よく止められたな」
「子どもの力だしねぇ。ま、その頃は僕もまだ子どもだったけど。数年は早く産まれただけ、知恵は有ったんだよ」
僕はその頃にはもう、力の加減はわかってたし。
第一優先はアジスタの気持ちだったし。癇癪起こすって事は、何かをして欲しいって表れだったし。
無表情のアジスタからのサインなんだから、僕はしっかり受け止めなきゃとか何とか思ってたな。あれ、僕きっとその頃からもうアジスタの事好きだったのかも?
「あんたってさ、綺麗な顔してるのに、アジスタ以外どうでも良さ気だよな」
弟その二は、僕の名前知らないんじゃなかろうか。
というか、そんな君に言われたくはないよ。
「実際、どうでも良いかな。アジスタがここにいるから、僕はここにいるだけだし」
この弟その二だって、産まれたばっかの時に、僕によって殺されたかもしれないという危機を知らない。
ま、知らなくて当然なんだけど。
無害そうな顔して、考えてることがえげつない。そう言ったのは、誰だったかな。
家族の誰かだったかもしれない。でも、どうでも良いや。
僕たちの種族で、無害な奴なんて、いやしないのにね。
アジスタが所望した水を持って、さっさとその場を後にする。
弟と団らんしたって、つまらない。どうせなら、アジスタと会話したい。
※
一番上の兄には、くっそ綺麗なんだけど、何考えてるのかよくわかんない友人、という奴がいる。
というか、その一番上の兄が一番わかんないんだけど。
いつも無表情で、無愛想。笑った顔なんか見た事ないし。
いっつも怒ってんじゃないのか、とすら思うほどの兄に、簡単に笑顔を振りまいてそばにいる奴。
強そうには見えないんだけど、さっきの会話で、ガキの頃の兄の力の暴走を止めてたとか聞いたら、そいつも強い奴なんだとわかった。
笑顔でいる割に、自分の事を話さない奴。
聞けばそれなりに答えてはくれるんだけど、なーんか、言葉が足りないんだよな。
綺麗な顔を利用して、一時期人間を虜にしては捨てて、を繰り返してたみたいだけど。
最近じゃ、この家に来るくらいで、人間のいる場所に行ってる素振りがない。
家には誰もいないから、暇だ。とか言ってたけど。
俺もそんなに人間の多いとこに行く気は起きないし、なんかそういう周期でもあるんだろう。
シアンはここんとこ、出かけっぱなしが多いけど。
あれ、そういえば、一番上の兄アジスタも、よく出かけてる。それも昼間に。
何やってるんだか知らないけど。
シアンが出かけるのは夜が多いから、シアンのは食事事情だろう。知らないが。
でも昼間に出かけるアジスタの、理由がよくわからん。
あんなくそ目立つ格好で出かけてくアジスタ。どうせ見付かったって、あのアジスタなら人間になんて、何もされないだろうけど。
っていやいやいやいや。俺は別に兄たちの事を心配なんて、断じてしてない。
シアンなんかはよく俺の事おもちゃにして遊ぶから、いない方が静かで良い。
アジスタはいるだけで存在が恐いから、いない方が心は平安だ。
あいつは、アジスタの事を怖くないと言った。それだけの力があるのか、とも思ったけど。
ガキの頃のアジスタを知っているとも言った。自分もその頃はガキだったけど、数年早く産まれていたと。
ってことは、あいつのがアジスタより年上なわけ?
ガキのアジスタね。想像もつかない。
俺が産まれた時には、アジスタはもうアジスタだったし。あれ、よくわかんないな、この言い回し。
とにかく、怖い存在だったわけ。
いるだけで委縮するっていうか、そんな感じ。
めっちゃ負けてる感じが半端ないから、絶対に恐がり過ぎないようにしてるつもりだけど。
無言で無表情で、そこに座ってるだけだってのに、威圧感が半端ない。
あ?無言で無表情だから、威圧されてるように感じるのか?
どっちでも良いんだけど。
とにかく俺は、アジスタを怖いと思う。
でもあいつは、アジスタの事は怖くないと言う。
本当によくわかんねぇ奴。
綺麗でふわふわ笑ってて、言葉ものんびりしてる感じで。争い事なんて無縁です。って感じの奴なのに。
見た目だけで判断してたら、多分駄目なんだと思う。
本能か何かが、こいつは危ない奴。とか訴えて来るみたいに、あいつの前だと委縮してる自分がいる、そうさっき気付いた。
「どうでも良いかな」
アジスタ以外、どうでも良さ気だと言った俺に、綺麗な笑顔付きで返された言葉。
こいつにかかったら、どうでも良い俺は、きっと簡単に殺されるんだろう。
そう思って、一瞬ゾッとした。
固まってる間に、あいつは部屋から出て行ったけど。
アジスタとあいつは、敵に回したら絶対ヤバい奴。俺の中にそうインプットされた。
グライシズに声をかけてきたのは、二人目の弟。
昨日は一人目の弟と話しをした記憶があるけど。今この場にいたのは、弟その二だった。
「まだいましたよー。アジスタのとこにね」
今日の僕は、昨日までの不機嫌さなんて、さっぱりとなくなっている。
さらりと弟その二に返して、僕はアジスタの為に、水を取りに来たのだったと、さっさと台所へ向かう。
ちゃんと後始末はしましたよ。アジスタが、ソファを見て眉間に皺を寄せたから、ソファも綺麗にしてきた。
ぐったりしてる大男を運ぶのは、さすがに苦労したけど。今はアジスタは、大人しくベッドにいるはずだ。というか、いてもらわなきゃ困る。
あんな状態で、あの女の子に会いにでも行かれたら、僕はちょっと本気で女の子を殺しそう。
「あんたってさ、アジスタの事、怖くないわけ?」
いっつも一緒にいるよな。と弟その二。
何、気になるの。そんなこと。
「君たちが産まれる前から、ずっと一緒にいたからねぇ。今更だよ。というか、僕はアジスタを怖いと思った事は、一度もないかな。何せ産まれたばっかのアジスタを見てるし」
可愛かったなぁ、産まれたばっかのアジスタ。
いや、今と同じく無表情だったけど。子どもらしからぬ、無表情だったけど。
だもんだから、困ったアジスタの親が、当時まだ子どもだった僕なら、アジスタの事わかってあげられるんじゃないかとか言って、会わせてくれたのには感謝だよね。僕だって、初めからわかる事なんて少なかったけど。無表情なりに、訴えてくることは何となーくで察して、世話焼いてたら、そのまま僕がアジスタの世話係になってたけど。
「産まれたばっかのアジスタ……」
想像つかないのか、弟その二は繰り返している。
や、まぁ、君たちが産まれた時にはすでにアジスタ大人だったしね。
僕たちの種族で言う、大人。だけどさ。
「癇癪起こして、力暴走させてるアジスタを止めるの、僕の役目だったからね」
思い通りにならない、して欲しいことが伝わらならないと、よく癇癪を起していた。
いや、わかんないから。無表情で訴えられても。
でも、そんなこと繰り返してたら、段々とアジスタの考えはわかってくるもので。
子どもだったからっていうのも、大きかったかもしれない。
何をして欲しいだとか、そういう事は何となくわかるようになってて、癇癪を起すのも少なくなって行ったと思う。
アジスタも成長して行けば、どんどん力の制御方法わかってきてたし。
まぁ、無表情でも僕が色々とわかって先回りするようになったもんだから、今でも無表情なんだけど。
アジスタをわかる為には、観察が必要で。そのまま観察し続けた結果が、今の僕のこのどうしようもない想いに繋がるんだけど。
「力暴走させたアジスタなんて、よく止められたな」
「子どもの力だしねぇ。ま、その頃は僕もまだ子どもだったけど。数年は早く産まれただけ、知恵は有ったんだよ」
僕はその頃にはもう、力の加減はわかってたし。
第一優先はアジスタの気持ちだったし。癇癪起こすって事は、何かをして欲しいって表れだったし。
無表情のアジスタからのサインなんだから、僕はしっかり受け止めなきゃとか何とか思ってたな。あれ、僕きっとその頃からもうアジスタの事好きだったのかも?
「あんたってさ、綺麗な顔してるのに、アジスタ以外どうでも良さ気だよな」
弟その二は、僕の名前知らないんじゃなかろうか。
というか、そんな君に言われたくはないよ。
「実際、どうでも良いかな。アジスタがここにいるから、僕はここにいるだけだし」
この弟その二だって、産まれたばっかの時に、僕によって殺されたかもしれないという危機を知らない。
ま、知らなくて当然なんだけど。
無害そうな顔して、考えてることがえげつない。そう言ったのは、誰だったかな。
家族の誰かだったかもしれない。でも、どうでも良いや。
僕たちの種族で、無害な奴なんて、いやしないのにね。
アジスタが所望した水を持って、さっさとその場を後にする。
弟と団らんしたって、つまらない。どうせなら、アジスタと会話したい。
※
一番上の兄には、くっそ綺麗なんだけど、何考えてるのかよくわかんない友人、という奴がいる。
というか、その一番上の兄が一番わかんないんだけど。
いつも無表情で、無愛想。笑った顔なんか見た事ないし。
いっつも怒ってんじゃないのか、とすら思うほどの兄に、簡単に笑顔を振りまいてそばにいる奴。
強そうには見えないんだけど、さっきの会話で、ガキの頃の兄の力の暴走を止めてたとか聞いたら、そいつも強い奴なんだとわかった。
笑顔でいる割に、自分の事を話さない奴。
聞けばそれなりに答えてはくれるんだけど、なーんか、言葉が足りないんだよな。
綺麗な顔を利用して、一時期人間を虜にしては捨てて、を繰り返してたみたいだけど。
最近じゃ、この家に来るくらいで、人間のいる場所に行ってる素振りがない。
家には誰もいないから、暇だ。とか言ってたけど。
俺もそんなに人間の多いとこに行く気は起きないし、なんかそういう周期でもあるんだろう。
シアンはここんとこ、出かけっぱなしが多いけど。
あれ、そういえば、一番上の兄アジスタも、よく出かけてる。それも昼間に。
何やってるんだか知らないけど。
シアンが出かけるのは夜が多いから、シアンのは食事事情だろう。知らないが。
でも昼間に出かけるアジスタの、理由がよくわからん。
あんなくそ目立つ格好で出かけてくアジスタ。どうせ見付かったって、あのアジスタなら人間になんて、何もされないだろうけど。
っていやいやいやいや。俺は別に兄たちの事を心配なんて、断じてしてない。
シアンなんかはよく俺の事おもちゃにして遊ぶから、いない方が静かで良い。
アジスタはいるだけで存在が恐いから、いない方が心は平安だ。
あいつは、アジスタの事を怖くないと言った。それだけの力があるのか、とも思ったけど。
ガキの頃のアジスタを知っているとも言った。自分もその頃はガキだったけど、数年早く産まれていたと。
ってことは、あいつのがアジスタより年上なわけ?
ガキのアジスタね。想像もつかない。
俺が産まれた時には、アジスタはもうアジスタだったし。あれ、よくわかんないな、この言い回し。
とにかく、怖い存在だったわけ。
いるだけで委縮するっていうか、そんな感じ。
めっちゃ負けてる感じが半端ないから、絶対に恐がり過ぎないようにしてるつもりだけど。
無言で無表情で、そこに座ってるだけだってのに、威圧感が半端ない。
あ?無言で無表情だから、威圧されてるように感じるのか?
どっちでも良いんだけど。
とにかく俺は、アジスタを怖いと思う。
でもあいつは、アジスタの事は怖くないと言う。
本当によくわかんねぇ奴。
綺麗でふわふわ笑ってて、言葉ものんびりしてる感じで。争い事なんて無縁です。って感じの奴なのに。
見た目だけで判断してたら、多分駄目なんだと思う。
本能か何かが、こいつは危ない奴。とか訴えて来るみたいに、あいつの前だと委縮してる自分がいる、そうさっき気付いた。
「どうでも良いかな」
アジスタ以外、どうでも良さ気だと言った俺に、綺麗な笑顔付きで返された言葉。
こいつにかかったら、どうでも良い俺は、きっと簡単に殺されるんだろう。
そう思って、一瞬ゾッとした。
固まってる間に、あいつは部屋から出て行ったけど。
アジスタとあいつは、敵に回したら絶対ヤバい奴。俺の中にそうインプットされた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
生まれ変わっても一緒にいたい人
把ナコ
BL
わたしは今日、死んだ。そして、生まれた。
どうやらわたしは記憶を持ったまま転生したらしい。
流行性肺炎で命を落とした女が異世界で男になって生まれ変わった。
そして前世で大好きだった旦那様と出会う。せつなくもやさしい愛のお話。
アレク×ヨシュア
小説家になろうサイトにて先行掲載中です。先が気になる方はそちらへ♪
https://novel18.syosetu.com/n5937gk/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる