FULLMOON 番外編

藤野 朔夜

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リグアザードとグライシズ

勘違い

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「あれ、まだいたんだ」
  グライシズに声をかけてきたのは、二人目の弟。
  昨日は一人目の弟と話しをした記憶があるけど。今この場にいたのは、弟その二だった。
「まだいましたよー。アジスタのとこにね」
  今日の僕は、昨日までの不機嫌さなんて、さっぱりとなくなっている。
  さらりと弟その二に返して、僕はアジスタの為に、水を取りに来たのだったと、さっさと台所へ向かう。
  ちゃんと後始末はしましたよ。アジスタが、ソファを見て眉間に皺を寄せたから、ソファも綺麗にしてきた。
  ぐったりしてる大男を運ぶのは、さすがに苦労したけど。今はアジスタは、大人しくベッドにいるはずだ。というか、いてもらわなきゃ困る。
  あんな状態で、あの女の子に会いにでも行かれたら、僕はちょっと本気で女の子を殺しそう。
「あんたってさ、アジスタの事、怖くないわけ?」
  いっつも一緒にいるよな。と弟その二。
  何、気になるの。そんなこと。
「君たちが産まれる前から、ずっと一緒にいたからねぇ。今更だよ。というか、僕はアジスタを怖いと思った事は、一度もないかな。何せ産まれたばっかのアジスタを見てるし」
  可愛かったなぁ、産まれたばっかのアジスタ。
  いや、今と同じく無表情だったけど。子どもらしからぬ、無表情だったけど。
  だもんだから、困ったアジスタの親が、当時まだ子どもだった僕なら、アジスタの事わかってあげられるんじゃないかとか言って、会わせてくれたのには感謝だよね。僕だって、初めからわかる事なんて少なかったけど。無表情なりに、訴えてくることは何となーくで察して、世話焼いてたら、そのまま僕がアジスタの世話係になってたけど。
「産まれたばっかのアジスタ……」
  想像つかないのか、弟その二は繰り返している。
  や、まぁ、君たちが産まれた時にはすでにアジスタ大人だったしね。
  僕たちの種族で言う、大人。だけどさ。
「癇癪起こして、力暴走させてるアジスタを止めるの、僕の役目だったからね」
  思い通りにならない、して欲しいことが伝わらならないと、よく癇癪を起していた。
  いや、わかんないから。無表情で訴えられても。
  でも、そんなこと繰り返してたら、段々とアジスタの考えはわかってくるもので。
  子どもだったからっていうのも、大きかったかもしれない。
  何をして欲しいだとか、そういう事は何となくわかるようになってて、癇癪を起すのも少なくなって行ったと思う。
  アジスタも成長して行けば、どんどん力の制御方法わかってきてたし。
  まぁ、無表情でも僕が色々とわかって先回りするようになったもんだから、今でも無表情なんだけど。
  アジスタをわかる為には、観察が必要で。そのまま観察し続けた結果が、今の僕のこのどうしようもない想いに繋がるんだけど。
「力暴走させたアジスタなんて、よく止められたな」
「子どもの力だしねぇ。ま、その頃は僕もまだ子どもだったけど。数年は早く産まれただけ、知恵は有ったんだよ」
  僕はその頃にはもう、力の加減はわかってたし。
  第一優先はアジスタの気持ちだったし。癇癪起こすって事は、何かをして欲しいって表れだったし。
  無表情のアジスタからのサインなんだから、僕はしっかり受け止めなきゃとか何とか思ってたな。あれ、僕きっとその頃からもうアジスタの事好きだったのかも?
「あんたってさ、綺麗な顔してるのに、アジスタ以外どうでも良さ気だよな」
  弟その二は、僕の名前知らないんじゃなかろうか。
  というか、そんな君に言われたくはないよ。
「実際、どうでも良いかな。アジスタがここにいるから、僕はここにいるだけだし」
  この弟その二だって、産まれたばっかの時に、僕によって殺されたかもしれないという危機を知らない。
  ま、知らなくて当然なんだけど。
  無害そうな顔して、考えてることがえげつない。そう言ったのは、誰だったかな。
  家族の誰かだったかもしれない。でも、どうでも良いや。
  僕たちの種族で、無害な奴なんて、いやしないのにね。
  アジスタが所望した水を持って、さっさとその場を後にする。
  弟と団らんしたって、つまらない。どうせなら、アジスタと会話したい。





  一番上の兄には、くっそ綺麗なんだけど、何考えてるのかよくわかんない友人、という奴がいる。
  というか、その一番上の兄が一番わかんないんだけど。
  いつも無表情で、無愛想。笑った顔なんか見た事ないし。
  いっつも怒ってんじゃないのか、とすら思うほどの兄に、簡単に笑顔を振りまいてそばにいる奴。
  強そうには見えないんだけど、さっきの会話で、ガキの頃の兄の力の暴走を止めてたとか聞いたら、そいつも強い奴なんだとわかった。
  笑顔でいる割に、自分の事を話さない奴。
  聞けばそれなりに答えてはくれるんだけど、なーんか、言葉が足りないんだよな。
  綺麗な顔を利用して、一時期人間を虜にしては捨てて、を繰り返してたみたいだけど。
  最近じゃ、この家に来るくらいで、人間のいる場所に行ってる素振りがない。
  家には誰もいないから、暇だ。とか言ってたけど。
  俺もそんなに人間の多いとこに行く気は起きないし、なんかそういう周期でもあるんだろう。
  シアンはここんとこ、出かけっぱなしが多いけど。
  あれ、そういえば、一番上の兄アジスタも、よく出かけてる。それも昼間に。
  何やってるんだか知らないけど。
  シアンが出かけるのは夜が多いから、シアンのは食事事情だろう。知らないが。
  でも昼間に出かけるアジスタの、理由がよくわからん。
  あんなくそ目立つ格好で出かけてくアジスタ。どうせ見付かったって、あのアジスタなら人間になんて、何もされないだろうけど。
  っていやいやいやいや。俺は別に兄たちの事を心配なんて、断じてしてない。
  シアンなんかはよく俺の事おもちゃにして遊ぶから、いない方が静かで良い。
  アジスタはいるだけで存在が恐いから、いない方が心は平安だ。
  あいつは、アジスタの事を怖くないと言った。それだけの力があるのか、とも思ったけど。
  ガキの頃のアジスタを知っているとも言った。自分もその頃はガキだったけど、数年早く産まれていたと。
  ってことは、あいつのがアジスタより年上なわけ?
  ガキのアジスタね。想像もつかない。
  俺が産まれた時には、アジスタはもうアジスタだったし。あれ、よくわかんないな、この言い回し。
  とにかく、怖い存在だったわけ。
  いるだけで委縮するっていうか、そんな感じ。
  めっちゃ負けてる感じが半端ないから、絶対に恐がり過ぎないようにしてるつもりだけど。
  無言で無表情で、そこに座ってるだけだってのに、威圧感が半端ない。
  あ?無言で無表情だから、威圧されてるように感じるのか?
  どっちでも良いんだけど。
  とにかく俺は、アジスタを怖いと思う。
  でもあいつは、アジスタの事は怖くないと言う。
  本当によくわかんねぇ奴。
  綺麗でふわふわ笑ってて、言葉ものんびりしてる感じで。争い事なんて無縁です。って感じの奴なのに。
  見た目だけで判断してたら、多分駄目なんだと思う。
  本能か何かが、こいつは危ない奴。とか訴えて来るみたいに、あいつの前だと委縮してる自分がいる、そうさっき気付いた。
「どうでも良いかな」
  アジスタ以外、どうでも良さ気だと言った俺に、綺麗な笑顔付きで返された言葉。
  こいつにかかったら、どうでも良い俺は、きっと簡単に殺されるんだろう。
  そう思って、一瞬ゾッとした。
  固まってる間に、あいつは部屋から出て行ったけど。
  アジスタとあいつは、敵に回したら絶対ヤバい奴。俺の中にそうインプットされた。
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