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第四章

第53話 漆黒の剣について聞いてみる

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 通された部屋はベッドと机が置かれているだけの簡素の部屋だった。この豪邸の主の部屋としては似つかわしく無いように思える、そんな部屋だ。

「お加減いかがですか?」

 部屋にはクラウディアさんと同じような美しい金色の髪をオールバックにした中年の男が、ベッドの上で座っている。

 この人はローレンツさん。クラウディアさんのお父さんで、かつてブリンテルト王国の宮廷魔術師として王国にこの人有りと言われた天才魔術師だ。

「おお、これはクラウド殿にセバス殿。おかげさまで、体調も良くなってきました。クラウド殿たちのおかげですよ」

 確かに昨日見た時よりも顔色がだいぶ良くなっているようだ。本当に体調が以前よりよくなってきているのだろ。

「で、今日はどうされました? お二人の顔を見るに私に何か用があるようにお見受けするが」

「はい、実はローレンツさんにお伺いしたいことがありまして――セバスさん」

 僕がセバスに声を掛けると。

「はい。ローレンツ様、これを」

 セバスさんはアイテムボックスから黒く染まった浄化の聖剣を取り出しローレンツさんに見せる。

「――この剣に、何かありましたか?」

 やはり、ローレンツさんもこの剣から発する異様な気配は感じられていないようだ。

「はい、少し気になる事がありまして……お伺いしたい事というのは、この剣をいつ、どこで手に入れられたのかという事なのですが――」

 僕の様子に何か感じたのだろう。ローレンツさんは理由を聞く事無く剣について話し始めた。

「この剣を手に入れたのは今から1年ほど前です。当時国からの依頼で、大森林にて新たに発見された迷宮の調査をしておりました。その迷宮は5層構造の小さな迷宮で、魔物も出ない不思議な迷宮でした。迷宮の調査は順調に進み、調査開始からわずか2日目、最奥の部屋に到達しそこでこの剣を見つけました。部屋の中は何か儀式を執り行うような祭壇が造られており、その祭壇の上にこの黒い剣と共に黒い杯と黒い勾玉が置いてあったのを覚えています」

 セバスさんが言っていた状況とよく似ている。

「杯と勾玉は当時私とパーティーを組んでいたのが持っているはずです」

「その杯と勾玉は、これと同じ物ではありませんでしたか?」

 セバスさんはそう言うと、アイテムボックスから黒い聖杯と黒い勾玉を出しローレンツさんに見せる。

「これは……同じです。確かにこれと同じ物でした。……しかし、これをどこで?」

「詳細はお答え出来ませんが、これはローレンツ様が黒い剣を発見されるより以前に、私が当時の仲間と共に見つけた物です」


 浄化の神器が全てその部屋にあったとなると……

『セバスさん。やはり邪神の欠片が封印されていた迷宮でしょうか?』

『おそらく……間違いないでしょう』

 やっぱり……そうだよな――

「その迷宮の位置はお分りでしょうか?」

 セバスさんは更に問う。

「場所ですか……少し待って下さい」

 ローレンツさんは、ベッドから起きると机に移動し一番下の引き出しを開ける。そこから指輪ケースを出し、深い赤色の宝石が装飾された指輪を取り出した。

 そしてローレンツさんが指輪に魔力を通すと、手の上に少々汚れが目立つ紙の束が現れる。

「お待たせした。これを」

 ローレンツさんから渡された紙の束には地図やマップが書かれてあった。

「これは……迷宮の?」

「はい、迷宮の位置が書かれた地図と迷宮内のマップです」

「やはりそうですか。これをお借りしても?」

「ええ、私にはもう必要ありませんので、お持ちいただいて結構です」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 地図を見ると迷宮は大森林の中でもコルマ村から比較的近い位置にあるようだ。セバスさんに地図とマップを渡す。

「……確かに受け取らせていただきました」

 紙束を一通り目を通すとセバスさんはそう言ってアイテムボックスに入れる。

『クラウド様。時間に余裕があるか分かりません。出来るだけ早く行動を起こされるのが良いかと』

 紙束をアイテムボックスに入れると、セバスさんが早々に念話で話しかけれくる。いつも余裕があり常に落ち着いて行動するセバスさんとは思えない行動だ。おそらくそれだけ切羽詰まった状況なんだろう。

「ローレンツさん、早急に迷宮を確認したいのですが、無断で入っても良いでしょうか?」

「あの迷宮は、放棄迷宮ですので、特に入るのに許可は必要ありません。入口の扉は閉じておりますが特に鍵も掛かってないですし無断で入っても問題ないでしょう」

 これなら今から向かっても問題ないか――

「ローレンツさん、色々ありがとうございます。これから直ぐに迷宮に向かいたいと思います」

「もう、行かれるのか?」

 僕達の早急な物言いに少し驚いたようだ。

「はい、なるべく早く、確認したい事がありますので」

「そうですか。分かりました。何か力になれる事があったら、いつでも言って下さい」

「ありがとうございます。ローレンツさんもご無理はなされませんように。それでは、失礼させていただきます」

 そして僕達はローレンツさんの部屋から退出した。クラウディアさんも僕達の後を追い部屋から出てくる。



「あの……」

レヴィ達が待っている部屋に向かう途中クラウディアさんが躊躇いながら声をかけてくる。

「はい、なんでしょうか?」

 僕は足を止めず応える。

「もう、行ってしまわれるのですか?」

 なんとなく言いたい事は分かる。

「……はい、急ぎの用が出来ましたので」

「そうですか……あの……あの……私も、私も付いて行ってダメでしょうか?」

 迷宮でも、変な事を口走っていた時が有っから、なんとなくこうなるんじゃないかと思ってはいたが……

「申し訳ないです。……これから僕達がやろうとしている事は、かなりの危険が伴います。自分の身を守るのに手一杯になるでしょう。正直、実力が伴わない者が同行する事になれば僕の命も危険にさらされることになます。ですので申し訳ありませんが、あなたを連れて行くことは出来ません」

 少しキツイ言い方になったが、今回ばかりは連れて行くわけには行かない。

「……分かり――ました……」

 クラウディアさんは他にも何が言いたそうにしていたが、それ以上は何も言う事なくその話は終わった。
 

 その後、レヴィ達と合流した僕達は、クラウディアさんには席を外してもらった状態で全員に事情を話し、これからの事を相談する。

「セバス、あなたは邪神の復活についてどう判断しているの」
 
「迷宮を調査してみなければ正確な事は言えませんが、おそらく邪神は復活していると思われます」

 セバスさんの答えに質問をしたアキーレさんだけでなく全員が険しい顔になる。

「ただ完全復活するまでに、どれだけ時間があるかまでは分かりません。おそらく迷宮に行けばその辺りも多少分かるのではないかと」

「それなら早く向かった方がいいよね。話は移動中にも出来るし早く行動に移ろうよ」

 レヴィの言葉に全員は頷く。確かに今は早急に迷宮を確認する必要がある。

 そうと決まれは僕たちは行動が早い――僕達というより装備達がだけど。

 そんな訳で、すぐさまクラウディアさん達に挨拶を済ませる。今までの事を考えると少しあっさりしすぎている感じもするが、状況が状況だ。焦る気持ちを抑えつつ僕たちは邪神の迷宮に向け急ぎ出発した。
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