上 下
34 / 69
第四章

第53話 漆黒の剣について聞いてみる

しおりを挟む
 ブックマーク&ポイントありがとう御座います。
********************************************

 通された部屋はベッドと机が置かれているだけの簡素の部屋だった。この豪邸の主の部屋としては似つかわしく無いように思える、そんな部屋だ。

「お加減いかがですか?」

 部屋にはクラウディアさんと同じような美しい金色の髪をオールバックにした中年の男が、ベッドの上で座っている。

 この人はローレンツさん。クラウディアさんのお父さんで、かつてブリンテルト王国の宮廷魔術師として王国にこの人有りと言われた天才魔術師だ。

「おお、これはクラウド殿にセバス殿。おかげさまで、体調も良くなってきました。クラウド殿たちのおかげですよ」

 確かに昨日見た時よりも顔色がだいぶ良くなっているようだ。本当に体調が以前よりよくなってきているのだろ。

「で、今日はどうされました? お二人の顔を見るに私に何か用があるようにお見受けするが」

「はい、実はローレンツさんにお伺いしたいことがありまして――セバスさん」

 僕がセバスに声を掛けると。

「はい。ローレンツ様、これを」

 セバスさんはアイテムボックスから黒く染まった浄化の聖剣を取り出しローレンツさんに見せる。

「――この剣に、何かありましたか?」

 やはり、ローレンツさんもこの剣から発する異様な気配は感じられていないようだ。

「はい、少し気になる事がありまして……お伺いしたい事というのは、この剣をいつ、どこで手に入れられたのかという事なのですが――」

 僕の様子に何か感じたのだろう。ローレンツさんは理由を聞く事無く剣について話し始めた。

「この剣を手に入れたのは今から1年ほど前です。当時国からの依頼で、大森林にて新たに発見された迷宮の調査をしておりました。その迷宮は5層構造の小さな迷宮で、魔物も出ない不思議な迷宮でした。迷宮の調査は順調に進み、調査開始からわずか2日目、最奥の部屋に到達しそこでこの剣を見つけました。部屋の中は何か儀式を執り行うような祭壇が造られており、その祭壇の上にこの黒い剣と共に黒い杯と黒い勾玉が置いてあったのを覚えています」

 セバスさんが言っていた状況とよく似ている。

「杯と勾玉は当時私とパーティーを組んでいたのが持っているはずです」

「その杯と勾玉は、これと同じ物ではありませんでしたか?」

 セバスさんはそう言うと、アイテムボックスから黒い聖杯と黒い勾玉を出しローレンツさんに見せる。

「これは……同じです。確かにこれと同じ物でした。……しかし、これをどこで?」

「詳細はお答え出来ませんが、これはローレンツ様が黒い剣を発見されるより以前に、私が当時の仲間と共に見つけた物です」


 浄化の神器が全てその部屋にあったとなると……

『セバスさん。やはり邪神の欠片が封印されていた迷宮でしょうか?』

『おそらく……間違いないでしょう』

 やっぱり……そうだよな――

「その迷宮の位置はお分りでしょうか?」

 セバスさんは更に問う。

「場所ですか……少し待って下さい」

 ローレンツさんは、ベッドから起きると机に移動し一番下の引き出しを開ける。そこから指輪ケースを出し、深い赤色の宝石が装飾された指輪を取り出した。

 そしてローレンツさんが指輪に魔力を通すと、手の上に少々汚れが目立つ紙の束が現れる。

「お待たせした。これを」

 ローレンツさんから渡された紙の束には地図やマップが書かれてあった。

「これは……迷宮の?」

「はい、迷宮の位置が書かれた地図と迷宮内のマップです」

「やはりそうですか。これをお借りしても?」

「ええ、私にはもう必要ありませんので、お持ちいただいて結構です」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 地図を見ると迷宮は大森林の中でもコルマ村から比較的近い位置にあるようだ。セバスさんに地図とマップを渡す。

「……確かに受け取らせていただきました」

 紙束を一通り目を通すとセバスさんはそう言ってアイテムボックスに入れる。

『クラウド様。時間に余裕があるか分かりません。出来るだけ早く行動を起こされるのが良いかと』

 紙束をアイテムボックスに入れると、セバスさんが早々に念話で話しかけれくる。いつも余裕があり常に落ち着いて行動するセバスさんとは思えない行動だ。おそらくそれだけ切羽詰まった状況なんだろう。

「ローレンツさん、早急に迷宮を確認したいのですが、無断で入っても良いでしょうか?」

「あの迷宮は、放棄迷宮ですので、特に入るのに許可は必要ありません。入口の扉は閉じておりますが特に鍵も掛かってないですし無断で入っても問題ないでしょう」

 これなら今から向かっても問題ないか――

「ローレンツさん、色々ありがとうございます。これから直ぐに迷宮に向かいたいと思います」

「もう、行かれるのか?」

 僕達の早急な物言いに少し驚いたようだ。

「はい、なるべく早く、確認したい事がありますので」

「そうですか。分かりました。何か力になれる事があったら、いつでも言って下さい」

「ありがとうございます。ローレンツさんもご無理はなされませんように。それでは、失礼させていただきます」

 そして僕達はローレンツさんの部屋から退出した。クラウディアさんも僕達の後を追い部屋から出てくる。



「あの……」

レヴィ達が待っている部屋に向かう途中クラウディアさんが躊躇いながら声をかけてくる。

「はい、なんでしょうか?」

 僕は足を止めず応える。

「もう、行ってしまわれるのですか?」

 なんとなく言いたい事は分かる。

「……はい、急ぎの用が出来ましたので」

「そうですか……あの……あの……私も、私も付いて行ってダメでしょうか?」

 迷宮でも、変な事を口走っていた時が有っから、なんとなくこうなるんじゃないかと思ってはいたが……

「申し訳ないです。……これから僕達がやろうとしている事は、かなりの危険が伴います。自分の身を守るのに手一杯になるでしょう。正直、実力が伴わない者が同行する事になれば僕の命も危険にさらされることになます。ですので申し訳ありませんが、あなたを連れて行くことは出来ません」

 少しキツイ言い方になったが、今回ばかりは連れて行くわけには行かない。

「……分かり――ました……」

 クラウディアさんは他にも何が言いたそうにしていたが、それ以上は何も言う事なくその話は終わった。
 

 その後、レヴィ達と合流した僕達は、クラウディアさんには席を外してもらった状態で全員に事情を話し、これからの事を相談する。

「セバス、あなたは邪神の復活についてどう判断しているの」
 
「迷宮を調査してみなければ正確な事は言えませんが、おそらく邪神は復活していると思われます」

 セバスさんの答えに質問をしたアキーレさんだけでなく全員が険しい顔になる。

「ただ完全復活するまでに、どれだけ時間があるかまでは分かりません。おそらく迷宮に行けばその辺りも多少分かるのではないかと」

「それなら早く向かった方がいいよね。話は移動中にも出来るし早く行動に移ろうよ」

 レヴィの言葉に全員は頷く。確かに今は早急に迷宮を確認する必要がある。

 そうと決まれは僕たちは行動が早い――僕達というより装備達がだけど。

 そんな訳で、すぐさまクラウディアさん達に挨拶を済ませる。今までの事を考えると少しあっさりしすぎている感じもするが、状況が状況だ。焦る気持ちを抑えつつ僕たちは邪神の迷宮に向け急ぎ出発した。
************************************************
 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 ブックマークや評価ポイントを頂けると、とても励みになります。

アルファポリス様でランキング参加する事にしました。下のバナーからよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完】真実をお届け♪※彷徨うインベントリ※~ミラクルマスターは、真実を伝えたい~

桜 鴬
ファンタジー
スキル無限収納は、別名を亜空間収納といわれているわ。このスキルを所持する人間たちは、底無しとも言われる収納空間を利用出来るの。古の人間たちは誰もが大気中から体内へ無限に魔力を吸収巡回していた。それ故に誰もが亜空間を収納スペースとして利用していた。だけどそれが当たり前では無くなってしまった。それは人間の驕りからきたもの。 やがて………… 無限収納は無限では無く己の魔力量による限りのある収納となり、インベントリと呼ばれるようになった。さらには通常のスキルと同じく、誰もが使えるスキルでは無くなってしまった……。 主を亡くしたインベントリの中身は、継承の鍵と遺言により、血族にのみ継承ができる。しかし鍵を作るのは複雑て、なおかつ定期的な更新が必要。 だから…… 亜空間には主を失い、思いを託されたままの無数のインベントリが……あてもなく……永遠に……哀しくさ迷っている………… やがてその思いを引き寄せるスキルが誕生する。それがミラクルマスターである。 なーんちゃってちょっとカッコつけすぎちゃった。私はミラクルマスター。希少なスキル持ちの王子たちをサポートに、各地を巡回しながらお仕事してまーす!苺ケーキが大好物だよん。ちなみに成人してますから!おちびに見えるのは成長が遅れてるからよ。仕方ないの。子は親を選べないからね。あ!あのね。只今自称ヒロインさんとやらが出没中らしいの。私を名指しして、悪役令嬢だとわめいているそう。でも私は旅してるし、ミラクルマスターになるときに、王族の保護に入るから、貴族の身分は捨てるんだよね。どうせ私の親は処刑されるような罪人だったから構わない。でもその悪役令嬢の私は、ボンキュッボンのナイスバディらしい。自称ヒロインさんの言葉が本当なら、私はまだまだ成長する訳ですね!わーい。こら!頭撫でるな!叩くのもダメ!のびなくなっちゃうー!背はまだまだこれから伸びるんだってば! 【公開予定】 (Ⅰ)最後まで優しい人・㊤㊦ (Ⅱ)ごうつくばりじいさん・①~⑤ (Ⅲ)乙女ゲーム・ヒロインが!転生者編①~⑦ 短編(数話毎)読み切り方式。(Ⅰ)~(Ⅲ)以降は、不定期更新となります<(_ _*)>

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

レアモンスターの快適生活 ~勇者や魔王に目を付けられずに、楽して美味しくスローライフしよう~

スィグトーネ
ファンタジー
 剣と魔法のファンタジー世界。  その森の片隅に住む【栗毛君】と呼ばれるウマこそ、今回の物語の主人公である。  草を食んで、泥浴びをして、寝て……という生活だけで満足しない栗毛君は、森の中で様々なモノを見つけては、そのたびにちょっかいを出していく。  果たして今日の彼は、どんな発見をするのだろう。 ※この物語はフィクションです ※この物語に登場する挿絵は、AIイラストさんで作ったモノを使用しています

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「黒炎の隼」

蛙鮫
ファンタジー
人々を襲う怪物。忌獣を一人で討伐し続ける青年。松阪隼人。そんな彼がとあるきっかけで忌獣を討伐する組織『忌獣対策本部』の戦闘員を育成する学園『金剛杵学園』に入学する事になる。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

処理中です...