友達の定義

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第一章

いっくん

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「そんなに嬉しいのか?」

「今まで相手にもされなかったから、今度こそ話を聞いてくれたら仲直りできると思う」

「仲直り?」

「乗り越えないといけないことがあるんだ」

色々思い浮かぶことがありすぎて俺の視線は彷徨う。
不思議なものを聞いたとも言いたげに田中は目を細める。

「乗り越える?」

「色々な・・・」

アイツのこととか。あのコトとか。何故、逃げ出したのか。何故、助けてくれなかったのか。
いっくんに訊きたいことはたくさんある。
田中には話せないことばかり。

「じゃあ、深見の隣に座るか?」

言いたくないことを察してくれたのか、田中は余計なことは言わない。
田中が貴子姉ちゃん以外のことには興味が無いことがこれほど嬉しかったことはなかったかもしれない。

「ああ」

俺たちはいっくんの隣りに座る。いっくんの隣りは俺で、その横に田中という席順だ。

「いっくん、隣りいいか?」

「・・・」

いっくんは目だけ動かして俺を確認するとそれ以外の反応を返さない。

「いっくんと同じ高校で良かった」

「・・・」

「小中では駄目だったけど、俺はまた昔みたいにいっくんと友達になりたいんだ。高校でこそ、俺は仲直りしたいんだよ。これが最後のチャンスだと思うし」

「・・・。それは俺が望んだ時にいつでも抱かせるっていうことか?」

「?!」

何を言われたのか一瞬わからなかった。
抱かせる?

「お前の言う友達っていうのがそういうことなら、また声をかけてきたらいい。それ以外では声をかけるな」

いっくんはそう言って俺を視界に入れたくないのか、舞台の方向を見る。
いっくんは俺が抱きたい?
それは友達のすることじゃないだろ?
俺は田中のほうを見るが、田中には聞こえていなかったようだ。
それだけは助かった。
友達が肉体関係(それも「いっくんが望んだ時(!!)」)がないと駄目だなんてあり得ない。
いっくんは何を考えているんだ?!

「大丈夫か、鈴木」

珍しく田中が気遣ってくれる。
その優しさが嬉しい。
だが、反対側ではいっくんが鼻で笑った音が聞こえる。
田中は鼻に皺を寄せて、いっくんを睨んだ。

「何、笑ってるんだ、深見?」

「ありがとう、田中。気にしなくていい」

「顔色悪いぞ。鈴木。保健室、行ったほうがいい」

「保健室か。鈴木にはお似合いだな」

俺が相手ではないせいかいっくんが発言する。
いっくんの言い方だと、何故か保健室がいかがわしい場所のように聞こえる。それは俺の気のせいかもしれないが、田中にはそう聞こえないでいて欲しい。

「大丈夫だって。そんなに気を遣わなくても俺は元気だって」

俺は空元気を出して笑い飛ばす。
田中は何か言いたげな顔をした。
気を遣ってくれるのはありがたいが、今は逆効果だ。いっくんは悪い方向にしか捉えていない。
シスコンの田中がアイツと同じカテゴリーに入れられているのは可哀想過ぎる。

「お前がいいって言うなら、仕方ないが・・・。気分が悪くなったらすぐに行けよ」

いっくんはそんな俺たちを口を歪めて見ている。
田中といっくんは接点があるほうではなかったが、互いに悪印象を持っていることが今ではハッキリとわかる。
二人の間で緊張した空気が流れ、先生たちが入場してきてようやくそれが薄まったが、入学式が終わるまでその空気は漂い続けた。
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