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第八話

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 ハトガヤさんの軽妙な言葉に私は笑わずにはいられなかった。ミノベさんに話しかけられて、私にお礼を言うなんて器用な真似ができるのは、彼くらいだろう。
 笑う私に続いて、ミノベさんも笑う。

「ハトガヤさんと話していると、いつもこうなんですよ」
「でしょうね」

 笑い合う私とミノベさんにハトガヤさんが言う。

「露天風呂は6:00から開いてるんで、朝食前にも入れますよ。露天風呂と檜風呂に何度も浸かって一日過ごす人もいますし、宿の周りの散歩で一日潰す人もいます」

 天柳旅館の過ごし方のレクチャーに当初の目的にピッタリな宿だと思った。

(露天風呂と檜風呂に入って、自然の中を散策して、ゆっくり考えられる。・・・なんて贅沢な時間の使い方!)

 贅沢だとは思っても、そうでもしなければ、考える時間が取れなかった。

(彼と別れるなんて・・・、考えたくなかった。でも、考えるしかない)

 これが前世だったのなら。
 前世だけだったのなら、考える必要もなかった。
 でも、二度目。
 本当はこんな旅行なんかいらなかった。
 でも、また同じ間違いをしたくない。
 姉の陰に隠れて生きていく人生を、今度も送るなんて嫌だった。
 私を見てくれない彼を愛し続ける惨めな女でいるのも嫌だった。

(もう、嘘はたくさん)

 苦い思いで片方の口の端が上がる。声は自嘲気味になった。

「それは贅沢な過ごし方ですね」
「タナカさん?」

 不審がるミノベさんに私は笑顔を作る。

(いけない。詮索されるわけにはいかない)

「都会で疲れた身体を癒すには、絶好の場所ですね」
「・・・」

 ミノベさんの視線に耐えられず、私は真っ暗な窓の外に目を遣った。
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