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「つぎは、終点きさらぎです。」
男は、そのアナウンスで目が覚めた。
「やったぁ!」
男は小さく呟いた。
ついにこの時がやってきた。
この日をどんなに待ちわびたことか。
男は、大学の「オカルト研究会」なるサークルの部長である。
主に都市伝説について研究してきたが、男は、霊感ゼロのようで、くねくね、ひとりかくれんぼ、てけてけ、ヤマノケ、数々の都市伝説を解明しようと試みたが、まったくオカルト現象に遭遇したことがなかった。地元で有名な、心霊スポットにも足を向けたが、他の部員が何かを感じ取っても、男は何も感じることもなく終わることも度々であった。
電車で通うほどの距離ではなかったが、男が電車で通学するのには、ある目的があったのだ。
きさらぎ駅伝説。
男は、いつか、自分もきさらぎ行きの電車に乗れるのではないかと、どんな場所に移動するにも、極力電車を利用していたのだ。
男は、隣のどんよりと曇った表情のサラリーマンと思しき男に声をかけた。
「終点で降りられるのですか?」
サラリーマンは、無機質なロボットのような顔を男に向けた。
「僕ね、大学でオカルト研究会に入ってて。いやぁ、まさか、きさらぎに本当に行けるとは思ってもみませんでした。」
男は、無表情なサラリーマンに向かって、嬉々とした表情で、目をらんらんと輝かせて饒舌に語った。
「外部と連絡が取れなくなるって、本当ですね。でも、インターネットの世界だけはつながってるって不思議な話ですよね。案外、インターネットの世界が、異世界との通用口だったりして。だとしたら興味深い話ですよね。」
サラリーマンは、黙って男の話を聞いている。さらに、男は語る。
「今ね、この様子を録画してるんですよ。きさらぎ駅についてからも録画して、配信しようと思ってるんです。ねえ、だから協力してもらえませんか?あなたは、いつからこの電車に乗ってるんですか?」
「わからない。」
「うーん、やはり、長く居ると時間の感覚ってなくなっちゃうのかな?お見受けしたところ、30代くらいだと思うんですけど。もし違ってたらすみません。」
「・・・あんた、怖くないのか。」
「えっ?怖いって、何がです?」
「この電車はきさらぎ行きなんだぞ。」
「むしろ、わくわくしています。」
「きさらぎに降りたらどうなるかわからないんだぞ?」
「噂では、生きている人間は、いつかは帰れるって聞いています。だから、そのへんは心配ないです。あと、帰り方も知っていますし。あなたは、もうこの世の人ではないんですか?」
サラリーマンは、黙り込む。
「あぁ~、無理には聞きません。きっとお辛いこともあるでしょうし。」
「帰り方を、知っているということだけど。どうやって帰るんだ?」
「あぁ、何か、燃やせばいいんですよ。煙を出せば、元の世界に帰れるって聞いてます。」
そう言って、男はポケットに忍ばせたマッチを出して見せた。
「あと、こちらの食べ物を決して口にしてはならない。その点は、大丈夫そうです。」
「果たしてそうかな。」
サラリーマンは意味深な笑いを正面の窓に映した。男は怪訝な顔で彼を見つめた。
「終点きさらぎです。お忘れ物のございませんよう、ご用意願います。」
そのアナウンスに、男は浮足立つ。
ついに、きさらぎに降り立つ時が来た。
どうやら終点にもかかわらず、そのサラリーマンは降りる様子もないようだ。
きさらぎ駅は終点にも関わらず、次にやみ駅があるという噂も聞いたことがある。
このまま乗って、その真相を確かめたい気もするが、とりあえずは目的地の調査だ。
「じゃあ、お先に。」
そうサラリーマンに告げると、男はきさらぎ駅に降り立った。
サラリーマンは、おもむろに、スマホを取り出すと、電源を入れる。
そこには、どこよりも早い速報の文字が窓枠におさめられていた。
「〇〇駅で、通り魔事件発生。被害者は、大学生。加害者の男性は、30代会社員。被害者の大学生を刃物で刺した後、自殺を図り重体。加害者男性は精神科に通院歴あり。被害者との面識はない模様。」
「つぎは、やみ駅~。」
そのアナウンスの後、その駅から一人の青年が乗り込んできた。
「あ、あなたは・・・。」
その青年は、サラリーマンを見つけると、懐かしそうに隣に座ってきた。
「以前、お会いしましたよね?」
サラリーマンの男は無機質なロボットのような顔を、青年に向けた。
「僕ね、大学でオカルト研究会に入ってて。いやぁ、まさか、きさらぎに本当に行けるとは思ってもみませんでした。」
「きさらぎは、どうだった?」
「え?どうだったって・・・・」
「思い出せないんだろう?」
「確かに、きさらぎに行ったはずなのに。あれえ?おかしいな。」
リュックをまさぐると、青年はスマホを探し始めた。
「あ、あった!これにおさめられているはず。動画撮ったんですよ。」
そう言いながら、動画再生を試みるも、そこには何も映っていない。
「あれ?おかしいな。絶対に動画を撮らないはずはないんだけど。故障かな?」
「撮れないんだよ。あそこは。」
「えっ?」
青年が顔を上げると、サラリーマンはおもむろに、ポケットからマッチを取り出した。
「あっ、それ、俺の。いつの間に!返してください!」
青年が手を差し出すと、サラリーマンの男は立ち上がった。
「悪いが、帰るのは俺だ。」
そう言いながら、その男はマッチを擦った。
煙の臭いとともに、アナウンスが流れる。
「きさらぎ駅です。お忘れ物のございませんよう、ご用意願います。」
煙の向こうにサラリーマンが消えていく。
「よかったな。夢がかなって。お前は、ずっときさらぎ行きの電車に乗れる。」
男は、そのアナウンスで目が覚めた。
「やったぁ!」
男は小さく呟いた。
ついにこの時がやってきた。
この日をどんなに待ちわびたことか。
男は、大学の「オカルト研究会」なるサークルの部長である。
主に都市伝説について研究してきたが、男は、霊感ゼロのようで、くねくね、ひとりかくれんぼ、てけてけ、ヤマノケ、数々の都市伝説を解明しようと試みたが、まったくオカルト現象に遭遇したことがなかった。地元で有名な、心霊スポットにも足を向けたが、他の部員が何かを感じ取っても、男は何も感じることもなく終わることも度々であった。
電車で通うほどの距離ではなかったが、男が電車で通学するのには、ある目的があったのだ。
きさらぎ駅伝説。
男は、いつか、自分もきさらぎ行きの電車に乗れるのではないかと、どんな場所に移動するにも、極力電車を利用していたのだ。
男は、隣のどんよりと曇った表情のサラリーマンと思しき男に声をかけた。
「終点で降りられるのですか?」
サラリーマンは、無機質なロボットのような顔を男に向けた。
「僕ね、大学でオカルト研究会に入ってて。いやぁ、まさか、きさらぎに本当に行けるとは思ってもみませんでした。」
男は、無表情なサラリーマンに向かって、嬉々とした表情で、目をらんらんと輝かせて饒舌に語った。
「外部と連絡が取れなくなるって、本当ですね。でも、インターネットの世界だけはつながってるって不思議な話ですよね。案外、インターネットの世界が、異世界との通用口だったりして。だとしたら興味深い話ですよね。」
サラリーマンは、黙って男の話を聞いている。さらに、男は語る。
「今ね、この様子を録画してるんですよ。きさらぎ駅についてからも録画して、配信しようと思ってるんです。ねえ、だから協力してもらえませんか?あなたは、いつからこの電車に乗ってるんですか?」
「わからない。」
「うーん、やはり、長く居ると時間の感覚ってなくなっちゃうのかな?お見受けしたところ、30代くらいだと思うんですけど。もし違ってたらすみません。」
「・・・あんた、怖くないのか。」
「えっ?怖いって、何がです?」
「この電車はきさらぎ行きなんだぞ。」
「むしろ、わくわくしています。」
「きさらぎに降りたらどうなるかわからないんだぞ?」
「噂では、生きている人間は、いつかは帰れるって聞いています。だから、そのへんは心配ないです。あと、帰り方も知っていますし。あなたは、もうこの世の人ではないんですか?」
サラリーマンは、黙り込む。
「あぁ~、無理には聞きません。きっとお辛いこともあるでしょうし。」
「帰り方を、知っているということだけど。どうやって帰るんだ?」
「あぁ、何か、燃やせばいいんですよ。煙を出せば、元の世界に帰れるって聞いてます。」
そう言って、男はポケットに忍ばせたマッチを出して見せた。
「あと、こちらの食べ物を決して口にしてはならない。その点は、大丈夫そうです。」
「果たしてそうかな。」
サラリーマンは意味深な笑いを正面の窓に映した。男は怪訝な顔で彼を見つめた。
「終点きさらぎです。お忘れ物のございませんよう、ご用意願います。」
そのアナウンスに、男は浮足立つ。
ついに、きさらぎに降り立つ時が来た。
どうやら終点にもかかわらず、そのサラリーマンは降りる様子もないようだ。
きさらぎ駅は終点にも関わらず、次にやみ駅があるという噂も聞いたことがある。
このまま乗って、その真相を確かめたい気もするが、とりあえずは目的地の調査だ。
「じゃあ、お先に。」
そうサラリーマンに告げると、男はきさらぎ駅に降り立った。
サラリーマンは、おもむろに、スマホを取り出すと、電源を入れる。
そこには、どこよりも早い速報の文字が窓枠におさめられていた。
「〇〇駅で、通り魔事件発生。被害者は、大学生。加害者の男性は、30代会社員。被害者の大学生を刃物で刺した後、自殺を図り重体。加害者男性は精神科に通院歴あり。被害者との面識はない模様。」
「つぎは、やみ駅~。」
そのアナウンスの後、その駅から一人の青年が乗り込んできた。
「あ、あなたは・・・。」
その青年は、サラリーマンを見つけると、懐かしそうに隣に座ってきた。
「以前、お会いしましたよね?」
サラリーマンの男は無機質なロボットのような顔を、青年に向けた。
「僕ね、大学でオカルト研究会に入ってて。いやぁ、まさか、きさらぎに本当に行けるとは思ってもみませんでした。」
「きさらぎは、どうだった?」
「え?どうだったって・・・・」
「思い出せないんだろう?」
「確かに、きさらぎに行ったはずなのに。あれえ?おかしいな。」
リュックをまさぐると、青年はスマホを探し始めた。
「あ、あった!これにおさめられているはず。動画撮ったんですよ。」
そう言いながら、動画再生を試みるも、そこには何も映っていない。
「あれ?おかしいな。絶対に動画を撮らないはずはないんだけど。故障かな?」
「撮れないんだよ。あそこは。」
「えっ?」
青年が顔を上げると、サラリーマンはおもむろに、ポケットからマッチを取り出した。
「あっ、それ、俺の。いつの間に!返してください!」
青年が手を差し出すと、サラリーマンの男は立ち上がった。
「悪いが、帰るのは俺だ。」
そう言いながら、その男はマッチを擦った。
煙の臭いとともに、アナウンスが流れる。
「きさらぎ駅です。お忘れ物のございませんよう、ご用意願います。」
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