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20話 お疲れ様
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女神様の像は中央広場から長い階段を登った先にある王城の入り口に置かれている。
カミルは精霊をエスコートする騎士様として、衣装に着替えていた。
青いマントを羽織り、白銀の胸当てと脛まで覆う長いブーツが長身のカミルにとても似合ってて格好いい。
(カミル、ただでさえお顔がいいのに……!)
普段と違う格好をしたカミルが、格好良く見えてしょうがなかった。
「精霊様、お手を」
「……はい」
跪くカミルの手を取る。
(……すごいタコ!)
想像していた手の感触よりも、ずっとゴツゴツしていた手のひらに、驚く。
どれだけ剣を握り、特訓していたのだろうか。
「……驚いた」
「えっ?」
「近くで見たら、こんなに……。最高に綺麗だと、思っていたのに、それよりももっときれいに見えるだなんて、驚いた」
カミルがふわりと、とろけるような笑みを浮かべる。
「わ、私も、驚いた」
「へへ、まさか俺がトーナメントに出るなんて思っていなかったろう?」
「それもだけど……。こ、こんなに逞しい手になってるから」
カミルはちょっと目を見張らせて、ちょっぴりとだけど、唇を尖らせて私から顔を逸らした。
(あ、久々の『なんでもない』ポーズだ!)
なにがツボに入ったんだろう。でも、久しぶりにカミルの照れてるのを誤魔化している姿が見れたのは、なんだか嬉しかった。
「……行こう」
「ええ、私の騎士様!」
カミルの手を、ぎゅっと握りしめる。
女神像までの階段は、長かった。普段、カミルのエスコートは馬車から乗り降りする時だけとかで、ほんの短い間だけしか手に触れることはないから、こんなに長い間ずっと手を繋いでいるのは、初めてだった。
右手には、カミルの手。左手には、春の花を詰めた籠を持って、階段を登っていく。
精霊役という大役を務めていることも、私を緊張させたけれど、カミルに手を引かれているこの状況にも、私はドキドキしていた。
よそ見してたら階段は危ないし、みっともないから、カミルの顔をじっと見たりはしないけれど……そっと横目で伺うと、真剣な表情のカミルの端正な横顔が目に入って、わー! とでも叫びたくなってしまう。
今、国中の人たちが私とカミルが階段を登る姿を見ている。
みんなは祝福の声をそれぞれあげていて、祭りを彩る音楽が奏でられてはいるけれど、私の頭の中にはそれは入ってこなくて、なんだか、静寂の中を歩いているような気がした。
それくらい、緊張していた。
そんなわけはないのに、静かで、永遠の時の中を歩き続けているんじゃないか、みたいな気持ちになった。
「……精霊様。女神様の元に辿り着きました」
カミルの声で、ハッとなる。
いつの間にか、長い階段を登り終えていた。カミルは一足先に階段の上に登り、私の手を引いて、私の体を引っ張り上げてくれた。
私たちが女神像の目の前までくると、賑やかな音楽はピタリとやみ、私の錯覚じゃなくって、本当に静寂に包まれた。
「……女神様。今年も、我が国は春を迎えました。今年、蕾を開かせた花たちを贈ります。どうか、一年間。変わらぬ祝福を下さいますようお願い申し上げます」
女神像に向かって、口上を述べて、私とカミルは礼をする。
そして、籠いっぱいに入った季節の花を、女神様に贈った。
チューリップやミモザ、パンジーといった花たちが、鮮やかに咲き誇っている。
私がお花を捧げるのにあわせて、教会の鐘が打ち鳴らされた。
カラァン、カラァンと広場中に鐘の音が響く。
──この鐘の音が、踊りの合図だった。
この女神像のそばで待機していた楽団が、女神様に捧げる舞の音楽を奏で始める。不思議な感覚で、やっぱり音は遠くに聞こえていて、私はなんだか静かな世界にいた。
緊張、している。
でも、やらなくちゃ。
私は踊りだした。頭の中は真っ白に近かったけど、振り付けは体に叩き込まれている。
きっと、緊張している自分を守るために、私は無意識に自分を静かな世界に追いやっているのだろう。おかげで、大勢の人に見られているはずなのに、人に見られている感じはしなかった。
精霊の衣装のひらひらとした服は可愛らしいけれど、動きづらい。布に脚を取られて、練習中は何度も転びそうになった。
お母様もお役目を果たした、精霊役。踊りを教えてくれた先生も、お墨付きをくれた。だから、大丈夫。
クルクルと廻るように、踊りながら、私はお母様のことを考えていた。
お母様も、見守ってくださっているだろうか。
ルーナ様からは不正を疑われたけれど、私がお母様と同じ精霊役に選ばれたのは、きっと、お母様の祝福のおかげだ。
「……」
もうすぐ、舞い終わる。あと、もう少し。
最後のステップを踏み切って、顔を上げると、女神像の微笑みが目に入った。
今まで、静かだった私の世界がパンと弾けたかのように、一気に私の耳に音が入ってくる。高らかに歌う人の声、子どもの笑う声、華やかな音楽の音色、私を讃えてくれる人たち、女神様への感謝の言葉。色んな声や音が一斉に私の中に押し寄せてくる。
(……私、精霊様のお役目、できたんだ……)
なんだか私は、誇らしい気持ちで、胸がいっぱいになった。
緊張感の糸が少し切れて、ふうと細く息を吐く。見ている人たちには気付かれないように、こっそりとしたけれど、きっと私の横にいるカミルは気づいている。
「……ミリア、お疲れ様」
カミルは、とびきりの優しい声で私に囁いた。
◆
お役目も終わり、私は衣装も着替えて、教会の一角にある待合室で、お迎えの馬車を待っていた。お父様のご用事が終わり次第、お父様と一緒に帰る予定だ。
お役目の間付き添ってくれていた神官と入れ替わるように、やってきてくれた侍女のマチルダと二人、待合室で待っていると、同じく騎士の装束を脱いだカミルが声をかけに来てくれた。
私がお父様を待っていることを伝えると、カミルは一緒に待っていると言ってくれて、私はカミルと待合室の椅子に並んで座っていた。
カミルのお迎えの馬車はもう来ているようだったけど、「一緒に待っていたい」って……。
マチルダは部屋の角で気配を隠して佇んでいる。
「もう、着替えちゃったんだな。……当たり前か」
「ええ。汚したりしちゃわないか心配してたから、着替えられてようやくホッとしたわ」
「すごいミリアには似合っていて、綺麗だったから、もう見れないのは残念だな」
カミルは眉を下げ、本当に残念そうな顔をしていた。
でも、ふと、ニコッと私に笑って見せて、もう一度口を開いた。
「やっぱり、エスコート役を勝ち取れてよかった。一番の特等席で精霊のミリアが見れた」
「う、うう……」
カミルが爽やかに笑って言う。
改めて言われると、恥ずかしかった。
この恥ずかしさに気がついたのが、お役目が終わった後で、よかった。
その前に気づいていたら、私は踊れなかったかもしれない。
……いいえ、お役目なのですから! やりますけれど! やり遂げてみせますけれど!
「もしかして、だけで、カミルったら、こんなことをしてしまうんだもの……」
「ミリアのことで、もう後悔はしたくなかったからな。それに、もしもミリアが精霊に選ばれなかったとしても、剣技を身につけていれば将来役に立つかもしれないだろ?」
恥ずかしすぎて火照った顔を抑えながら言えば、カミルは誇らしげに笑みを深めた。
「強ければその分、ミリアを守れる。無駄になんかならない」
真っ直ぐにそう答えるカミルの眼差しが、あまりにも眩しくて、私は「うん」としか言えなかった。
「俺、今日のことは一生忘れない」
「……わ、私も……」
カミルが眩しくて、格好良くて、嬉しくて。顔を俯かせてしまいたかったけれど、私はなんとか、カミルの優しげに細められた瞳を見つめ返しながら、小さな声で答えた。
もっと、堂々と。カミルみたいにまっすぐに言いたいのに。
……頑張ろう。これから。カミルがいままでずっと、恥ずかしくてしょうがない時でも、頑張ってくれていたように。
カミルの好意だけに甘えていないで、私も同じだけのそれを返したい。
密やかにそれを胸に誓って、私はカミルの目を見つめ続けた。昔だったら、カミルは目をそらしてしまうが、頑張って私を見つめ続けるけどどんどん顔を赤くさせていっていたけれど、今はもう、堂々と私を見つめて、けしてそらさない。
ただただ、愛おしげに、蕩けた瞳を私に向けてくれている。
──コンコン、とノックの音が響く。
「あ、きっと、お父様だわ!」
私はバッと立ち上がり、待合室の扉へ向かった。
「……カミルくん、今日は娘をエスコートしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ、光栄でした」
カミルはいまだに、お父様を目の前にするととても緊張するらしい。いつも、お父様の前では肩に力が入っているし、やたらと姿勢がいい。
「よく、優勝したね。大変だったろう、闘う君の姿はとても立派だったし、娘の手を引く姿は……頼もしかった」
でも、今日のお父様は、カミルの緊張とは裏腹にとても柔らかい笑みを浮かべていて。
「……またよかったら、我が家に遊びに来てくれ。これからも、娘をよろしく頼む」
お父様が、こんなことを言うだなんて……!
カミルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。けれど、すぐにお顔を微笑みに戻して、父の言葉に深く頷いた。
約束の六年間。その日は確実に近づいていた。
「……実は、さ、ミリアのお父さんも、精霊騎士、やったらしいよ」
「ええっ!?」
「それ聞いたら、絶対に俺もやらなくちゃ、って思って。だから、俺、頑張ったんだ。……頑張ってよかった」
し、知らなかった……。
カミルはどこから聞いたのかしら、と思っていたら、「君の兄上のクラウス卿に聞いた」って! なんでお母様とお父様の娘で、お兄様の妹の私だけが知らないの!?
それがちょっと納得いかないけど、でも、カミルがとっても嬉しそうだから、そんなことはどうでもいいや! よかった!
カミルは精霊をエスコートする騎士様として、衣装に着替えていた。
青いマントを羽織り、白銀の胸当てと脛まで覆う長いブーツが長身のカミルにとても似合ってて格好いい。
(カミル、ただでさえお顔がいいのに……!)
普段と違う格好をしたカミルが、格好良く見えてしょうがなかった。
「精霊様、お手を」
「……はい」
跪くカミルの手を取る。
(……すごいタコ!)
想像していた手の感触よりも、ずっとゴツゴツしていた手のひらに、驚く。
どれだけ剣を握り、特訓していたのだろうか。
「……驚いた」
「えっ?」
「近くで見たら、こんなに……。最高に綺麗だと、思っていたのに、それよりももっときれいに見えるだなんて、驚いた」
カミルがふわりと、とろけるような笑みを浮かべる。
「わ、私も、驚いた」
「へへ、まさか俺がトーナメントに出るなんて思っていなかったろう?」
「それもだけど……。こ、こんなに逞しい手になってるから」
カミルはちょっと目を見張らせて、ちょっぴりとだけど、唇を尖らせて私から顔を逸らした。
(あ、久々の『なんでもない』ポーズだ!)
なにがツボに入ったんだろう。でも、久しぶりにカミルの照れてるのを誤魔化している姿が見れたのは、なんだか嬉しかった。
「……行こう」
「ええ、私の騎士様!」
カミルの手を、ぎゅっと握りしめる。
女神像までの階段は、長かった。普段、カミルのエスコートは馬車から乗り降りする時だけとかで、ほんの短い間だけしか手に触れることはないから、こんなに長い間ずっと手を繋いでいるのは、初めてだった。
右手には、カミルの手。左手には、春の花を詰めた籠を持って、階段を登っていく。
精霊役という大役を務めていることも、私を緊張させたけれど、カミルに手を引かれているこの状況にも、私はドキドキしていた。
よそ見してたら階段は危ないし、みっともないから、カミルの顔をじっと見たりはしないけれど……そっと横目で伺うと、真剣な表情のカミルの端正な横顔が目に入って、わー! とでも叫びたくなってしまう。
今、国中の人たちが私とカミルが階段を登る姿を見ている。
みんなは祝福の声をそれぞれあげていて、祭りを彩る音楽が奏でられてはいるけれど、私の頭の中にはそれは入ってこなくて、なんだか、静寂の中を歩いているような気がした。
それくらい、緊張していた。
そんなわけはないのに、静かで、永遠の時の中を歩き続けているんじゃないか、みたいな気持ちになった。
「……精霊様。女神様の元に辿り着きました」
カミルの声で、ハッとなる。
いつの間にか、長い階段を登り終えていた。カミルは一足先に階段の上に登り、私の手を引いて、私の体を引っ張り上げてくれた。
私たちが女神像の目の前までくると、賑やかな音楽はピタリとやみ、私の錯覚じゃなくって、本当に静寂に包まれた。
「……女神様。今年も、我が国は春を迎えました。今年、蕾を開かせた花たちを贈ります。どうか、一年間。変わらぬ祝福を下さいますようお願い申し上げます」
女神像に向かって、口上を述べて、私とカミルは礼をする。
そして、籠いっぱいに入った季節の花を、女神様に贈った。
チューリップやミモザ、パンジーといった花たちが、鮮やかに咲き誇っている。
私がお花を捧げるのにあわせて、教会の鐘が打ち鳴らされた。
カラァン、カラァンと広場中に鐘の音が響く。
──この鐘の音が、踊りの合図だった。
この女神像のそばで待機していた楽団が、女神様に捧げる舞の音楽を奏で始める。不思議な感覚で、やっぱり音は遠くに聞こえていて、私はなんだか静かな世界にいた。
緊張、している。
でも、やらなくちゃ。
私は踊りだした。頭の中は真っ白に近かったけど、振り付けは体に叩き込まれている。
きっと、緊張している自分を守るために、私は無意識に自分を静かな世界に追いやっているのだろう。おかげで、大勢の人に見られているはずなのに、人に見られている感じはしなかった。
精霊の衣装のひらひらとした服は可愛らしいけれど、動きづらい。布に脚を取られて、練習中は何度も転びそうになった。
お母様もお役目を果たした、精霊役。踊りを教えてくれた先生も、お墨付きをくれた。だから、大丈夫。
クルクルと廻るように、踊りながら、私はお母様のことを考えていた。
お母様も、見守ってくださっているだろうか。
ルーナ様からは不正を疑われたけれど、私がお母様と同じ精霊役に選ばれたのは、きっと、お母様の祝福のおかげだ。
「……」
もうすぐ、舞い終わる。あと、もう少し。
最後のステップを踏み切って、顔を上げると、女神像の微笑みが目に入った。
今まで、静かだった私の世界がパンと弾けたかのように、一気に私の耳に音が入ってくる。高らかに歌う人の声、子どもの笑う声、華やかな音楽の音色、私を讃えてくれる人たち、女神様への感謝の言葉。色んな声や音が一斉に私の中に押し寄せてくる。
(……私、精霊様のお役目、できたんだ……)
なんだか私は、誇らしい気持ちで、胸がいっぱいになった。
緊張感の糸が少し切れて、ふうと細く息を吐く。見ている人たちには気付かれないように、こっそりとしたけれど、きっと私の横にいるカミルは気づいている。
「……ミリア、お疲れ様」
カミルは、とびきりの優しい声で私に囁いた。
◆
お役目も終わり、私は衣装も着替えて、教会の一角にある待合室で、お迎えの馬車を待っていた。お父様のご用事が終わり次第、お父様と一緒に帰る予定だ。
お役目の間付き添ってくれていた神官と入れ替わるように、やってきてくれた侍女のマチルダと二人、待合室で待っていると、同じく騎士の装束を脱いだカミルが声をかけに来てくれた。
私がお父様を待っていることを伝えると、カミルは一緒に待っていると言ってくれて、私はカミルと待合室の椅子に並んで座っていた。
カミルのお迎えの馬車はもう来ているようだったけど、「一緒に待っていたい」って……。
マチルダは部屋の角で気配を隠して佇んでいる。
「もう、着替えちゃったんだな。……当たり前か」
「ええ。汚したりしちゃわないか心配してたから、着替えられてようやくホッとしたわ」
「すごいミリアには似合っていて、綺麗だったから、もう見れないのは残念だな」
カミルは眉を下げ、本当に残念そうな顔をしていた。
でも、ふと、ニコッと私に笑って見せて、もう一度口を開いた。
「やっぱり、エスコート役を勝ち取れてよかった。一番の特等席で精霊のミリアが見れた」
「う、うう……」
カミルが爽やかに笑って言う。
改めて言われると、恥ずかしかった。
この恥ずかしさに気がついたのが、お役目が終わった後で、よかった。
その前に気づいていたら、私は踊れなかったかもしれない。
……いいえ、お役目なのですから! やりますけれど! やり遂げてみせますけれど!
「もしかして、だけで、カミルったら、こんなことをしてしまうんだもの……」
「ミリアのことで、もう後悔はしたくなかったからな。それに、もしもミリアが精霊に選ばれなかったとしても、剣技を身につけていれば将来役に立つかもしれないだろ?」
恥ずかしすぎて火照った顔を抑えながら言えば、カミルは誇らしげに笑みを深めた。
「強ければその分、ミリアを守れる。無駄になんかならない」
真っ直ぐにそう答えるカミルの眼差しが、あまりにも眩しくて、私は「うん」としか言えなかった。
「俺、今日のことは一生忘れない」
「……わ、私も……」
カミルが眩しくて、格好良くて、嬉しくて。顔を俯かせてしまいたかったけれど、私はなんとか、カミルの優しげに細められた瞳を見つめ返しながら、小さな声で答えた。
もっと、堂々と。カミルみたいにまっすぐに言いたいのに。
……頑張ろう。これから。カミルがいままでずっと、恥ずかしくてしょうがない時でも、頑張ってくれていたように。
カミルの好意だけに甘えていないで、私も同じだけのそれを返したい。
密やかにそれを胸に誓って、私はカミルの目を見つめ続けた。昔だったら、カミルは目をそらしてしまうが、頑張って私を見つめ続けるけどどんどん顔を赤くさせていっていたけれど、今はもう、堂々と私を見つめて、けしてそらさない。
ただただ、愛おしげに、蕩けた瞳を私に向けてくれている。
──コンコン、とノックの音が響く。
「あ、きっと、お父様だわ!」
私はバッと立ち上がり、待合室の扉へ向かった。
「……カミルくん、今日は娘をエスコートしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ、光栄でした」
カミルはいまだに、お父様を目の前にするととても緊張するらしい。いつも、お父様の前では肩に力が入っているし、やたらと姿勢がいい。
「よく、優勝したね。大変だったろう、闘う君の姿はとても立派だったし、娘の手を引く姿は……頼もしかった」
でも、今日のお父様は、カミルの緊張とは裏腹にとても柔らかい笑みを浮かべていて。
「……またよかったら、我が家に遊びに来てくれ。これからも、娘をよろしく頼む」
お父様が、こんなことを言うだなんて……!
カミルは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。けれど、すぐにお顔を微笑みに戻して、父の言葉に深く頷いた。
約束の六年間。その日は確実に近づいていた。
「……実は、さ、ミリアのお父さんも、精霊騎士、やったらしいよ」
「ええっ!?」
「それ聞いたら、絶対に俺もやらなくちゃ、って思って。だから、俺、頑張ったんだ。……頑張ってよかった」
し、知らなかった……。
カミルはどこから聞いたのかしら、と思っていたら、「君の兄上のクラウス卿に聞いた」って! なんでお母様とお父様の娘で、お兄様の妹の私だけが知らないの!?
それがちょっと納得いかないけど、でも、カミルがとっても嬉しそうだから、そんなことはどうでもいいや! よかった!
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