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ようこそこの世界へ

6.俺はどこの子

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「……………………」
「………………………………あれ?」


 精霊が視える。実はこの一点だけで言えばブリオングロード家でなくても別におかしくは無い。

 実際にゲームの主人公は精霊が視えていた。

 ブリオングロード家以外ではある一定の確率で精霊が視える子が産まれる。
 だから俺が精霊が視えていてもおかしな所は何も無い。

 ただし、もし本当にこの世界があのゲーム内ならば俺がブリオングロード家でなければおかしなことがある。

 それは『精霊と会話が出来ること』。

 これはブリオングロード家の生家にのみ発現され、ある一人を除いて例外はいない。ゲーム中イベントのストーリーにてモブに精霊と会話出来るものが居たが、その人も結局はブリオングロード家の者であった。

 俺自身はまだばぶちゃんだから話せないが、精霊の声はしっかり聴こえている。

 だからほぼ確定で俺もブリオングロード家なはずなのだが、それにしても何故ラナイフマジンが認知していないのだろう。

 もしかして俺が本家の子ではない?いや、そんなはずは無い。イベントストーリーのモブ以外の親戚は皆亡くなっていたはず。

 じゃあ俺はブリオングロード家の次男か?
 でも、確か長男と次男はそこまで年齢が離れていなかったはずだからここまでの年齢差はおかしい。


「ん~?でもほら。この子髪の毛の色が君のお父君と同じ色だよ?」
「……どういうことでしょう。我が家では私の下にリアルトラー以外居ないはずなのに。」


 えーっと、つまり。つまりはその。

 もしかして俺はブリオングロード家だと認められてない誰かさんってこと?

 じゃあ俺はどこの誰でしょう。

 冷や汗が止まらないままチラリとラナイフマジンを見てみると、手を顎に当ていかにも考えますポーズを取り静まり返っている。

 暫くすると椅子を引いて立ち上がり、クロー様に軽く一礼した。


「クロー様のお手を煩わせて申し訳ありません。早急に父に確認を致しますので、今一度その子をこちらに渡していただけないでしょうか。」


 そうだそうだ、早く確認してくれ!俺を産んだお父様はいるはずだろう?

 父か母がブリオングロードじゃなきゃ精霊さんの声なんて聴こえないんだから絶対にどちらかのツテがあるはずだ。
 
 手渡される為に脇にぎゅっと力を込めると、必要な部分はそこではなかった。

 クロー様が全身まるごとぎゅーをしてきたからだ。


「やだね、僕が見つけたんだから今日のところは僕が連れて帰る。」


 はっ!?え、この王子様俺を離す気が無いって事!?

 ちょっと待ってよ、俺は確実にブリオングロードの子でしょう?
 それに俺を見つけたのだってブリオングロード家の庭だろう?

 なのに何故俺を連れて帰るって話になるんだ。見てくれ、ラナイフマジンもポカンと呆けてしまってるじゃないか!


「え、えぇと、それは……恐らく我が家の子だと思いますから、それを父に確認しに行くだけですので」
「確認だけなら口頭でいいでしょ?」
「いえ、証拠も必要かと」
「ブリオングロード侯爵は自分が産ませた子を視認してない訳ないよね?」
「そう言われますと、そうですが……」


 まあ多分会ったことないんだがな、とほほ……と、こちらも途方に暮れてしまう。
 何をそんなに俺を手渡したくないのだろうか。俺を渡してオトーサマに「こいつうちの子だよな」って確認するだけでいいのに。


「それか若しくは、僕がこのまま抱っこして侯爵に会うかだよ」
「……急な面会は、難しいです」
「子どもを確認するだけなのに?」
「父も、お忙しい身でありまして。」 
「じゃあ交渉決裂だね。」


 やっと分かった。
 クロー様は俺の心配をしてくれていたのか。

 もしこのまま俺を手渡してブリオングロード家の当主に会えたとして、仮に認められないままで終わるとしたら俺の処遇がどうなるか分からない。 
 この家の子だと認められなければ赤ちゃんでさえ立派な不法侵入になる。

 例えばそのせいで俺がいないことにされてしまったら、クロー様が疑問を持ってブリオングロードに問うだろう。
 恐らく質問に回答されるとしたらこう。

「精霊の幻でも見たのでは?」

 こうなってしまえば婚約前から信頼関係が崩壊しても可笑しくないし、俺の奪われた未来に心痛めるかもしれない。
 

 クロー様がグィーの名前を呼び、その彼がクロー様の椅子を引きそのまま立った。
 急に視線が上がり慌ててひしっとクロー様の服にしがみつくと、彼もおしりと頭をしっかり支えてくれ、思ったより不安定感はなかった。

 クロー様が庭の出口の方に体を向け歩き始めると、クロー様の身体越しにラナイフマジンの呼び止める声が聴こえた。
 その声にクロー様も足を止め、堂々とした面持ちでハッキリとラナイフマジンに告げた。


「ブリオングロード侯爵が王宮に足を運び、なおかつこの子を自分の子だと明言するまで僕が責任を持って預からせていただきます。ではまた!」
「え、あ、ちょっ」


 またクロー様が歩き始めると、その横でグィーがラナイフマジンに深々と頭を下げ、クロー様の左後ろについた。
 
 なんとか目の高さを肩からあげることが出来、ラナイフマジンを見てみると、オロオロとしてどうすればいいか分からない子どもになっており、ちょっと可哀想だなと思ったのはここだけの話。




 いつの間にか王宮に帰る旨を伝えていたクロー様は、門を出ると直ぐに馬車に乗ることが出来た。

 流石は王族の馬車だ。外装も内装もそれはもう煌びやかで、歩く場所も座る場所も深紅色のふわふわ絨毯で覆われている。椅子の両端にはサファイアもビックリの真っ青なクッションが着いていて、ルーフの部分にはプラネタリウムみたいに彩やかで様々な種類の宝石が散りばめられていた。
 
 す、すげえ。本物の馬車の中なんて見たことない。キラッキラだ~!


『キラキラだねぇ』
『ピカピカだねぇ』
『あのきらきら食べられる?』
『バシャってなんか狭いの~』


 あれ!?精霊さんたち、着いてきたのか!?

 ふわふわと漂う精霊たちは好き勝手俺の身体のどこかに座り、終いには頭のてっぺんに降り立った。

 こら!そこは座る場所じゃありません!

 と言っても、まだクロー様以外とは意思疎通が出来ないから、抵抗することが出来ない。


「んみゅぅ~……」
「あはは、可愛いお顔~!僕は精霊が見えないからなーんにもできないんだな~」


 まあ、それはそうなんだけど。それでも不満は不満なんだ!


「まあまあそれはさておき、イーヒャは今から僕とたーっくさんお話しなきゃだから、今のうちに寝ておいた方がいいよ?」


 真剣そうな顔をしたクロー様に、思わずゴクリと息を飲む。

 お、お話!きっとすごく難しくて大事なお話をするんだな………………と身を固くしていた俺が馬鹿でした。
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