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閑話1-1.護衛と侍従の休憩時間 sideエディ

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「エディ、休憩に入るならお茶を淹れましょうか?」

 ジーンが可愛い笑顔でそう言ってくれる。

「ありがとう。お願いするよ」

 ジーンは俺が護衛を務めているロビン様の侍従だ。お茶を淹れるのが上手くて、ロビン様は「ジーンの淹れてくれるお茶が1番美味しい」といつもおっしゃっている。

 俺もそう思う。

 俺たちを雇用しているのはロビン様の伴侶であるファルコン・レイ・ブラッフォード様だ。しかし、俺も、おそらくはジーンも、ロビン様にしかお仕えする気はない。
もし、配置換えを命じられたら、俺は辞めようと思う。そんなときは訪れないと思うけど。

「そういえば、エディはもともとチェスター殿下の護衛だったのに、どうしてロビン様のお側にいたいと思うようになったのですか?」

 ジーンが小首を傾げて、俺に疑問を投げかけた。


◇◇◇◇◇

 俺はヴァレイの王都で、平民の家に生まれた。貧乏な平民の子どもは、小さいうちに奉公に出るか、体力に自信のあるやつは騎士見習いになるかだ。俺は体力があったし、力も強かったので、王都の騎士団に騎士見習いとして入った。
 幸い剣技の才能のあった俺は、騎士見習いから順調に騎士になり、十六歳にして、王宮警備の騎士として勤めることになった。初等学校を終えていれば騎士にはなれる。貧乏な平民からすれば、俺は成功者のようなものだったんだ。
 王宮騎士を真面目に勤めた俺は、その後、近衛騎士団長の推薦で近衛騎士になった。ちょうど、二十歳のときだった。

「近衛騎士団長に、実戦的な強さを持っている騎士が欲しいと言ったところ、エディを近衛騎士に抜擢して、連れてきたのだ」

 チェスター殿下はそう言って笑い、近衛騎士になった俺を自分の宮に置いた。
 チェスター殿下のような身分の人は、気に入らない騎士を、簡単に交代させることができる。だけど、俺は、幸い彼に気に入って貰えたようだ。近衛騎士には貴族出身者が多くて、平民出身者を蔑んだ暴言を吐く騎士もいたけれど、俺の実力で黙らせてやった。
 給与も上がり、両親亡き後、たった一人の身内だった姉もマグワイア帝国の技師に見初められて結婚をし、順調な生活を送っていたんだ。
 
 チェスター殿下の近衛騎士になって三年ぐらい経った頃だ、殿下が管理をしている『花の名の王子』の宮へもお供するようになった。功績のある者に王子を降嫁させるというしきたりは、悪趣味だと思っていたけど、俺には縁のないことだと割り切っている部分もあった。

 『花の名の王子』のアイリス殿下は可愛らしくて屈託のない方だった。降嫁するための教育を素直に受けているのを見て、何とも言えない気持ちにもなったけれど。
 そしてもう一人の王子、ロビン様……サルビア殿下は、なんというか……、現実離れした雰囲気の方に見えた。
 のちにファル様の母君が「御伽噺に出てくる妖精の王子様」と表現したというが、その言葉がぴったりの佇まいだったんだ。橙色の髪に蒼天色の瞳。白い肌に整った目鼻立ち。少し背が高く、背筋の伸びた立ち姿は優雅で美しい。
 ……俺は迂闊にも、サルビア殿下が見た目通りの人物だと思ってたんだ。
 だって、チェスター殿下が定期的に作るよう依頼していた魔道具は、ものすごく綺麗で精巧で、平民の俺たちじゃあ、到底手にできないようなものばかりだった。あの外見で、そんなものばかり作っているサルビア殿下は、自分たちとは違う感覚の人間だと信じちまうだろう?
 十二歳まで市井で育ったことは知っていたけれど、それとサルビア殿下の人格を結びつけることはなかったんだ。


 その当時、ファル様は、チェスター殿下のもとを度々現れては、サルビア殿下が作った魔道具の買い付けをしていた。そして、サルビア殿下に会いたいと言っては、チェスター殿下に断られていた。
 不思議な商人のように見えていたけど、事情の分かった今となっては、会わせて差し上げても良かったんじゃないのかと思う。

 アイリス殿下が降嫁するときには、侍従も侍女も宮からはついて行かなかった。アイリス殿下の宮はうまく行っていると思っていたから、リットン将軍が来て欲しくないのだなと、俺は勝手に想像した。

 だけど、サルビア殿下の侍従のジーンは「わたしはいつもサルビア殿下とともに」って言って、何が何でも降嫁のときにはついて行くと言っていた。それを聞いた時も、真面目なジーンが、現実離れしたサルビア殿下を守ってあげようと、無駄な忠誠心を発揮していると思ってたんだけどね。


ヴァレイとマグワイアの戦況が激しくなっているのは、当然知っていた。
 マグワイアの師団が王都に到達して、間もなく、ヴァレイ王宮に攻め込んでくるって情報を聞いた時は、「ああ、近衛騎士として戦って、死ぬか捕虜になるかなんだ」と俺は思った。
騎士になった以上は、覚悟が必要だって。今が、その覚悟のときなんだって。
 そしたらチェスター殿下が、書簡と金子を俺に渡してきたんだ。

「サルビア殿下をラプター王国まで送り届けてくれ。パロットという街の宿で、保証人が待っている」



 はああああああ?

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