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11-1.誰が駒鳥のために怒ったの?
しおりを挟む俺は、朝からブラッフォード商会の魔道具工房の片隅を借りて、お披露目会の贈り物を作った。
一応、十個以上作ることになるので、本体の制作には金型を使う。仕上げを丁寧にして、美しい鳥にしようと決意した。
工房の魔道具技師の人たちは、俺を温かく受け入れてくれた。初対面で、折り畳みランプの回路構築の話をしていたため、魔道具技師のロビンとして認めてくれたのだと思う。俺は、それが何より嬉しい。
工房には、ジーンもエディもついてきている。ジーンは時々、俺の衣装を作っている裁縫師と打ち合わせをしていて、忙しそうだ。しかも、できる侍従なので、良い頃合いに俺とエディと工房の技師たちに、美味しいお茶とお菓子を用意してくれる。工房の技師たちも喜んでくれているため、みんなで和やかに過ごしている。
一日目で鳥の本体が出来上がったので、二日目から鳴き声を上げて尾羽を動かすという動作のための回路を組んでいく。音声認識ではなく、胸に触れて魔力を流すと動く単純な仕組みにした。これならば、どんどん仕上げていけるだろう。尾羽が上下に動くのを確認してから鳴き声を聞いてみる。
ピリーリー……ピリーリー
俺は、順調に回路を組み上げて、外観を整えていくためにヤスリをかけていた。楽しく作業をして、その日は終わるはずだった。
しかし、俺のそういう予想は外れることが多い。
「こんなところにいたのね。礼儀を知らない使用人だと思ったら、魔道具技師だったの」
扉が乱暴に開けられる音がしたかと思うと、甲高い声が聞こえた。
聞き覚えのあるその声はエミリアのものだ。
声のする方を見ると黄色のドレスを着た彼女が、屈強な護衛2人を従えて立っていた。
ファルがコベット伯爵家に、エミリアはしばらくブラッフォード商会に足を踏み入れることのないようにと、申し入れたのではなかったか。
エミリアの後ろで、支店長のシートンがオロオロしているのが見える。
どうして、俺を探していたのか。どうやって、ここまで入ってくることができたのか。疑問はたくさんある。
しかし、俺がしなければならないことは、贈り物用の魔道具の作成だ。終業時には工房に鍵をかける。それはもう間もなくだ。時間があまりない。
俺は、黙ってヤスリをかけ続ける。エディが俺とエミリアの間に立ち、ジーンが俺の横にぴったりとついている。
「何とか言いなさいよ!
ファルコン様にベタベタくっついていただけでも許せないのに、わたしを無視するなんて。この無礼者が!」
「ぶ」
俺は急いでジーンの口を手で塞いだ。ここでジーンが無礼者と言って、彼女の発言に迂闊に反応するのは困るのだ。やはり、エミリアは、ファルと俺がくっついていたことに、ひっかかっているようだ。
そう言われても、俺はファルの伴侶だから仲良くする。当たり前のことだ。
エミリアは、俺の耳飾りに気づかないのだろうか?
他人のことを観察できないからこその、この態度なのかな……
立ち上がったついでに、俺はシートンに話しかけることにした。
「シートンさん、ここは関係者しか入れない場所だと思うのですけれど、このお嬢さんはどうしてここにいるのですか?」
「ええっと。立ち入り禁止だと申し上げたのですが……
その、逆らうとただではおかないと店の者に言って、ここまで入り込んでこられまして……」
店の警備体制を、見直した方が良さそうである。あのエミリアの護衛は、確かに強そうだけれど。
「私の言うことに答えなさいよ! 下賤な平民が!」
エミリアが何か言っているが、答える気はない。ジーンがもぞもぞしているけれど、力で押さえ込む。
「シートンさん、ラプターでは人を脅して他人の建物の中に入り込んでも、犯罪にならないのですか?」
「……犯罪になります」
シートンさんは居心地が悪そうで気の毒であるが、俺はエミリアと話す気はない。
「でしょうね」
「ブラッフォード様には伝令を送りました。もうすぐお帰りになると思います」
「では、シートンさん、それまで待つしかありませんね。ありがとうございます」
「こちらこそ、至りませんことをお詫びします」
シートンさんは、そのままここにいるつもりのようだ。とんだ営業妨害である。警察騎士団を呼んでやればいいのに。
「ファルコン様が帰ってくるのね!」
これ以上工房で騒がれては困るので、俺は作業に戻るのを諦めた。ヤスリかけが残っている三体の鳥を魔道具の工具鞄に入れ、残りを箱に詰めて工房の棚に片付けた。
エミリアが、シートンさんに『使用人』の態度について、苦情を言っているのが聞こえてくる。
シートンさんは、魔道具工房は繊細なものを扱う場所なので、騒がないようにと、必死に話をしていた。俺は、使用人でも従業員でもないのに迷惑をかけている。申し訳ない。心の中でシートンさんに詫びる。
俺のせいではないけれど。
「今日もありがとうございました。明日もお願いします。お騒がせして申し訳ありませんでした」
工房の技師たちに挨拶をする。みんな、「気にしなくていいよ」「また明日」と、声を返してくれる。ジーンがすっかり人気者になっているので明日も連れてこよう。
俺が帰る準備ができたのをみてシートンさんがほっとした表情を見せる。商談室かどこか、空いている部屋に行った方が良いだろう。
俺がエディとジーンを従えて廊下に出たときに、エミリアが護衛に命令した。
「その、わたしを無視し続けている、無礼な橙色の髪の男を捕まえて、わたしの前に跪かせなさい!」
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