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67.主人公なのに攻略対象に嫌われていて良いのでしょうか
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シモンが、ヴァネルハー辺境伯領に何らかの形で手を出そうとしていたのではないかなどと予想をしても、何の確証もない。
僕の場合は命を狙われているし、王族であるラインハルト様を庇ってのことだとなれば、王家とヒムメル侯爵家とが険悪になる可能性はあるかもしれない。それも、他の要素によるのだけれど。
ラインハルト様は、ヴァネルハー辺境伯令息をサロンに招いてシモンとどのように関わっていたのか聞いてみようと提案された。アルブレヒト様とディートフリート様とマルティン様のお三人に、誘うのは僕が適任だと背中を押されて、一年生の教室まで足を運んだ。ラインハルト様はあまりお気に召さないご様子だったけれど、大事の前の小事だとアルブレヒト様に言い聞かされていらっしゃった。
大げさな表現である。
「ヴァネルハー辺境伯令息を呼んでいただけますでしょうか?」
「はっ、はいっ。しょっ、少々お待ちくださいませ。
おいっ、ハッセン、ヒムメル侯爵令息がお越しだぞっ」
教室の入り口付近にいた男子生徒に声をかけると、中に駆け込んでヴァネルハー辺境伯令息を呼んできてくれた。少し顔を赤らめて慌てている様子を見ると、僕に威圧感があるのかもしれない。
「ラファエル様、何か御用ですか?」
「ああ、呼び立ててすみません。ゲレオンに聞きたいことがあるのだけれど、放課後にラインハルト殿下のサロンに参加することはできるでしょうか?」
「はいっ、光栄です」
僕がヴァネルハー辺境伯令息を放課後のサロンに誘うと、彼は笑顔で承諾してくれた。
ゲレオンの頬が、うっすらと赤くなっている。
先ほどの男子生徒の頬も赤かったことを思い出す。
もしかしたら、僕に威圧感があるのではなくて、教室の暖房が効きすぎているのかもしれない。
僕はそう思いなおして、一年生の教室を後にした。
「うわー、俺、ヒムメル侯爵令息としゃべっちゃったー」「何だそれ、うらやましい」「いやあ、やっぱりお美しい方だなあ」「ハッセンはなんで誘われているんだ?」
一年生は元気なようで、何を言っているのかわからないけれど教室では会話が弾んでいるようだ。僕が来る前よりも騒がしくなったような気がしたけれど。
「ラファエル、ありがとう」
「いえ、このようなこと、何ほどのことでもございません」
少し離れたところで待っていてくださったラインハルト様が、近づいた僕を抱きよせてくださった。ラインハルト様が、役目を終えた僕を労うように額にキスをしてくださるので、僕も頬にキスを返す。
「ほうっ、相変わらず仲がおよろしくていらっしゃる」「はあ、麗しいなあ」「眼福ですわ……」
周囲から聞こえた何を言っているか聞こえない小声の呟きとため息は、呆れられているからなのだろうか。ラインハルト様が僕の髪の匂いを確かめていらっしゃるように思ったのは、気のせいだろう。多分。
「はい、確かにレヒナー男爵令息から誘惑されているのではないかと思うようなことは、何度かありました」
ラインハルト様のサロンで柑橘の香りのするお茶をいただきながら、ヴァネルハー辺境伯令息はそう話を始めた。参加者は他にアルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様だ。フローリアン様とブリギッタ様には、同席していただかないことにした。ラインハルト様は僕の同席を渋っていたのだが、そんなわけにはいかないだろう。
最初の衝撃が大きかっただけなので、大丈夫だと思う。
「入学して半月ほどたった頃には、レヒナー男爵令息は既に数人の男子から姫のような扱いを受けていました。バーデン伯爵令息とは、一番仲が良かったと思います」
入学後、かなり早い時期からシモンは男子生徒たちと「仲良く」していたようだ。ラインハルト様をはじめ側近方も頷いていらっしゃるので、既にご存じであったのだろう。
だから、あの会議ですぐにそういうことを思いついたようだ。
ヴァネルハー辺境伯令息は、シモンがどのような行動をしていたかを、知っている範囲だと前置きしながら、詳しく話してくれた。
「レヒナー男爵令息が、おれ……僕に頻繁に声をかけるようになったのは、夏季休暇の後になってからです。
もともと馴れ馴れしくていけ好かない奴だと思っていたんです。腰をこすりつけてくることもあったし。それに夏季休暇後は、あいつに話しかけられると眩暈がして気分が悪くなるので、逃げ回っていました」
「眩暈……?」
「はい」
「僕はシモンが魔獣に話しかけているときに、目の前が歪むような感覚がしました。同じような感じなのかもしれません」
僕は、ヴァネルハー辺境伯令息の話を聞いて、シモンが魔獣に話しかけているときの、目の前が歪む感覚を思い出してそれを口にした。
そして、腰をこすりつけてくるという話は、あえてスルーすることにする。
「ああ、レヒナー男爵令息とともに行動するようにと言われて近くにいたときには、度々そういうことがあったな」
「確かにそのような感覚がありました」
僕と同じような感覚があったことをラインハルト様がお話になると、アルブレヒト様が同意され、ディートフリート様とマルティン様も頷いていらっしゃる。
「仮定の話ですが、精神汚染魔法を感じて、体が拒否反応を示しているのかもしれませんね。調べてみなくては」
ディートフリート様が考え込むようにして、そのようなことを口にされる。
シモンは、そんな広範囲に、そして大人数に対して、精神汚染魔法を使っていたのだろうか。
「俺は、あいつのことが大嫌いだから……それで吐き気がするんだと思ってた……」
マルティン様が呟いた言葉に、アルブレヒト様もディートフリート様もヴァネルハー辺境伯令息も頷いている。
シモンは主人公なのに、こんなに攻略対象に嫌われていて良いのだろうか?
ラインハルト様の方を見ると、「国民のことを嫌いだなどと口にしてはいけないだろう?」と言って微笑んでいらっしゃる。
それは、嫌いだとおっしゃっているようなものだと思ったが、それを言及してはいけないであろう。
ヴァネルハー辺境伯令息は、自分がシモンに誘われていたことや眩暈がしたことなどを、各団の調査組織に知らせることに快く同意してくれた。聞き取りがあるならば、それにも応じるとのことだ。
これから、調査が進んでいくといいのだけれども。
ところで、シモンは今どこにいるのだろうか?
僕の場合は命を狙われているし、王族であるラインハルト様を庇ってのことだとなれば、王家とヒムメル侯爵家とが険悪になる可能性はあるかもしれない。それも、他の要素によるのだけれど。
ラインハルト様は、ヴァネルハー辺境伯令息をサロンに招いてシモンとどのように関わっていたのか聞いてみようと提案された。アルブレヒト様とディートフリート様とマルティン様のお三人に、誘うのは僕が適任だと背中を押されて、一年生の教室まで足を運んだ。ラインハルト様はあまりお気に召さないご様子だったけれど、大事の前の小事だとアルブレヒト様に言い聞かされていらっしゃった。
大げさな表現である。
「ヴァネルハー辺境伯令息を呼んでいただけますでしょうか?」
「はっ、はいっ。しょっ、少々お待ちくださいませ。
おいっ、ハッセン、ヒムメル侯爵令息がお越しだぞっ」
教室の入り口付近にいた男子生徒に声をかけると、中に駆け込んでヴァネルハー辺境伯令息を呼んできてくれた。少し顔を赤らめて慌てている様子を見ると、僕に威圧感があるのかもしれない。
「ラファエル様、何か御用ですか?」
「ああ、呼び立ててすみません。ゲレオンに聞きたいことがあるのだけれど、放課後にラインハルト殿下のサロンに参加することはできるでしょうか?」
「はいっ、光栄です」
僕がヴァネルハー辺境伯令息を放課後のサロンに誘うと、彼は笑顔で承諾してくれた。
ゲレオンの頬が、うっすらと赤くなっている。
先ほどの男子生徒の頬も赤かったことを思い出す。
もしかしたら、僕に威圧感があるのではなくて、教室の暖房が効きすぎているのかもしれない。
僕はそう思いなおして、一年生の教室を後にした。
「うわー、俺、ヒムメル侯爵令息としゃべっちゃったー」「何だそれ、うらやましい」「いやあ、やっぱりお美しい方だなあ」「ハッセンはなんで誘われているんだ?」
一年生は元気なようで、何を言っているのかわからないけれど教室では会話が弾んでいるようだ。僕が来る前よりも騒がしくなったような気がしたけれど。
「ラファエル、ありがとう」
「いえ、このようなこと、何ほどのことでもございません」
少し離れたところで待っていてくださったラインハルト様が、近づいた僕を抱きよせてくださった。ラインハルト様が、役目を終えた僕を労うように額にキスをしてくださるので、僕も頬にキスを返す。
「ほうっ、相変わらず仲がおよろしくていらっしゃる」「はあ、麗しいなあ」「眼福ですわ……」
周囲から聞こえた何を言っているか聞こえない小声の呟きとため息は、呆れられているからなのだろうか。ラインハルト様が僕の髪の匂いを確かめていらっしゃるように思ったのは、気のせいだろう。多分。
「はい、確かにレヒナー男爵令息から誘惑されているのではないかと思うようなことは、何度かありました」
ラインハルト様のサロンで柑橘の香りのするお茶をいただきながら、ヴァネルハー辺境伯令息はそう話を始めた。参加者は他にアルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様だ。フローリアン様とブリギッタ様には、同席していただかないことにした。ラインハルト様は僕の同席を渋っていたのだが、そんなわけにはいかないだろう。
最初の衝撃が大きかっただけなので、大丈夫だと思う。
「入学して半月ほどたった頃には、レヒナー男爵令息は既に数人の男子から姫のような扱いを受けていました。バーデン伯爵令息とは、一番仲が良かったと思います」
入学後、かなり早い時期からシモンは男子生徒たちと「仲良く」していたようだ。ラインハルト様をはじめ側近方も頷いていらっしゃるので、既にご存じであったのだろう。
だから、あの会議ですぐにそういうことを思いついたようだ。
ヴァネルハー辺境伯令息は、シモンがどのような行動をしていたかを、知っている範囲だと前置きしながら、詳しく話してくれた。
「レヒナー男爵令息が、おれ……僕に頻繁に声をかけるようになったのは、夏季休暇の後になってからです。
もともと馴れ馴れしくていけ好かない奴だと思っていたんです。腰をこすりつけてくることもあったし。それに夏季休暇後は、あいつに話しかけられると眩暈がして気分が悪くなるので、逃げ回っていました」
「眩暈……?」
「はい」
「僕はシモンが魔獣に話しかけているときに、目の前が歪むような感覚がしました。同じような感じなのかもしれません」
僕は、ヴァネルハー辺境伯令息の話を聞いて、シモンが魔獣に話しかけているときの、目の前が歪む感覚を思い出してそれを口にした。
そして、腰をこすりつけてくるという話は、あえてスルーすることにする。
「ああ、レヒナー男爵令息とともに行動するようにと言われて近くにいたときには、度々そういうことがあったな」
「確かにそのような感覚がありました」
僕と同じような感覚があったことをラインハルト様がお話になると、アルブレヒト様が同意され、ディートフリート様とマルティン様も頷いていらっしゃる。
「仮定の話ですが、精神汚染魔法を感じて、体が拒否反応を示しているのかもしれませんね。調べてみなくては」
ディートフリート様が考え込むようにして、そのようなことを口にされる。
シモンは、そんな広範囲に、そして大人数に対して、精神汚染魔法を使っていたのだろうか。
「俺は、あいつのことが大嫌いだから……それで吐き気がするんだと思ってた……」
マルティン様が呟いた言葉に、アルブレヒト様もディートフリート様もヴァネルハー辺境伯令息も頷いている。
シモンは主人公なのに、こんなに攻略対象に嫌われていて良いのだろうか?
ラインハルト様の方を見ると、「国民のことを嫌いだなどと口にしてはいけないだろう?」と言って微笑んでいらっしゃる。
それは、嫌いだとおっしゃっているようなものだと思ったが、それを言及してはいけないであろう。
ヴァネルハー辺境伯令息は、自分がシモンに誘われていたことや眩暈がしたことなどを、各団の調査組織に知らせることに快く同意してくれた。聞き取りがあるならば、それにも応じるとのことだ。
これから、調査が進んでいくといいのだけれども。
ところで、シモンは今どこにいるのだろうか?
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