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44.収穫祭ではいよいよ準決勝の開始です

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 収穫祭の三日目には、戦闘の試合の準決勝戦、三位決定戦、決勝戦が行われる。一日目の試合は自由観覧だが、三日目の試合はよほどのことがない限り全校生徒が観覧するという大きな行事だ。
 準決勝では、マルティン様とビュッセル侯爵令息の対戦とディートフリート様とヴァネルハー辺境伯令息の対戦が行われる。
 グスタフは、一日目の予選でマルティン様と遭遇してしまい、兄弟対決は兄に軍配が上がった。グスタフはとても悔しがっていた。今年でマルティン様が卒業してしまうため、収穫祭では雪辱することはできないことが無念だったようだ。

 僕たちは、王族用の観覧席で試合を見ることになっている。それは主に警備の都合だ。特に今年は、合同演習時の疑似魔獣の凶暴化の件や、魔法騎士団での精神汚染魔法の件があったので、警備が厳重になっている。収穫祭の屋台を見て回る時も、僕たちの周囲には護衛騎士がたくさん配置されていた。

 準決勝、三位決定戦、決勝はヘンドリック殿下と婚約者のハーラー公爵令嬢イルゼ・フォン・ランゲンバッハ様とが、王族代表として観覧される。そして、表彰式にて、優勝者に優勝杯を授与されるのだ。
 ラインハルト様と僕たちには、ヘンドリック殿下たちの隣のエリアに観覧席を用意されていた。

「ラファエル様、お久しぶりですこと」
「イルゼ様、ご機嫌麗しゅう。今日はどうぞお楽しみくださいませ」

 黒髪に若草色の瞳のイルゼ様は、凛とした美しさをお持ちの方だ。魔法がお得意なので、いざとなればヘンドリック殿下に防護魔法を使ってくださることだろう。

 もちろん、護衛騎士がたくさん配置されているのだから、そのような力を使う機会はないことと思うが。

「ヘンドリック様、わたくしラファエル様のお隣に座りとうございますわ。席替えをしてくださいまし」
「イルゼ、これは公務であるから席順は変更できぬ。昼食の時はラファエルの隣に席を用意してやる」
「まあ、それでは仕方ないですわね。公務は果たさねばなりませんから。
 昼食が楽しみですわ」
「イルゼ様、ラファエルはわたしのものであることをお忘れなきように」
「まあ、怖いこと。心得ておりますよ。うふふ。可愛らしいですわね」
「イルゼ、揶揄ってやるな」

 イルゼ様とヘンドリック殿下は、僕たちにしか聞こえない声でそのようなことを話しながら、王子とその婚約者らしい美しい笑顔を観客席に向けていらっしゃる。いかにも仲が良さそうなお二人は、皆の好感を得ていることだろう。その隣で王子らしい笑みを浮かべているラインハルト殿下は、なぜかイルゼ様に牽制した後、僕の手を取って、自分の膝の上に乗せている。

 僕も、イルゼ様とヘンドリック殿下のように穏やかな笑顔を作れるようにならないといけないと思っている。しかし、僕は、ラインハルト様から「ラファエルは外向きには無表情でいるように」と命じられている。これについては、王妃様も同意見であるし、僕の家族もその方が良いだろうと言っていることだ。

 無表情でいる方が楽なので、そのお言葉に甘えているともいえるのだが。

 今日の試合について、僕はその戦闘の内容についてヘンドリック殿下とイルゼ様に解説することとなっている。通常であれば、各団から人が派遣されてくるが、今年については僕が戦闘内容の解説を行う。その方が、警備に人員を配置できるからだ。
 何かに集中していれば、不意の攻撃に対しての行動が遅れる。

 ヘンドリック殿下やラインハルト様の守りを万全にするためだ。解説も頑張ろう。

 準決勝に残っているメンバーを分類すると、マルティン様は騎士、ディートフリート様は魔術師、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は魔法騎士となる。それぞれは、それほど厳密に分かれているというほどではない。騎士でも魔法は使うし、魔術師も武器は使う。

 マルティン様とヴァネルハー辺境伯令息が長剣を使い、ビュッセル侯爵令息がレイピア、ディートフリート様はダガーナイフが主な得物だ。魔法騎士としてはヴァネルハー辺境伯令息が騎士に近く、ビュッセル侯爵令息が魔術師に近いといえるかもしれない。

 まあ、使う武器によって魔法の要素が変わるわけでもないのだが。

 例えば、僕は長剣を使うけれど、戦い方としては魔法の要素が大きい。ヒムメル侯爵家に生まれなければ魔術師だったかもしれないけれど、魔獣と戦うには長剣を使う方が有利なのだ。


「これより、収穫祭の最終日を飾る戦闘を行う」

 ホフマン学長が、戦闘の試合の前に挨拶をする。一般的な挨拶のほかに、現状の王都周辺の魔獣被害にも触れ、魔法学校の生徒も日常的に魔獣との戦闘に立ち向かえるよう切磋琢磨するようにと述べられた。
 魔法学校の生徒で戦闘系の者は、卒業後は魔獣討伐の即戦力となる。そして、今のような状況であれば在学中からも討伐に加わることは避けられないだろう。僕たちには、様々な覚悟が必要なのだ

「わたくしたちのときとホフマン学長のお話の長さは変わらないけれど、内容の深刻さが比べ物にならないわね」

 ホフマン学長の挨拶が終ったところで、イルゼ様が真剣な顔でそんな言葉を漏らされた。


 演習場に設営された長方形の試合場に、マルティン様とビュッセル侯爵令息が登壇し、指定の位置に立つのが見える。
 僕は、試合が始まる前に彼らの戦闘の特徴をヘンドリック殿下とイルゼ様に伝えた。膂力を生かした重い長剣のマルティン様と、風魔法で自在に動き回ってレイピアを振るうビュッセル侯爵令息の対戦は、見ごたえがあるだろう。

「それでは、準決勝第一試合、マルティン・フォン・アイヒベルガー対ローレンツ・フォン・ケーニヒの対戦を開始する!」


 フィンク先生が、試合開始を宣言する。



 マルティン様とビュッセル侯爵令息は、戦闘態勢に入った。




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