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1.悪役令息と言われました

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 シュテルン魔法学校の正門の辺りには、サクラが植えられている。
 僕たち生徒会の役員は、満開のサクラの下で新入生を出迎えた。新入生の新しい制服の胸に花をつけると、お礼を言って頬を染める様子が初々しい。サクラの花のピンク色が、新入生の頬に反射しているのかもしれないと思わせるような風情だ。

「ラインハルト殿下、そろそろご挨拶の準備をなさいませ。こちらは我々にお任せください」
「うむ、あと1名か。では、後はよろしく頼むぞ」

 僕は、生徒会長をされているラインハルト様にお声をかけた。頷いたラインハルト様は僕の頬を撫でて微笑むと、講堂の方へ向かわれた。その場に残る、僕とブリギッタ様、フローリアン様はラインハルト様に礼をして、見送った。
 ラインハルト様が、アルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様とともに、講堂に入っていかれる姿をほれぼれと見つめる。ただ歩いているだけのように見える後ろ姿も、凛としていらっしゃる。
 ラインハルト様は、生徒代表としてご挨拶をされるのだ。黄金の髪にサファイアのような瞳を持つ美しいラインハルト様。僕も、受付が終われば講堂に入ってラインハルト様のご挨拶を聞くことができるだろう。最後の1人が早く来ることを願いながら僕は正門の方を見やった。そのときだ。

「ああー! 遅れちゃったああー!」

 新入生であろうピンクブロンドの髪の少年が、甲高い叫び声を上げながら走ってきた。その勢いのままラインハルト様に突っ込んでいく。僕たちは、手を伸ばすけれど、少年を止めることはできない。少年は、ラインハルト様にぶつかると思ったが、マルティン様が身を挺して少年の行く手をさえぎった。
 
「こんな場所で走っては危ないだろう。気をつけろ」
「え? あれ、こんなはずじゃ……。
 えっと、すみません」

 マルティン様に注意を促されて、少年はもごもごと何かを言っているがよく聞き取れない。遅刻しそうになって焦っていたのだろう。可哀想に。

「誰もけがをしなくて良かったですね。これからは気をつけてください。
ご入学おめでとうございます」

 僕は、少年に近づいて声をかけ、胸に花をつける。

「……あ……、あくやくれいそく?」
「え?」
「あ、なんでもありません。ありがとうございます」

 僕を見上げるエメラルドの瞳。大きな目に小さな鼻とピンク色の唇。ふわふわのピンクブロンドの髪のその少年は小柄でとても可愛らしい。そして彼は……
 
 僕を見て『あくやくれいそく』と言った。

 何か聞いたことがあるような言葉だけれど……?

 フローリアン様が、少年の名前を確認して受付を済ませる。お礼もそこそこに少年は踵を返すと、講堂に駆け込んで行った。僕たちの注意を聞く気はないようだ。

「最後の新入生が来ましたね、シモン・フォン・レヒナー。レヒナー男爵の庶子で、最近引き取られたという」
「ああ、あの噂の方ですね」
「そう……、レヒナー男爵の……」

 ブリギッタ様とフローリアン様の話を聞きながら、僕は他のことを考えていた。
 『あくやくれいそく』という言葉の意味を。
 そして僕は、レヒナー男爵令息に見覚えがある。いったいどこで?

「ラファエル様、どうされました?」
「ラファエル様!」

 ブリギッタ様とフローリアン様の声が遠くなっていく。

 思い出した。シモン・フォン・レヒナーは『光の神子は星降る夜に恋をする』の主人公だ。

 そして僕は、主人公と恋をするラインハルト・ルッツ・フォン・シュテルン第二王子殿下の婚約者、ラファエル・エーリッツ・フォン・メービウス侯爵令息。

 銀色の髪に薄い水色の瞳。冷酷な美貌の侯爵令息。氷の貴公子ラファエル。


 悪役令息ラファエル……
 僕が……?


 頭が痛い。目の内側で光が明滅するような感覚がある。気持ち悪い。
 この記憶は一体……?



 大きな眩暈に襲われた僕は、そのまま意識を手放した。


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