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はじまり
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初めての握手は緊張していた、女性との握に慣れていないことに悟られまいと、自分の手汗だけを気にしていた。
18歳の夏、地方からでてきて大阪府内の大学へ入った僕は新しい生活にも慣れてきてずいぶんと余裕ができていた。
授業をさぼって、ただ家で時間を潰したり、友達に誘われて入ったアウトドアサークルの飲み会でただただ騒いだり、初めてできた彼女とデートをしたりなんかして、日々が流れていた。
その日もサークルの飲み会の帰りで、すでに僕はかなり酔っぱらっていた、友達とバカみたいにはしゃいで、バカみたいな道の歩き方をして、バカみたいに大声を出して、バカな相手につっかかってしまった。
僕にもう少し理性があれば回避できたことだったのかもしれないが、そのときは本当にバカだったとしかいいようがない。
居酒屋をでて駅へ向かう途中、酔っぱらいに絡まれている女性を見つけた、見たところ会社の上司と部下のようだった、周りに先にいっててと伝えるとその二人に近づいていった。
「ごめんよお、大丈夫だよお、だから、ねっ、ねっ。」
「すみません!、明日も仕事なので失礼します!」
「そんなことないよお、大丈夫だよお。」
「っ!、やめてください!離してください!」
さっきからこんな調子でのやり取りが続いている、僕はタバコも吸わないのに近くの喫煙所のベンチに座りその光景をしばらく眺めていた、一体なにが大丈夫なんだか。もうしばらく見ていると男の雰囲気が急に変わった。
「わかったよ、今日は帰ろう。明日遅刻しないようにな!」
男は毅然とした態度で女子社員を先導し、歩き始めた。おそらくこの男は社内では頼りがいのある上司として日々を送っているのだろう。女子社員も普段の様子に戻った上司を見て安心したように歩き始めた、二人は駅に向かうようで、人でごった返す週末の繁華街を避けて細かい道を選んで進んだ。
僕は何も起きなかったことに安心と同時に残念がりつつも、大通りを通って駅に向かった。
週末の繁華街、どこもかしこも人でいっぱいだった、若いカップル、大学生らしき団体、今にも頭にネクタイを巻きそうなスーツ姿の中年男性達、ホステスやキャバ嬢とおぼしき女性腕を組んで歩いている二人組、日々の生活を一時忘れようと大勢の人がこの街にやってくる。
先に行ったみんなはもう帰ったかな。と思いつつ、さっきの二人が曲がった路地にさしかかったとき、僕は自分の胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「静かにしなよお、大丈夫だよお。」
さっきの男が女子社員の手首を掴み、唇を近づけていた。女子社員は抵抗しようとしているが、単純な筋力と、恐怖により、ほとんど抵抗できていない。
その光景を見た瞬間から僕はその場を駆け出していた。
走り出した勢いのまま男に体当たりした為、男はふっ飛び女子社員の手首から手を離し、地面に倒れ込んだ。
何が起きたのかわかっていない男を傍目に、僕は女子社員の方を向きあっちに逃げるように指差したが、恐怖のあまり固まっていたため、手を取り走り出した。
しばらく走り、もう追ってこないと判断したため立ち止まると、女子社員が涙を流しながら僕に礼を言っていた。
僕はたいしたことしてないですよと言いながらさっきの興奮がまだ治まっておらず、平静を装いながら彼女と歩き始めた。
まだ男が探しているかも知れないため、電車を使うのは危険だと判断し、タクシー乗り場へ向かおうと言うと彼女も頷いた。
タクシー乗り場へのいちばんの近道がさっきの繁華街を抜けることだったため、道を戻り歩いていたところに、いかつい風貌の二人組が前からやってきた。
男たちはかなり酔っぱらっているようで、顔は赤く、大きな声で話しながらこちらにやってくる。何事も起きないことを願い、すれ違ったタイミングで女子社員が悲鳴をあげた。
男達を見るとニヤニヤしながら女子社員をなめ回すように見ている、その視線は男達のうちの一人の手の先で、それは女子社員の胸の辺りだった。
僕は、やめといたほうがいいと思いながらも、さっきの熱が残っていたのかその手を掴み、男達を睨んだ。これが間違っていた。
男はニヤニヤした笑いを止め、僕の腕を掴み返すと、そのまま僕を引っ張った。僕はその圧倒的な力になすすべもなく足をふらつかせながらしたがった。
女子社員はもう一人の男に羽交い締めにされ、後ろからついてきている。
繁華街の喧騒がどんどん遠くなっていき、細い路地に入った頃には四人の足跡以外ほとんどなにも聞こえなかった。
男が僕を掴んでいた手が離れたと頭で認識できた時には僕のみぞおちに男の拳がめり込み、その衝撃で嘔吐しかけたものを吐くまいと堪えた時には、男の拳が僕の鼻の骨を折る音が聴こえた。
そこからはまぶたは腫れ見えるものも曖昧の中、地面の感触を掌で感じながら、男の蹴りが続いた、折れた鼻の痛みを感じる暇もなく男の蹴りは続き、僕はただ時間が過ぎるのを待ちながら、なんで遠回りしてでも安全な道を選ばなかったのだろうかと、それだけを後悔していた。永遠のように感じていた時間にも終わりが訪れ、顔を腫らし血だらけにした僕は週末の繁華街の細い路地で一人横たわって夜が過ぎていった。
18歳の夏、地方からでてきて大阪府内の大学へ入った僕は新しい生活にも慣れてきてずいぶんと余裕ができていた。
授業をさぼって、ただ家で時間を潰したり、友達に誘われて入ったアウトドアサークルの飲み会でただただ騒いだり、初めてできた彼女とデートをしたりなんかして、日々が流れていた。
その日もサークルの飲み会の帰りで、すでに僕はかなり酔っぱらっていた、友達とバカみたいにはしゃいで、バカみたいな道の歩き方をして、バカみたいに大声を出して、バカな相手につっかかってしまった。
僕にもう少し理性があれば回避できたことだったのかもしれないが、そのときは本当にバカだったとしかいいようがない。
居酒屋をでて駅へ向かう途中、酔っぱらいに絡まれている女性を見つけた、見たところ会社の上司と部下のようだった、周りに先にいっててと伝えるとその二人に近づいていった。
「ごめんよお、大丈夫だよお、だから、ねっ、ねっ。」
「すみません!、明日も仕事なので失礼します!」
「そんなことないよお、大丈夫だよお。」
「っ!、やめてください!離してください!」
さっきからこんな調子でのやり取りが続いている、僕はタバコも吸わないのに近くの喫煙所のベンチに座りその光景をしばらく眺めていた、一体なにが大丈夫なんだか。もうしばらく見ていると男の雰囲気が急に変わった。
「わかったよ、今日は帰ろう。明日遅刻しないようにな!」
男は毅然とした態度で女子社員を先導し、歩き始めた。おそらくこの男は社内では頼りがいのある上司として日々を送っているのだろう。女子社員も普段の様子に戻った上司を見て安心したように歩き始めた、二人は駅に向かうようで、人でごった返す週末の繁華街を避けて細かい道を選んで進んだ。
僕は何も起きなかったことに安心と同時に残念がりつつも、大通りを通って駅に向かった。
週末の繁華街、どこもかしこも人でいっぱいだった、若いカップル、大学生らしき団体、今にも頭にネクタイを巻きそうなスーツ姿の中年男性達、ホステスやキャバ嬢とおぼしき女性腕を組んで歩いている二人組、日々の生活を一時忘れようと大勢の人がこの街にやってくる。
先に行ったみんなはもう帰ったかな。と思いつつ、さっきの二人が曲がった路地にさしかかったとき、僕は自分の胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「静かにしなよお、大丈夫だよお。」
さっきの男が女子社員の手首を掴み、唇を近づけていた。女子社員は抵抗しようとしているが、単純な筋力と、恐怖により、ほとんど抵抗できていない。
その光景を見た瞬間から僕はその場を駆け出していた。
走り出した勢いのまま男に体当たりした為、男はふっ飛び女子社員の手首から手を離し、地面に倒れ込んだ。
何が起きたのかわかっていない男を傍目に、僕は女子社員の方を向きあっちに逃げるように指差したが、恐怖のあまり固まっていたため、手を取り走り出した。
しばらく走り、もう追ってこないと判断したため立ち止まると、女子社員が涙を流しながら僕に礼を言っていた。
僕はたいしたことしてないですよと言いながらさっきの興奮がまだ治まっておらず、平静を装いながら彼女と歩き始めた。
まだ男が探しているかも知れないため、電車を使うのは危険だと判断し、タクシー乗り場へ向かおうと言うと彼女も頷いた。
タクシー乗り場へのいちばんの近道がさっきの繁華街を抜けることだったため、道を戻り歩いていたところに、いかつい風貌の二人組が前からやってきた。
男たちはかなり酔っぱらっているようで、顔は赤く、大きな声で話しながらこちらにやってくる。何事も起きないことを願い、すれ違ったタイミングで女子社員が悲鳴をあげた。
男達を見るとニヤニヤしながら女子社員をなめ回すように見ている、その視線は男達のうちの一人の手の先で、それは女子社員の胸の辺りだった。
僕は、やめといたほうがいいと思いながらも、さっきの熱が残っていたのかその手を掴み、男達を睨んだ。これが間違っていた。
男はニヤニヤした笑いを止め、僕の腕を掴み返すと、そのまま僕を引っ張った。僕はその圧倒的な力になすすべもなく足をふらつかせながらしたがった。
女子社員はもう一人の男に羽交い締めにされ、後ろからついてきている。
繁華街の喧騒がどんどん遠くなっていき、細い路地に入った頃には四人の足跡以外ほとんどなにも聞こえなかった。
男が僕を掴んでいた手が離れたと頭で認識できた時には僕のみぞおちに男の拳がめり込み、その衝撃で嘔吐しかけたものを吐くまいと堪えた時には、男の拳が僕の鼻の骨を折る音が聴こえた。
そこからはまぶたは腫れ見えるものも曖昧の中、地面の感触を掌で感じながら、男の蹴りが続いた、折れた鼻の痛みを感じる暇もなく男の蹴りは続き、僕はただ時間が過ぎるのを待ちながら、なんで遠回りしてでも安全な道を選ばなかったのだろうかと、それだけを後悔していた。永遠のように感じていた時間にも終わりが訪れ、顔を腫らし血だらけにした僕は週末の繁華街の細い路地で一人横たわって夜が過ぎていった。
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