19 / 33
第十八話
しおりを挟む
「見るからに怪しいんだよな・・・」
「うむ、石像の辺りに何かしらの魔力が込められているのを感じる。おそらくはこれはガーゴイルかゴーレムの類だろう。魔法で疑似生命を与えて命令を遂行させるのだ。あれに手を出したら動き出すに違いない!」
ヒロキとイサリアは部屋の中央に置かれた石像を前にして意見を交わす。
十字路を左に進んだ彼らは、その先に上に続く階段を見つけると目的地である第五層に到達した。だが、その後は課題物の探索に追いやられてしまう。
新たな部屋や広間を求めてひたすら地下通路を歩き続けたのだ。幸いにしてモンスターの襲撃こそなかったが、不意打ちを恐れて警戒する彼らは精神を消耗させられていった。
そして空腹を覚えるころ、悪魔を模したような石像が置かれた部屋に辿り着く。その石像の手の上には、彼らの課題物である蛇の置物が手に乗せられていた。発見を喜ぶ二人だが、いかにも動き出しそうな石像を前に彼らは思案を巡らせているのだ。
「・・・まあ、悩んでも仕方ない。回収して直ぐ逃げ出すことも出来るが、他のモンスターと挟み撃ちにされたら厄介だ。動き出したら倒してしまおう!」
「まあ、それしかないな。・・・じゃ、俺が取るから頼むよ!」
常識的な提案にヒロキは軽いストレッチをしながら答える。台座の上に乗せられた石像の手から、課題物をジャンプして掴んだら直ぐに離れる算段だ。蛇の置物はブロンズと思われる金属で作られており、とぐろを巻いて鎌首をもたげる姿を象られている。鱗の凹凸がわかるほど精巧で美術品としても価値がありそうだった。
「うむ、準備は良いぞ・・・ルネ・・・」
「いくよ!」
イサリアの許可とそれに続く魔法の詠唱を確認したヒロキは、軽く助走を付けて飛び上がると石像から目標を奪う。そして着地と同時に距離を取った。後はイサリアが魔法を放って動き出した石像を倒せば終わりのはずだった。先程の巨大芋虫を難無く倒した彼女なら不意打ちでもない限り敗けることはないだろう。
体勢を整えて後ろを振り返ったヒロキは石像の様子を確認する。予想では仮初めの命を宿して襲ってくるはずであったが、石像はその姿を変えることなく佇んでいる。下手に勘繰り過ぎたかと彼はイサリアに対して苦笑を浮かべようとした。
「ヒロキ!それを捨てろ!」
突然、イサリアから険しい警告を受けてヒロキは動揺する。エリザとのやり取りも含めて、ここまで厳しい彼女の声色を聞くのは初めてだった。驚きながらも彼は警告に従い手にしていた蛇のブロンズ像に目を向ける。これまで硬い金属と思われた蛇の姿は滑らかに動き出して彼の身体に噛みつこうとしていた。
「うわ!」
間一髪のタイミングで蛇の牙を避けると、ヒロキはそれを投げ捨てる。慌てていたために蛇はイサリアの近くに落ちた。
「馬鹿!こっちに寄越すな!こ、こいつは破壊するわけにはいかない!魔法を唱え直すから時間を稼いでくれ!」
「わ、わかった!」
攻撃魔法を用意していたイサリアだが、予期していなかった状況に悲鳴に近い声を上げる。その大きさからすれば先程の芋虫の方が遥かに恐ろしい敵と思われたが、試験の目的は目標物の回収である。
その目標を魔法で破壊してしまっては合格基準を満たすことは出来ない。ヒロキは背負い袋を肩から降ろすとそれを盾代わりにしてブロンズの蛇へと迫った。
イサリアを襲おうとした蛇は横から近づいたヒロキに首を向ける。二股に割れた舌を出して警戒する様は本物の蛇のようだ。毒まで際限しているかはわからないが、噛まれたくはないのでヒロキは更に背負い袋を前面に押し出す。
誘われた蛇は迷うことなく背負い袋に牙を突き立てた。彼はそのまま蛇に噛みつかせたまま、後ろ向きにイサリアから遠ざかる。スマートな方法とは言えないが、頼まれた仕事は果たすことが出来た。
「・・・ユ・・・スレ!」
その間にイサリアは杖を蛇に向けて力強く最後の詠唱を完成させた。〝魔弾〟と違い何が発射されたようには見えなかったが、背負い袋に食い付いていた蛇は鈍い音を立てて床に落ちる。もはやそれは、ただの金属の棒だった。
「もう、大丈夫だ」
警戒を続けるヒロキにイサリアは声を掛けながら棒状になった蛇を拾う。動きを止めた蛇は置物というよりは凝った作りの杖となっている。
「安全なんだね?」
「ああ、これに込められていた疑似生命の魔法を〝破呪〟の魔法で解除したから心配ない。・・・しかし、石像に警戒心を向けさせながら回収物の方に襲わせるとは、なかなか嫌らしいな!」
説明を受けながらヒロキは恐る恐ると蛇杖を受け取る。〝破呪〟とは魔法を打ち破る魔法のことである。魔法文明が発達したこの世界で魔法に対抗するために作られた魔法だ。
持続効果のある魔法を打ち消したり、呪いや封印を解除したり多目的に使われる。効果は絶大で要となる魔法だが、解除させるには打ち破る魔法を上回る魔力を込める必要があるため、成功は術者の実力によって左右される。つまり、イサリアの魔力は蛇の置物の掛けられていた魔法を上回ったということだ。
ヒロキも〝破呪〟の魔法について事前に説明はされていたが、先程まで本物のような動きを見せた蛇だけに、認識を直ぐには切り替えることは出来なかった。
「とりあえず、目標達成したのか・・・」
「ああ、そういうことだ!後は地上に戻るだけだ!」
蛇の棒を何度か振り回して動かないことを確認するヒロキにイサリアは告げた。まだ帰りの道中は残っていたが〝飛翔〟を使える彼女にすれば、最初の大穴に戻れば一気に地上へ戻ることが出来る。最大の障害は越えたのだ。
「うむ、石像の辺りに何かしらの魔力が込められているのを感じる。おそらくはこれはガーゴイルかゴーレムの類だろう。魔法で疑似生命を与えて命令を遂行させるのだ。あれに手を出したら動き出すに違いない!」
ヒロキとイサリアは部屋の中央に置かれた石像を前にして意見を交わす。
十字路を左に進んだ彼らは、その先に上に続く階段を見つけると目的地である第五層に到達した。だが、その後は課題物の探索に追いやられてしまう。
新たな部屋や広間を求めてひたすら地下通路を歩き続けたのだ。幸いにしてモンスターの襲撃こそなかったが、不意打ちを恐れて警戒する彼らは精神を消耗させられていった。
そして空腹を覚えるころ、悪魔を模したような石像が置かれた部屋に辿り着く。その石像の手の上には、彼らの課題物である蛇の置物が手に乗せられていた。発見を喜ぶ二人だが、いかにも動き出しそうな石像を前に彼らは思案を巡らせているのだ。
「・・・まあ、悩んでも仕方ない。回収して直ぐ逃げ出すことも出来るが、他のモンスターと挟み撃ちにされたら厄介だ。動き出したら倒してしまおう!」
「まあ、それしかないな。・・・じゃ、俺が取るから頼むよ!」
常識的な提案にヒロキは軽いストレッチをしながら答える。台座の上に乗せられた石像の手から、課題物をジャンプして掴んだら直ぐに離れる算段だ。蛇の置物はブロンズと思われる金属で作られており、とぐろを巻いて鎌首をもたげる姿を象られている。鱗の凹凸がわかるほど精巧で美術品としても価値がありそうだった。
「うむ、準備は良いぞ・・・ルネ・・・」
「いくよ!」
イサリアの許可とそれに続く魔法の詠唱を確認したヒロキは、軽く助走を付けて飛び上がると石像から目標を奪う。そして着地と同時に距離を取った。後はイサリアが魔法を放って動き出した石像を倒せば終わりのはずだった。先程の巨大芋虫を難無く倒した彼女なら不意打ちでもない限り敗けることはないだろう。
体勢を整えて後ろを振り返ったヒロキは石像の様子を確認する。予想では仮初めの命を宿して襲ってくるはずであったが、石像はその姿を変えることなく佇んでいる。下手に勘繰り過ぎたかと彼はイサリアに対して苦笑を浮かべようとした。
「ヒロキ!それを捨てろ!」
突然、イサリアから険しい警告を受けてヒロキは動揺する。エリザとのやり取りも含めて、ここまで厳しい彼女の声色を聞くのは初めてだった。驚きながらも彼は警告に従い手にしていた蛇のブロンズ像に目を向ける。これまで硬い金属と思われた蛇の姿は滑らかに動き出して彼の身体に噛みつこうとしていた。
「うわ!」
間一髪のタイミングで蛇の牙を避けると、ヒロキはそれを投げ捨てる。慌てていたために蛇はイサリアの近くに落ちた。
「馬鹿!こっちに寄越すな!こ、こいつは破壊するわけにはいかない!魔法を唱え直すから時間を稼いでくれ!」
「わ、わかった!」
攻撃魔法を用意していたイサリアだが、予期していなかった状況に悲鳴に近い声を上げる。その大きさからすれば先程の芋虫の方が遥かに恐ろしい敵と思われたが、試験の目的は目標物の回収である。
その目標を魔法で破壊してしまっては合格基準を満たすことは出来ない。ヒロキは背負い袋を肩から降ろすとそれを盾代わりにしてブロンズの蛇へと迫った。
イサリアを襲おうとした蛇は横から近づいたヒロキに首を向ける。二股に割れた舌を出して警戒する様は本物の蛇のようだ。毒まで際限しているかはわからないが、噛まれたくはないのでヒロキは更に背負い袋を前面に押し出す。
誘われた蛇は迷うことなく背負い袋に牙を突き立てた。彼はそのまま蛇に噛みつかせたまま、後ろ向きにイサリアから遠ざかる。スマートな方法とは言えないが、頼まれた仕事は果たすことが出来た。
「・・・ユ・・・スレ!」
その間にイサリアは杖を蛇に向けて力強く最後の詠唱を完成させた。〝魔弾〟と違い何が発射されたようには見えなかったが、背負い袋に食い付いていた蛇は鈍い音を立てて床に落ちる。もはやそれは、ただの金属の棒だった。
「もう、大丈夫だ」
警戒を続けるヒロキにイサリアは声を掛けながら棒状になった蛇を拾う。動きを止めた蛇は置物というよりは凝った作りの杖となっている。
「安全なんだね?」
「ああ、これに込められていた疑似生命の魔法を〝破呪〟の魔法で解除したから心配ない。・・・しかし、石像に警戒心を向けさせながら回収物の方に襲わせるとは、なかなか嫌らしいな!」
説明を受けながらヒロキは恐る恐ると蛇杖を受け取る。〝破呪〟とは魔法を打ち破る魔法のことである。魔法文明が発達したこの世界で魔法に対抗するために作られた魔法だ。
持続効果のある魔法を打ち消したり、呪いや封印を解除したり多目的に使われる。効果は絶大で要となる魔法だが、解除させるには打ち破る魔法を上回る魔力を込める必要があるため、成功は術者の実力によって左右される。つまり、イサリアの魔力は蛇の置物の掛けられていた魔法を上回ったということだ。
ヒロキも〝破呪〟の魔法について事前に説明はされていたが、先程まで本物のような動きを見せた蛇だけに、認識を直ぐには切り替えることは出来なかった。
「とりあえず、目標達成したのか・・・」
「ああ、そういうことだ!後は地上に戻るだけだ!」
蛇の棒を何度か振り回して動かないことを確認するヒロキにイサリアは告げた。まだ帰りの道中は残っていたが〝飛翔〟を使える彼女にすれば、最初の大穴に戻れば一気に地上へ戻ることが出来る。最大の障害は越えたのだ。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末
ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。
え、なにこの茶番…
呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。
リアーナはこれ以上黙っていられなかった。
※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる