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第十八話

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「見るからに怪しいんだよな・・・」
「うむ、石像の辺りに何かしらの魔力が込められているのを感じる。おそらくはこれはガーゴイルかゴーレムの類だろう。魔法で疑似生命を与えて命令を遂行させるのだ。あれに手を出したら動き出すに違いない!」
 ヒロキとイサリアは部屋の中央に置かれた石像を前にして意見を交わす。
 十字路を左に進んだ彼らは、その先に上に続く階段を見つけると目的地である第五層に到達した。だが、その後は課題物の探索に追いやられてしまう。
 新たな部屋や広間を求めてひたすら地下通路を歩き続けたのだ。幸いにしてモンスターの襲撃こそなかったが、不意打ちを恐れて警戒する彼らは精神を消耗させられていった。
 そして空腹を覚えるころ、悪魔を模したような石像が置かれた部屋に辿り着く。その石像の手の上には、彼らの課題物である蛇の置物が手に乗せられていた。発見を喜ぶ二人だが、いかにも動き出しそうな石像を前に彼らは思案を巡らせているのだ。

「・・・まあ、悩んでも仕方ない。回収して直ぐ逃げ出すことも出来るが、他のモンスターと挟み撃ちにされたら厄介だ。動き出したら倒してしまおう!」
「まあ、それしかないな。・・・じゃ、俺が取るから頼むよ!」
 常識的な提案にヒロキは軽いストレッチをしながら答える。台座の上に乗せられた石像の手から、課題物をジャンプして掴んだら直ぐに離れる算段だ。蛇の置物はブロンズと思われる金属で作られており、とぐろを巻いて鎌首をもたげる姿を象られている。鱗の凹凸がわかるほど精巧で美術品としても価値がありそうだった。
「うむ、準備は良いぞ・・・ルネ・・・」
「いくよ!」
 イサリアの許可とそれに続く魔法の詠唱を確認したヒロキは、軽く助走を付けて飛び上がると石像から目標を奪う。そして着地と同時に距離を取った。後はイサリアが魔法を放って動き出した石像を倒せば終わりのはずだった。先程の巨大芋虫を難無く倒した彼女なら不意打ちでもない限り敗けることはないだろう。
 体勢を整えて後ろを振り返ったヒロキは石像の様子を確認する。予想では仮初めの命を宿して襲ってくるはずであったが、石像はその姿を変えることなく佇んでいる。下手に勘繰り過ぎたかと彼はイサリアに対して苦笑を浮かべようとした。
「ヒロキ!それを捨てろ!」
 突然、イサリアから険しい警告を受けてヒロキは動揺する。エリザとのやり取りも含めて、ここまで厳しい彼女の声色を聞くのは初めてだった。驚きながらも彼は警告に従い手にしていた蛇のブロンズ像に目を向ける。これまで硬い金属と思われた蛇の姿は滑らかに動き出して彼の身体に噛みつこうとしていた。
「うわ!」
 間一髪のタイミングで蛇の牙を避けると、ヒロキはそれを投げ捨てる。慌てていたために蛇はイサリアの近くに落ちた。
「馬鹿!こっちに寄越すな!こ、こいつは破壊するわけにはいかない!魔法を唱え直すから時間を稼いでくれ!」
「わ、わかった!」
 攻撃魔法を用意していたイサリアだが、予期していなかった状況に悲鳴に近い声を上げる。その大きさからすれば先程の芋虫の方が遥かに恐ろしい敵と思われたが、試験の目的は目標物の回収である。
 その目標を魔法で破壊してしまっては合格基準を満たすことは出来ない。ヒロキは背負い袋を肩から降ろすとそれを盾代わりにしてブロンズの蛇へと迫った。

 イサリアを襲おうとした蛇は横から近づいたヒロキに首を向ける。二股に割れた舌を出して警戒する様は本物の蛇のようだ。毒まで際限しているかはわからないが、噛まれたくはないのでヒロキは更に背負い袋を前面に押し出す。
 誘われた蛇は迷うことなく背負い袋に牙を突き立てた。彼はそのまま蛇に噛みつかせたまま、後ろ向きにイサリアから遠ざかる。スマートな方法とは言えないが、頼まれた仕事は果たすことが出来た。
「・・・ユ・・・スレ!」
 その間にイサリアは杖を蛇に向けて力強く最後の詠唱を完成させた。〝魔弾〟と違い何が発射されたようには見えなかったが、背負い袋に食い付いていた蛇は鈍い音を立てて床に落ちる。もはやそれは、ただの金属の棒だった。
「もう、大丈夫だ」
 警戒を続けるヒロキにイサリアは声を掛けながら棒状になった蛇を拾う。動きを止めた蛇は置物というよりは凝った作りの杖となっている。
「安全なんだね?」
「ああ、これに込められていた疑似生命の魔法を〝破呪〟の魔法で解除したから心配ない。・・・しかし、石像に警戒心を向けさせながら回収物の方に襲わせるとは、なかなか嫌らしいな!」
 説明を受けながらヒロキは恐る恐ると蛇杖を受け取る。〝破呪〟とは魔法を打ち破る魔法のことである。魔法文明が発達したこの世界で魔法に対抗するために作られた魔法だ。
 持続効果のある魔法を打ち消したり、呪いや封印を解除したり多目的に使われる。効果は絶大で要となる魔法だが、解除させるには打ち破る魔法を上回る魔力を込める必要があるため、成功は術者の実力によって左右される。つまり、イサリアの魔力は蛇の置物の掛けられていた魔法を上回ったということだ。
 ヒロキも〝破呪〟の魔法について事前に説明はされていたが、先程まで本物のような動きを見せた蛇だけに、認識を直ぐには切り替えることは出来なかった。
「とりあえず、目標達成したのか・・・」
「ああ、そういうことだ!後は地上に戻るだけだ!」
 蛇の棒を何度か振り回して動かないことを確認するヒロキにイサリアは告げた。まだ帰りの道中は残っていたが〝飛翔〟を使える彼女にすれば、最初の大穴に戻れば一気に地上へ戻ることが出来る。最大の障害は越えたのだ。
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