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その6

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 二人が邂逅してから五日後、サージとミリアの二人はナダラザの街に到着していた。ナダラザはセラン河の東岸を支配するシュテム王国の流通の要として発展した街だった。それ故に街の規模、人口ともに王国第二の規模を誇っており、秘密組織である〝スレイヤー・ギルド〟の支部も置かれているのである。

「ここよ。・・・我らが東屋にようこそ!」
 繁華街の外れにある宿屋の前で足を止めたミリアはサージに告げる。どうやらこの宿屋が目的の〝スレイヤー・ギルド〟の支部らしい。彼女は東屋と言ったが、その宿屋はそこまで落ちぶれてはいなかった。むしろ、サージの基準からすると中程度の格を持った宿屋である。つまり裕福な貴族や商人達では満足出来ず、彼のような傭兵を生業とする旅のならず者達には敷居が高い、そんな中途半端な宿だった。
「もっと場末の宿か酒場を隠れ蓑にしていると思ったが・・・」
 サージは率直な感想をミリアにぶつける。何しろ怪物を対象にしているとは言え、殺し屋を名乗っているのである。いささか綺麗過ぎた。
「あまり、小汚いといかにも過ぎるでしょう? こういった宿の方が逆に目立たないの。とりあえず中に入りましょう!」
「そういうことか・・・わかった」
 店前に傭兵然とした二人が何時までもたむろしていては、せっかくの無害な宿屋が台無しである。サージは承諾するとミリアに続いて宿屋に入る。もっとも、正直に言えば彼も〝スレイヤー・ギルド〟がどのような組織なのか興味があった。それを早く確かめかったのである。

 この世界では、一階部分は酒場を兼ねたで食堂で二階から上が客室、裏庭に厠と厩を用意しているのが一般的な宿屋の造りとなっている。その宿も基本に忠実とばかりに一階は食堂となっており、受付を兼ねたカウンター席の奥には主人と思われる中年の男が立っていた。
「いらっしゃいませ! お泊りで?」
 新客であるサージとミリアに主人は愛想良く語り掛ける。店内の設備や調度品は外観と同じく、特別良くも悪くもなかった。もっとも、そろそろ昼時だというのに店内にはサージ達以外の客の姿はない。繁華街から外れた場所に立つ中程度の宿、どの客層を目当てにしているのか、はっきりしないこの店が流行るわけがなかった。
「ええ、いつものあの部屋を用意してちょうだい」
 ミリアは右手で独特のジェスチャーを示しながら主人に返答する。どうやら、この台詞とハンドサインがメンバー同士の暗号となっているのだろう。主人はそれまでの愛想笑いを引っ込めるとミリアに一つの鍵を手渡す。
「任務、ご苦労様です!」
「ありがとう!」
 
 鍵を受け取ったミリアはカウンターの前を抜けて店奥に続く扉を目指し、サージも無言で続く。当然ながら主人も〝スレイヤー・ギルド〟のメンバーなのである。
 扉の奥は廊下となっており、その先は外の厠に通じているようだった。ミリアはその途中の扉を鍵で開けると中に入り、倉庫らしき部屋の床に隠されていた地下への隠し階段を見つけ出す。
「おお、本格的だな!」
 それまでマイアの後に付き従っていたサージは嬉々とした笑顔で告げる。
「もちろん。何しろ・・・秘密組織だからね・・・ふふふ」
 それにミリアも苦笑を浮かべながら相槌を打つ。これまでの道中、サージは自分に対して性的な興味を持たない変った男だった。だが、この手に関しては一般的な男同様に好奇心が擽られるらしい。それは対してミリアは女として何か思うところがあったのである。
「何がおかしい?」
「いや。サージ、やはり君も男の子なんだなと」
「ん? どういうことだ?」
「正直・・・君の興味の対象が解からなくてね。私のような麗しい女人に対しても異性としての反応を示さないし、ただの戦闘狂かと思っていた。けど、少年らしい感性も持っていることで、少し安心したよ」
「・・・俺も多少は変わり者だという自覚はあるが・・・自分で自分を麗しいとか言うお前も大概ではないか?」
「え?! でも麗しいのは事実でしょ! 君もあの時に私が凄い美人だと認めたじゃないか!」
 サージの反論にミリアは虚を突かれたように慌てて弁明する。彼女としては過去の記憶を失っているサージに自分が模範となって社会性を身に着けさせるつもりだったのである。逆の立場になるとは想定外だったのだ。
「それは事実だが・・・むむ、そうか・・・」
「そうよ!」
 完全に納得したわけはなかったが、言質を取られたことでサージはそれ以上の言葉は飲み込んだ。実際、ミリアは男なら誰でも二度見するほどの美女なのである。マントのフードなしで街中を歩けば、この前のように勘違いした男達が群がって来るだろう。
 戦闘能力に対して絶対の自信を持つ自分と同じく、ミリアはその美しい容姿に誇りを抱いていると思われた。それはサージとしても尊重しなければならなかった。

「それでは、下に降りましょう」
「ああ!」
 ミリアの誘いにサージは当然とばかりに頷く。当然ながら、ここまで雑談をしに来たのではない。〝スレイヤー・ギルド〟の正式なメンバーとなって〝混沌の僕〟と呼ばれる怪物の居場所や情報を知るためである。だからこそ、細かいことには目を瞑ってギルド加入することを承知したのである。ミリアがちょっとした変わり者だったとしても、それは些事に過ぎなかった。
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