上 下
3 / 56

その3

しおりを挟む
「・・・なるほど。では、とりあえずその条件を聞こうか」
「ああ・・・条件とは君にも私達の仲間に・・・組織に加入してもらう。何しろ、見ず知らずの者に情報は渡せない!」
「・・・話はここまでにしようか!」
 女の提案に興味を持った男だったが、否と即答する。彼からすれば何かしらの組織に属することを強いられる時点で乗り気が失せたのである。男にとって自分の主は自分だけなのだ。
「ま、待って! 話は最後まで聞いてくれ! 君は〝混沌の僕〟達と戦いのだろう? やつらの多くは、このグレイバックとは違い目立つことなく巧妙に隠れて暗躍している。個人では居場所どころか、その存在すら感知するのも難しい。もっと大物を狙いたいなら私達の仲間になるのが最善だ。それに私達の組織・・・〝スレイヤー・ギルド〟での義務は二つしかない。一つは〝混沌の僕〟を倒すこと、二つ目は組織の秘密を守ること。君にからすれば、実質一つだろう。それで個人では得難い情報と衣食住の協力を受けられる。悪い話ではないはずだ!」
 いくらなんでも、早すぎる交渉打ち切りに女は舌を酷使させて早口に仲間に加わる利点を述べる。最終的に拒否されたとしても、男の戦意を削ぐ時間だけはなんとしても稼ぐ必要があった。
「なるほど・・・それが本当なら確かに悪い話ではないな。しかし、その〝スレイヤー・ギルド〟とやらはなぜ存在を隠す? またその運用資金はどこから出ている? 秘密組織なら金を集めるのは難しいと思われるが?」
 粗野と思われた男だが、組織の利点を認めつつも幾つかの核心を突いた疑問点を指摘した。

「繰り返すが〝混沌と僕〟の中には人間から変化した者もいる。そして、そのような者は表向きの立場を持っている。恐ろしいことに、一つの街を支配する領主がそれであることもある。このような社会的を地位持っている敵を狩るには秘密組織の方が・・・都合が良い。資金については混沌の勢力と敵対する国を越えた勢力があるとだけ言っておこう」
 組織の根底を問う質問に女は可能な限り率直に答える。明言はしていないが、説明からすると〝スレイヤー・ギルド〟をバックアップしているのは混沌と敵対関係にある光の神々を信仰する教団であるらしい。そして討伐対象の中に表向きの立場を持った人間が存在しているとなると、確かに公に出来るはずがないと思われた。
「そういうことか・・・ところで、仮にギルドに加わったとして光の神々への信仰や忠誠は強要されないのだろうな?」
「ああ、個人で信仰しているメンバーはいると思うが、組織としての強要はない。それに脱退も禁止されていない。何しろ〝混沌の僕〟との戦いは過酷だからな、志願制だ。嫌々参加されても迷惑だし士気も下がる。・・・どうだ? 君と私達は協力し合えると思えるが?」
「そうだな・・・忠誠を強要されず、いつでも辞められるなら、異存はないな・・・」
「良かった! 私の名はミリアだ。これからよろしく!! 君は?」
 男が反対しなかったことで女は既成事実を作り上げようと、歩み寄りながら右手を差し出す。
「俺は・・・サージだ。ところでお前、良く見たら凄い美人だな。殺さなくて良かった!」
「・・・それは、ありがとう・・・」
 交渉が成立し長剣の戦士サージと握手を交わしたミリアだったが、その整った顔に苦笑が浮かぶのは隠せなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

その聖女、脳筋につき取扱注意!!

月暈シボ
ファンタジー
突如街中に出現した怪物に襲われ、更に謎の結界によって閉鎖された王国の避暑地ハミル。 傭兵として王都に身を寄せていた主人公ダレスは、女神官アルディアからそのハミルを救う依頼を受ける。 神々に不信を抱くダレスではあったが、彼女の説得(怪力を使った脅迫)によって協力を約束する。 アルディアの従者である少女ミシャも加え、三人で現地に向かった彼らは、ハミルで数々の謎を解き明かしながら怪物と事件の真相、そして自身らの運命に立ち向かうのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...