ハードボイルドJK

月暈シボ

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消えた靴と学園の謎

その14

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「ユウジ、君も部屋に戻るみたいだね」
 廊下に出たユウジは、まるで彼を待っていたようなタイミングで背後から女子に声を掛けられた。
「ああ! やっぱりレイか。まさかこのタイミングでまた会うとは思わなかったよ!」
 驚きながら後ろを振り向いたユウジの目にレイが映る。彼女もユウジと同じくTシャツと学園ジャージといったかなりラフな姿だ。いくら寮内とはいえ女の子らしい洒落っ気が微塵も無い格好だが、元の素材が良いためか手抜き感よりもスポーティーな清潔感を覚えさせた。
 もっとも、ユウジとしてはこれから部屋に戻って寝る準備をする予定でいたので、この場でレイと会うのはちょっとしたサプライズである。
「ふふふ。同じ寮で暮らしているんだから、そこまでの意外性はないと思うけど」
「それはそうなんだけど、廊下に出た直後に後ろから声を掛けられたら誰でも驚くさ・・・まさか、それを狙っていた?!」
 レイの主張はもっともではあるが、あまりのタイミングの良さにユウジは疑問を募らせる。
「さあ、それはどうかな? なあ、ミスズ?」
「いや、どうかなって言われてもね・・・私は誰かさんの悪戯に加担するつもりはないから正直に言うけど。高遠君、私達も部屋に戻る途中だったの、そうしたら丁度そこから高遠君がこっちにやって来る姿が見えて、レイが私の腕を引っ張って二人して死角に隠れていたってわけ」
 レイは微かに口角を上げる独特な笑顔を見せると、それまでユウジとのやり取りを一歩離れて窺っていた友人の川島ミスズに問い掛ける。だが、川島はレイの悪巧みに乗る気がないのか、素直にユウジへ経緯を説明した。
「せっかく・・・ミステリアスなキャラを演じようとしていたのに台無しだな。ミスズは友人への共感がミジンコ並に低いようだ」
「大丈夫。特に意識しなくてもレイは充分に変人だから」
「そうか・・・ふふふ」
 ユウジへのちょっとした悪戯を暴露されたレイは川島を非難するが、彼女も負けずに言い返す。一見すると中々きつい応酬のように感じるが、二人とも満更でもない笑顔を浮かべているので冗談の一種なのだろう。信頼関係が成り立っているからこそ出来る毒舌合戦と言えた。

 蚊帳の外に置かれたユウジだったが、こちらも満更でない気分で二人のやり取りをみつめていた。何しろレイは言うに及ばず、川島ミスズもかなり美的水準の高い少女だからだ。
 川島はレイより背は低いが、逆に髪は背中の中頃まで長く伸ばしており、癖のない瑞々しい黒髪が映えている。身体付きも小柄なわりに均整がとれていて、寮内でもポロシャツとデニムのスカートで着飾っており、なかなかお洒落だ。強いて言うなら、切れ長の目が内面の冷たさを連想させるので好みが別れるところだが、ユウジはそれを彼女の最大の魅力として認識した。
 二人の美少女のじゃれ合いを間近で眺められるのである、文句は逆立ちしても出て来なかった。

「・・・まあ、私としても高遠君に会えて丁度良かった」
 そんな自分達を観察する視線に気付いたのか川島はユウジに語り掛ける。
「え? 俺に・・・会えて良かった?」
「ええ、さっきレイから高遠君と付き合い始めたって聞かされたから、どんな男子なのか私も気になっていたの。何しろ、あなたは特に目立つような男子じゃないからね!」
「な!!」
 川島の意外な発言に驚いたユウジは説明を求めるようにレイに視線を送るが、彼女は特に動じることなく軽いウインクでアイコンタクトを取る。どうやら、川島の誤解ではなくレイ本人がそのように伝えたらしい。
「そ、そうなんだ・・・実は俺とレイは付き合い始めたんだ。よろしく川島さん・・・」
 レイの反応に合わせてユウジは川島に釈明するように告げる。既にクラスの噂になってはいたようだが、レイ本人が肯定しているとは想定外である。
 厳密に言えば事件を追う相棒としてレイと付き合っているわけなので嘘ではないのだが、流れからするとレイは男女として付き合っていると川島に伝えたか、もしくはそう受け取れるように誘導したと思われる。これは親友の川島にもレイは事件捜査のことを内密にしていることを意味していた。ならば、ユウジも捜査のことは秘密にするしかない。

「ええ、よろしく高遠君。でもはっきり言うけど、私からすると・・・すっごく意外なの! レイが男子と、特に高遠君のような平凡な男子と付き合うとは思っていなかったからね。ねえ、一体どうやってレイを口説いたの?」
「・・・いや、それは・・・」
 これ以上ないほど直球な川島の質問にユウジは返答に困窮する。野球なら時速160㎞は出ているだろう。先程から彼女が自分を快く思っていないことには気付いていたが、ここまでの剛腕とは思わなかった。
 もっとも、ユウジとしても川島の心理状況は理解出来た。自分のせいで仲の良いレイと過ごす時間が確実に減るのである。男女問わず友人の交際相手とは難しい存在なのだ。
「ふふふ、ミスズ。実は私の方からユウジを口説いたんだ。ユウジは一見平凡に見えるが、中身はかなりの変わり者だからな、そこに惹かれたんだ」
「え、レ、レイから?!!」
「ああ、でも私が先に彼氏を作ったからってそんなに焦ることはないぞ。ミスズがその気になれば彼氏の二、三人なんて直ぐに出来るさ!」
 川島のユウジへの当たりの強さに気付いたのか、レイが代わりに答える。彼氏、正確には彼氏としているユウジを庇いつつも親友の川島を気遣う辺り、なかなか上手い配慮である。
「確かにその気になれば・・・いや、二、三人ってとんでもない尻軽女じゃない!」
「足りないなら四人でも五人でもいいぞ!」
「ふふふ、増やさないでよ! もう!」
「じ、じゃ、二人ともおやすみ。また明日!」
 レイの冗談で川島の機嫌が多少なりに回復したことで、ユウジは二人に就寝の挨拶を告げる。これ以上長居しては余計なトラブルを招くだけと判断したのだ。
「ああ、おやすみ。ユウジ、また明日!」
「おやすみなさい・・・」
 レイに続き川島もユウジに挨拶を告げる。どうやら快く思われてはいないが、挨拶を無視されるほどではないらしい。

「む、難しいな・・・」
 二人と別れて中央階段を登るユウジは改めて自分を取り巻く人間関係について考える。レイと関係を深めたことで彼の交友関係は変化と広がりを見せている。それ自体は悪い事ではないのだが、人気者のレイだけに対応を間違えると敵を作ることになるだろう。ユウジは慎重な対応を求められていることを自覚するのだった
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