愛染

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04.5年分の涙

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ピピピピッ
目覚ましの音が鳴った。

「ん、もう朝か...」

今日もあまり眠ることが出来なかった。

昨日のことが頭から離れなかったからだ。

「はあ、早く支度しなきゃ」

ガチャッ

玄関のドアを開け外に出るといつものように俊一がいた。

「おはよう」

僕は俊一にいった。

「お、おはよう」

俊一は少し戸惑った表情で返事をした。

なんだかいつもと対応が違ったので不思議に思った。

登校中話をしてもあやふやな返事しか帰ってこない。

絶対にいつもとはなにかが違う。

今日の授業中も俊一は上の空だった。

こんなことはじめてだなと、僕は思った。

さすがに心配になってきた。

お昼休みは、いつものように弁当を食べた。

そこで僕は聞いてみた。

「なあ、なんかあった?今日元気ないね」

俊一は黙り込んでいた。

黙々と口にご飯を運び答えてくれなかった。

少しイラッとした。

次は強めの口調で

「なあ、なんかあったんなら言えよ!」

と、僕は俊一を見ながら言った。

すると俊一の口が少し開いた。

「...、昨日、見たんだ。」

と、俊一が言った。

「なにを?」

「凛と知らない男がキスしてるところを...。」

俊一が顔をそむけながら言った。

「え...」

僕は驚いた。

ひ汗が止まらなかった。

そんな...

僕は1番見られたくない人に見られてしまったんだ。

僕の秘密を...。

沈黙が続いた。


キーンコーンカーンコーン

予鈴のチャイムがなったと同時に僕はその場から逃げるようにして走り去った。

その後の授業内容は覚えていない。

秘密がバレたことで頭がいっぱいだった。

よりによってなんで俊一に...。

僕はそう思った。

この5年間、幼なじみという関係を崩さないために必死に隠してきたのに

もう最悪だ。

消えてしまいたい。

そもそもなんで僕は普通じゃないんだ。

なんで普通に異性を愛することが出来ないんだ。

僕だってなりたくてゲイになった訳じゃない。

なんでなんだ。

死にたい。





キーンコーンカーンコーン

号令が終わると、荷物を持ってすぐに教室を出た。

僕は足早に家に帰っていた。

「おいっ!」

そう腕をつかみながら声をかけてきたのは俊一だった。

僕は俊一と目を合わせないよう顔をそらした。

僕は黙っていた。

「おい、なんで逃げるんだよ」

僕は返事をしなかった。

しばらく沈黙が続いたあと俊一が言った。

「ちょっと話し合わないか」

僕は少しだけ口を開き

「話すことなんてないよ」

そう言いながら掴まれていた腕を払った。

「俺たち幼なじみだろ、話せばきっと...」

「話すことなんてないって言ったろっ!」

僕は俊一に背中を向けながら言った。

「それに、お前を幼なじみだなんて思ったことないよ」

と、投げ捨てるように僕は言った。

俊一は黙り込んでいた。

そんな俊一を後に僕はまた足早に歩き出した。

数歩歩いたところで俊一が

「幼なじみで親友だと、そう思ってたのは俺だけだったのか、そんなの嘘だ。」

と、言った。


少し間を開けてから僕は答えた。

「嘘じゃないさ、僕はゲイだ。

  そして、お前を幼なじみでも親友でもなく見ていた...

  この意味わかるだろ」

と、僕は無理に笑いながら言った。

でも、少し声が震えていたのが自分でもわかった。

もう涙が溢れてきそうだった。

限界だ。



「もう、僕に近づかないでくれ。」



そう一言放った。

今度は走りながらその場をあとにした。








ガチャ

いつもより強くドアを開け、閉めた。

「あら、おかえりなさい」

と、母が言ったが返事をせず階段をかけ登った。

部屋のドアを開け、鍵を閉めた。

そして布団に横になった。

涙が一気に溢れてきた。

一向に止まることのない涙がこれまでの僕の気持ちを表しているようで

少し笑えた














プルルルプルルル

「ん、誰だ」

僕は泣いたまま眠ってしまったようだ。

携帯を開くと翔からの電話だった。

僕は電話に出た。

「もしもし」

「あ、もしもし?こんな遅くにごめん」

と、翔が言った。

「明日休みだからさどっか行かない?映画とかどうかな!」

翔はいつも通り元気だった。

その声を聞いて少し明るい気持ちになった。

「うん、いいよ」

と、僕は答えた。

「よっしゃ!じゃあ明日の1時にいつもの喫茶店でいいか?」

「うん」

僕は翔に気づかれないように話すのが精一杯だった。

すると

「...なんかさ、今日元気ない?大丈夫?」

と、翔が言ってきた。相変わらず勘が鋭い。

この人には隠せないなと思った。

するとまた涙がこぼれそうになった。

「ううん、大丈夫」

僕は涙をこらえながら言った。

少し沈黙があったあと

「凛、もう少し俺に頼ってもいいんじゃないか

   辛い事とか悩みがあったら話してよ。

   唯一秘密を知ってるんだし...

   そ、それに好きなやつが元気なかったら
   
  心配だし」

と、翔が言ってきた。

その言葉を聞き、こらえていた涙が溢れ出した。

「もう、ダメかもしれない、耐えられないよ」

「そうか、辛かったんだな」

翔は優しく声をかけてくれた。

そして

「やっぱり明日まで待てない、

   ちょっと待ってろ」

そう翔が言った後電話が切れた。

え、

僕は戸惑った。

しばらくしてから翔から電話があった。

「凛外を見てみて」

言われた通り外を見るとそこには翔がたっていた。

「翔!」

僕はびっくりした。

翔はこっちに気づき笑顔で手を振っていた。

僕は親に気づかれないように階段を降りドアを開けた。

そこには笑顔で僕のことを迎える翔がいた。

翔は少し汗ばんでいて、息も切れている。

ここまで走ってきてくれたんだ。

そう思い心臓が締めつけられた。

それと同時に涙がまた僕の頬を伝っていくのがわかった。

「凛...」

そう言って、そっと抱きしめてくれた。


僕は翔の胸の中で泣いた。





子供みたいに泣いた。







それでも5年分の俊一への思いは流されることはなかった。







ああ、俊一のことなんか忘れてしまえばいいのに






僕はそう思った

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