愛染

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03.迷い

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「凛、凛ってば!」

「えっ!?」

声がした方を見るとそこには俊一が呆れた顔で立っていた。

「今日はいつにも増してぼーっとしてるな、
    何かあったのか?」

「そ、そうかな」

僕は焦りながらも笑顔で答えた。

そりゃ、誰だってあんなことがあれば考えてしまうだろう

まさか翔が僕のことを好きだなんて...






あの後、僕の家の前まで一言も喋ることはなかった。

しかし、翔は帰り際僕に向かって言ってきた。



「俺は本気で凛が好きだ。考えておいてくれ」



そう一言残して足早に帰っていった。

またしてもその真剣な眼差しから目をそらすことが出来なかった。

その夜は翔のことで頭がいっぱいだった。

人から好きだと言われることがこんなにも嬉しいことだったなんて知らなかった。

心臓がドクンドクンとなっているのが分かった。

結局夜は一睡もするとこができなかった。








「なんかあったら言えよ、幼なじみなんだから」

と、俊一は言った。

「うん」

幼なじみか...

心臓がズキっとした。

その言葉は重く深く僕の心に突き刺さった。








放課後

いつもの帰り道を俊一とふたりで帰っていた。

「やっぱりお前なんか変だよ」

俊一は急に僕の方をじっと見ながら言った。

「そんなことないって」

僕は俊一から顔を逸らし言った。

「あのこと気にしてる?」

「あのことって?」

「俺が凛に男が好きなのかって聞いたやつ」

と、俊一が言った。

僕はドキッとして下をうつむきながら言った。

「そんなの気にしてないし、普通に女の子好きだから...。」

「そっか、だよな」

俊一はにこやかに答えた。

「そうだよ...」

と、僕は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

またしても心臓がズキっととした。


話が終わると沈黙が続いた。

変な空気になってしまった。


その時


プルルルプルルル

電話だった。

僕はすぐに電話に出た。

その相手は翔だった。

「あのさ、今から会えない?」

と、翔が聞いてきた。

僕はすぐに

「わかった、じゃあいつものとこで」

そう返事をして電話を切った。

この沈黙から逃げたかったということもあるが、

翔にも少し会いたかったからだ。

「今の誰」

俊一が聞いてきた。

僕は

「大切な友達」

そう答えて翔の待っている喫茶店へ行った。







カランカラン

喫茶店のドアを開けるといつもの場所に翔は座っていた。

翔はすぐに僕に気づいた。

僕に気づいた瞬間笑顔になるのを見て心臓がキュンっとなった。

「お待たせ」

と、僕は言った。

「俺も今来たところだから」

翔は笑いながら言った。

なんだか、少女漫画でよくあるやつみたいだ

そう思って僕はクスクスと笑った。

「それで今日はなんの用?」

僕は聞いた。

なんとなく予想はついてたけど、気付かないふりをした。

すると翔は

「昨日のことなんだけど、考えてくれた?」

そう微笑みながら聞いてきた。

僕は正直な気持ちを言った。

「考えたよ。

    眠れないくらい考えたけど、

    まだ答えは出ないんだ。
    
    僕は俊一が好きだ。中学生の頃からずっと...
  
    この思いはちょっとのことじゃ変わらないん       だ。

    翔はそれを承知で僕を好きだと言ってくれてくれたんだと思う。

    その時はほんとに嬉しかった。

    今もすごく翔のことを意識をしている。

    でも、やっぱり俊一のことが頭から離れない。

    だから、答えはまだ決まらないんだ。ごめん」

と、僕は翔に伝えた。

僕が話している間翔は真剣な眼差しで見ていた。

それだけ本気なのだなということがひしひしと伝わってきた。

そんな人にこんな返答をするなんてひどい話だ。

でも僕の話を聞き、翔は頷き

「わかった、もう少しだけ待つ」

と、真剣な眼差しで答えた。そして、

「よしゃ!凛が俺の事好きだって言わせてやる」

そう元気よく言った。

僕は笑った。翔らしいな。そう思った。



またしても翔が家まで送ってくれた。

ほんとに優しいな、

翔となら俊一のことを忘れて幸せになれるんじゃないのか

一瞬だが僕は心の底からそう思った。



そしてあっという間に家の前まで着いてしまった。

すると翔が

「凛好きだ、俺が俊一を忘れさせてやる」

と言ってきた。

僕はドキッとした。

昨日と同じで翔から目が離せず、動けなかった。

すると翔が顔をそらさずに近づいてきた。

いつの間にか翔の顔が目の前にあった。

口に何かが触れた

一瞬のことで何があったのか分からなかった。

「じゃあな!」

と、言って翔は走り去っていった。



翔が見えなくなるまでぼーっとしていた

翔の姿が見えなくなった時やっとわかった





「キス...」





僕はぼそっと呟いた。





言葉に出した途端体中が燃えるように熱くなった





また心臓の音がドクンドクンと響いていた。





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