1 / 11
プロローグ
しおりを挟む
目覚めた時、一番最初に目にしたいものは何か?と問われた時、僕は何と答えたんだっけか。
家族の顔だっただろうか。美しい景色だっただろうか。いつも通りの代わり映えしない天井、と答えたような気もする。
そして、目覚めた時、一番最初に目にしたくないものは何か?と問われたことも、今、目覚めた瞬間に思い出した。その答えは忘れてしまったし、そもそもちゃんと答えたかどうかも分からない。
けれど今、同じ問いを投げかけられたら、僕は間違いなくこう答える。
ネズミと。
それはまさに、目覚めて一番最初に目にしたものだった。
「うおおおおっ!?」
喉の奥から自分でも驚くほどに大きな声が出る。眼前に……僕の顔の上に佇むネズミも、急の絶叫に驚いたのか、眼前にまで近づけていた鼻先を逸らし、一目散にどこかへと逃げていった。僕の方はネズミと違ってろくに動くこともできず、肩で息をしながらドクドクと撥ねる心臓を服の上から押さえつけていた。寝起きに動いたせいか頭が痛い。汗が出たのか、腋も背中もビショビショに濡れて……、
「……なんだ、これ」
そこで僕は、自分が今まで寝ていたものが、ベッドや布団のようなよくある寝具ではなく、浴槽と棺桶を足して割ったような奇妙な道具であることに気が付いた。その中には僕の肩が濡れるくらいの水が溜まっており、その水に浸かりながら僕は眠っていたようだった。
血の気が引いた。
風呂で寝て溺死の危険性があった……とか、そういうことに対してではない。
気づかなければよかった。寝たままの方が幸せだったかも。
そういった考えが本気で浮かんでくる、今、目覚めて一番最初に目にしたくない光景。
「ここは……どこだ……?」
カビと埃の臭いが漂う薄暗い部屋。冷たいコンクリートでできた床と壁。光源と言えるものは、朽ちた天井から射しこんでくる僅かな月明かりだけで、他に熱や光を持ったものは存在しない。床には幾本もの得体の知れないパイプやケーブル、チューブが這っていて、その先端は部屋の中心……僕の寝ていた浴槽に繋がっているようだった。
知らない、明らかに寂れた、得体の知れない無人の部屋。
ひゅっ、と呼吸音とも悲鳴とも取れない曖昧な叫びを喉から絞り出し、僕は急いで風呂桶から這い出た。ばしゃばしゃと激しく水音を立て、着ている服のあちこちから水が滴り落ちる。よく見てみると、その服も僕の知っている私服ではなく、患者服のような形のものだった。
なんだ、この状況は。
その疑問が頭を埋め尽くし正常な思考を塗りつぶしていく。
だが一方で、目の前にした光景があまりに衝撃的だったためか、それだけに現実感が抑えられ、脳内にギリギリで冷静な部分が残った。だがそれは理性ではなかった。ただ、生存のために行動するための本能。それがあらゆる疑問を思考の外に弾き、回答を示した。
夢だと思って逃げろ。
僕は恐怖に背を押されるまま脱出口を探し始めた。
靴は履いていなかった。天井から落ちてきたのか、コンクリートの破片が床のあちこちに散らばっていたが、それを踏む痛みも忘れていた。一瞬、朽ちた天井から逃げられるかと空を仰いだが、明らかに高さが足りていなかった。
部屋には扉が無かった。蝶番が壊れ、外れていたからだ。床を這うケーブル類は扉の向こう側から伸び、この浴槽部屋に繋がっているようだった。出口は分からず、今自分がいる場所は1階なのか。そもそも自分の知る土地なのか、何故自分はこんなところにいるのか。そんなことは後でいい。今は兎に角 動かなければならない。
道標となりそうなものは床を這うケーブル類の束しかなかったため、それを辿って走ることとした。
▽
脱出の道中は、思ったよりも簡単だった。
道中、誰とも……ネズミの一匹ともすれ違わず、妙な物音や怪奇現象が起こることもなく、足を止めることが無かったということ。そして、この場所自体が大分昔に捨てられたものなのか、扉の多くが壊れ、道を塞ぐ瓦礫も少なかったことが大きい。
これは単純に幸運だと思った。こんなところにいて幸運もないが。
走っている内に徐々に落ち着きを取り戻し、恐怖は怯えに代わった。
そして、誰かに追われているわけでもないので、体力温存のためにも歩いて脱出口をさがすことにした。その際、もたもたしていれば建物自体が倒壊するという懸念もありはしたが、そうなった時点で自身は助からないと割り切り、焦らず落ち着いて探索を続けることとした。
そうやって歩いている間に、一度は思考の隅に追いやった疑問が改めて浮かんできたが、どうにも答えが出る気はしなかった。
誘拐?
だとしたら今まで誰ともすれ違わなかったことが妙だし、本当に誘拐ならばまず見張りがいるはずだ。それがない以上、誘拐の線は考えにくい。
ここはどこなのか?
一見した印象では研究施設のように見えるが、心当たりはない。かなりの時間をかけて歩き回っても出口を中々見つけられなかったことから、大きな建物だってことしか分からなかった。
どうしてこんなところにいるのか?
知るわけがない。教えてもらいたいが誰もいない。攫われた可能性が薄いのなら、どこかからワープでもしてきたのかもしれない。
雑念のように浮かんでは消える疑問を雑に処理しながら、僕はケーブルを辿って歩き、古く見慣れない機械類が置かれた部屋を通り、しばらく廊下を彷徨い……。
ついに、外へと繋がる出口を見つけた。ひび割れ煤けたガラス扉の向こうに、青々と生い茂る木々と地面が見える。彷徨っていた時間は1時間にも満たないだろうに、緑を目にするのは随分と久しぶりに感じた。
「外っ……! やった、出れるぞ!」
その瞬間ばかりは思わず快哉を叫んだ。
一刻も早く外へ。その思いだけが頭を支配し、手足に活力を与えた。
僕の人生の中で、最も速く走れた瞬間だったと思う。
(何でこんなところにいるかとか、分からないことは多いけど今はどうでもいい! そういうのを調べるのは僕の役目じゃない! とりあえず警察に連絡……電話が無いから公衆電話? いや、まずは人がいるところまで、そして、最後には家に──)
そこまで考えた時、
ぴたり
と身体が動かなくなった。
それは比喩でも例えでも何でもなく、文字通り。
何故なら、目の前に現れたそれが、あまりにも絶望的だったからだ。
何故なら、頭に浮かんできた疑問が、あまりにも絶望的だったからだ。
外部の脅威と内部の驚異に挟み撃ちにされたからだ。
目の前のそれを、端的に表すとしたら、それは一体の怪物だった。
熊のような姿と巨体を持ち、熊のように二足で立つ、角を持った人面の怪物。
頭に浮かんできた疑問は、至極単純。だが一つではなかった。
それは連鎖して僕に襲い掛かってきた。
「どこに帰ればいいのか」
「両親や知人の顔はどんなものだったか」
「どのようにして今まで生きてきたのか」
「自分の名前は」
一般的な言葉や名前、制度といったものは「知識」として確かに頭の中にあった。
だが、僕は、僕自身のことに関する「記憶」がほとんど抜け落ちていることに気が付いた。
怪物が僕を認識する / 僕はやわらかな土に膝をついた。
怪物がぼくに向かって腕を振り上げる / ぼく はその光景を眺める。
怪物が に向かって腕を振り降ろす / は思わず、ぽつりとこぼした。
「 って……どこのだれだっけ……」
名前も帰り道もなくしたことに気づいた は、怪物の攻撃を頭に受け、
▽
「……遅かったか」
ガラスの刀を振るって血を飛ばすと、黒衣に身を包んだ男は自分が斃した怪物の死体を踏みつけながら目の前の光景を沈痛な面持ちで眺めていた。
頭部を失った、16歳程の少年だ。吹き飛ばされたと思われる頭部は、コンクリートの壁面に叩きつけられて潰れている。服装は患者服を思わせるが、デザインや造りを見るにここ最近の物ではない。随分と旧式のものだった。体格は標準的、身長は……頭部も合わせれば、恐らくは165cmほどだろうか。痩せてもおらず、極端に太ってもいない。
(孤児でも、どこぞの退屈した家出少年でもなさそうだ。この子はどこから来たんだ? そもそも、何故こんな『異界』に……いや、今はこいつの方が重要だ。素早く取り出さねば……)
男は手にしたガラスの刀の切っ先をを怪物の胸部に押し当てようし、
「……っ!?」
すぐに、頭部を失ったはずの少年に起きた異変に気が付いた。
叩きつけられ、潰れたトマトのようになっていたはずの頭部が、見る見るうちに血の赤色を、髪の黒色を、肌の色を失い、灰色の粘土状の物体へと形を変えていく。それに合わせるように、少年の体の首の部分……抉られ、赤い肉と白い骨が見えている箇所も、同じように灰色の粘土状の物体へと変化した。
頭部だった灰色の粘土と、首だった灰色の粘土は、磁石が互いを引き寄せ合うようにして近づき、くっつき、グニグニと動きながら何らかの形を形成していく。
「まさか……再生、しようとしているのか!?」
男にはそのように見えていた。そして、その認識は正しかった。
みるみる内に灰色の粘土は鮮やかな色味を取り戻し、黒い髪を、血の通う肌を、顔のパーツを作り整えていった。残されたのは、まるで無傷の、寝息を立てる少年が一人だけ。
血の跡も全て粘土状の物体と同化して消えた。
その惨劇の証拠は何も残らず、ただそれを見ていた男だけが事の真相を知っていた。
男は眼下の怪物の死体と、目の前で眠る少年を見比べた後、素早く怪物の死体から離れると、すぐに少年を抱えてその場を立ち去った。
それからおよそ10秒後。
その場には、ただ荒れた山奥の広場があるだけとなった。
コンクリート製の建物も、怪物も、そんなものこの世にはなかったかのように。
『異界』は閉じた。
男は……魔術師は、任務を放棄し、少年を小脇に夜の街へと向かった。
家族の顔だっただろうか。美しい景色だっただろうか。いつも通りの代わり映えしない天井、と答えたような気もする。
そして、目覚めた時、一番最初に目にしたくないものは何か?と問われたことも、今、目覚めた瞬間に思い出した。その答えは忘れてしまったし、そもそもちゃんと答えたかどうかも分からない。
けれど今、同じ問いを投げかけられたら、僕は間違いなくこう答える。
ネズミと。
それはまさに、目覚めて一番最初に目にしたものだった。
「うおおおおっ!?」
喉の奥から自分でも驚くほどに大きな声が出る。眼前に……僕の顔の上に佇むネズミも、急の絶叫に驚いたのか、眼前にまで近づけていた鼻先を逸らし、一目散にどこかへと逃げていった。僕の方はネズミと違ってろくに動くこともできず、肩で息をしながらドクドクと撥ねる心臓を服の上から押さえつけていた。寝起きに動いたせいか頭が痛い。汗が出たのか、腋も背中もビショビショに濡れて……、
「……なんだ、これ」
そこで僕は、自分が今まで寝ていたものが、ベッドや布団のようなよくある寝具ではなく、浴槽と棺桶を足して割ったような奇妙な道具であることに気が付いた。その中には僕の肩が濡れるくらいの水が溜まっており、その水に浸かりながら僕は眠っていたようだった。
血の気が引いた。
風呂で寝て溺死の危険性があった……とか、そういうことに対してではない。
気づかなければよかった。寝たままの方が幸せだったかも。
そういった考えが本気で浮かんでくる、今、目覚めて一番最初に目にしたくない光景。
「ここは……どこだ……?」
カビと埃の臭いが漂う薄暗い部屋。冷たいコンクリートでできた床と壁。光源と言えるものは、朽ちた天井から射しこんでくる僅かな月明かりだけで、他に熱や光を持ったものは存在しない。床には幾本もの得体の知れないパイプやケーブル、チューブが這っていて、その先端は部屋の中心……僕の寝ていた浴槽に繋がっているようだった。
知らない、明らかに寂れた、得体の知れない無人の部屋。
ひゅっ、と呼吸音とも悲鳴とも取れない曖昧な叫びを喉から絞り出し、僕は急いで風呂桶から這い出た。ばしゃばしゃと激しく水音を立て、着ている服のあちこちから水が滴り落ちる。よく見てみると、その服も僕の知っている私服ではなく、患者服のような形のものだった。
なんだ、この状況は。
その疑問が頭を埋め尽くし正常な思考を塗りつぶしていく。
だが一方で、目の前にした光景があまりに衝撃的だったためか、それだけに現実感が抑えられ、脳内にギリギリで冷静な部分が残った。だがそれは理性ではなかった。ただ、生存のために行動するための本能。それがあらゆる疑問を思考の外に弾き、回答を示した。
夢だと思って逃げろ。
僕は恐怖に背を押されるまま脱出口を探し始めた。
靴は履いていなかった。天井から落ちてきたのか、コンクリートの破片が床のあちこちに散らばっていたが、それを踏む痛みも忘れていた。一瞬、朽ちた天井から逃げられるかと空を仰いだが、明らかに高さが足りていなかった。
部屋には扉が無かった。蝶番が壊れ、外れていたからだ。床を這うケーブル類は扉の向こう側から伸び、この浴槽部屋に繋がっているようだった。出口は分からず、今自分がいる場所は1階なのか。そもそも自分の知る土地なのか、何故自分はこんなところにいるのか。そんなことは後でいい。今は兎に角 動かなければならない。
道標となりそうなものは床を這うケーブル類の束しかなかったため、それを辿って走ることとした。
▽
脱出の道中は、思ったよりも簡単だった。
道中、誰とも……ネズミの一匹ともすれ違わず、妙な物音や怪奇現象が起こることもなく、足を止めることが無かったということ。そして、この場所自体が大分昔に捨てられたものなのか、扉の多くが壊れ、道を塞ぐ瓦礫も少なかったことが大きい。
これは単純に幸運だと思った。こんなところにいて幸運もないが。
走っている内に徐々に落ち着きを取り戻し、恐怖は怯えに代わった。
そして、誰かに追われているわけでもないので、体力温存のためにも歩いて脱出口をさがすことにした。その際、もたもたしていれば建物自体が倒壊するという懸念もありはしたが、そうなった時点で自身は助からないと割り切り、焦らず落ち着いて探索を続けることとした。
そうやって歩いている間に、一度は思考の隅に追いやった疑問が改めて浮かんできたが、どうにも答えが出る気はしなかった。
誘拐?
だとしたら今まで誰ともすれ違わなかったことが妙だし、本当に誘拐ならばまず見張りがいるはずだ。それがない以上、誘拐の線は考えにくい。
ここはどこなのか?
一見した印象では研究施設のように見えるが、心当たりはない。かなりの時間をかけて歩き回っても出口を中々見つけられなかったことから、大きな建物だってことしか分からなかった。
どうしてこんなところにいるのか?
知るわけがない。教えてもらいたいが誰もいない。攫われた可能性が薄いのなら、どこかからワープでもしてきたのかもしれない。
雑念のように浮かんでは消える疑問を雑に処理しながら、僕はケーブルを辿って歩き、古く見慣れない機械類が置かれた部屋を通り、しばらく廊下を彷徨い……。
ついに、外へと繋がる出口を見つけた。ひび割れ煤けたガラス扉の向こうに、青々と生い茂る木々と地面が見える。彷徨っていた時間は1時間にも満たないだろうに、緑を目にするのは随分と久しぶりに感じた。
「外っ……! やった、出れるぞ!」
その瞬間ばかりは思わず快哉を叫んだ。
一刻も早く外へ。その思いだけが頭を支配し、手足に活力を与えた。
僕の人生の中で、最も速く走れた瞬間だったと思う。
(何でこんなところにいるかとか、分からないことは多いけど今はどうでもいい! そういうのを調べるのは僕の役目じゃない! とりあえず警察に連絡……電話が無いから公衆電話? いや、まずは人がいるところまで、そして、最後には家に──)
そこまで考えた時、
ぴたり
と身体が動かなくなった。
それは比喩でも例えでも何でもなく、文字通り。
何故なら、目の前に現れたそれが、あまりにも絶望的だったからだ。
何故なら、頭に浮かんできた疑問が、あまりにも絶望的だったからだ。
外部の脅威と内部の驚異に挟み撃ちにされたからだ。
目の前のそれを、端的に表すとしたら、それは一体の怪物だった。
熊のような姿と巨体を持ち、熊のように二足で立つ、角を持った人面の怪物。
頭に浮かんできた疑問は、至極単純。だが一つではなかった。
それは連鎖して僕に襲い掛かってきた。
「どこに帰ればいいのか」
「両親や知人の顔はどんなものだったか」
「どのようにして今まで生きてきたのか」
「自分の名前は」
一般的な言葉や名前、制度といったものは「知識」として確かに頭の中にあった。
だが、僕は、僕自身のことに関する「記憶」がほとんど抜け落ちていることに気が付いた。
怪物が僕を認識する / 僕はやわらかな土に膝をついた。
怪物がぼくに向かって腕を振り上げる / ぼく はその光景を眺める。
怪物が に向かって腕を振り降ろす / は思わず、ぽつりとこぼした。
「 って……どこのだれだっけ……」
名前も帰り道もなくしたことに気づいた は、怪物の攻撃を頭に受け、
▽
「……遅かったか」
ガラスの刀を振るって血を飛ばすと、黒衣に身を包んだ男は自分が斃した怪物の死体を踏みつけながら目の前の光景を沈痛な面持ちで眺めていた。
頭部を失った、16歳程の少年だ。吹き飛ばされたと思われる頭部は、コンクリートの壁面に叩きつけられて潰れている。服装は患者服を思わせるが、デザインや造りを見るにここ最近の物ではない。随分と旧式のものだった。体格は標準的、身長は……頭部も合わせれば、恐らくは165cmほどだろうか。痩せてもおらず、極端に太ってもいない。
(孤児でも、どこぞの退屈した家出少年でもなさそうだ。この子はどこから来たんだ? そもそも、何故こんな『異界』に……いや、今はこいつの方が重要だ。素早く取り出さねば……)
男は手にしたガラスの刀の切っ先をを怪物の胸部に押し当てようし、
「……っ!?」
すぐに、頭部を失ったはずの少年に起きた異変に気が付いた。
叩きつけられ、潰れたトマトのようになっていたはずの頭部が、見る見るうちに血の赤色を、髪の黒色を、肌の色を失い、灰色の粘土状の物体へと形を変えていく。それに合わせるように、少年の体の首の部分……抉られ、赤い肉と白い骨が見えている箇所も、同じように灰色の粘土状の物体へと変化した。
頭部だった灰色の粘土と、首だった灰色の粘土は、磁石が互いを引き寄せ合うようにして近づき、くっつき、グニグニと動きながら何らかの形を形成していく。
「まさか……再生、しようとしているのか!?」
男にはそのように見えていた。そして、その認識は正しかった。
みるみる内に灰色の粘土は鮮やかな色味を取り戻し、黒い髪を、血の通う肌を、顔のパーツを作り整えていった。残されたのは、まるで無傷の、寝息を立てる少年が一人だけ。
血の跡も全て粘土状の物体と同化して消えた。
その惨劇の証拠は何も残らず、ただそれを見ていた男だけが事の真相を知っていた。
男は眼下の怪物の死体と、目の前で眠る少年を見比べた後、素早く怪物の死体から離れると、すぐに少年を抱えてその場を立ち去った。
それからおよそ10秒後。
その場には、ただ荒れた山奥の広場があるだけとなった。
コンクリート製の建物も、怪物も、そんなものこの世にはなかったかのように。
『異界』は閉じた。
男は……魔術師は、任務を放棄し、少年を小脇に夜の街へと向かった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
強制無人島生活
デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。
修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、
救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。
更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。
だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに……
果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか?
注意
この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。
1話あたり300~1000文字くらいです。
ご了承のほどよろしくお願いします。
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
俺なんでハーレムなんか作ってるの?
きんさん
ファンタジー
国の政策により、貧乏な家の俺には、冒険者になる道しかないようだ。
中学校を卒業するとすぐに、冒険者養成所の独身寮入り。
何故か俺の周りに美少女があつまり、ハーレムができる。
最初は、シリアス調だけどだんだんコメディーな作風になります。
理系の頭で初めて小説を書きました。
文調などばらばら、読みにくいかもしれません。
後、異世界ダンジョンMMOの世界感で書いてますが、戦闘までに、かなり時間がかかりそうです。
冒険者になるための養成所での、主人公にふりかかるいろいらなアクシデントを楽しく書いていきたいです。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる