幸運の歌姫

歩楽 (ホラ)

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第1章・聖騎士

初ライブ

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 僕は、軽くゾォー3を鳴らす。

 夜も遅い、音は小さめに・・・
いくつかある、ツマミを操作し、音を整えていく
リバーブを強めで箱の感覚、アコースティクの情緒を出していく。

 無駄なヤジはない、みんな、シャルの存在が怖いのか静かにしている
数日前なら、石を投げられ、馬鹿にされていただろう。

 それに比べれば、ここは平和であった。

 静かに2度3度、深呼吸をする
視線を一度シャルに移す・・・・。

 あぁ・・・緊張が抜けていく・・
彼女の顔を見るだけで
僕の心は満たされる・・・
親友と呼んでくれた、シャルロット貴方の為に歌おうと。



「この歌の題名は【上を向いて歩こお】聞いてください」



そして、原曲より少し速度を落とし、歌いだす
夜遅いので、音を抑え、声が広がる様に、和音を被せる・・・

 無駄な思考は止め
 
 歌に集中していく・・・・・・











静かな酒場に、あ3の声と、ギターの音色だけが流れる・・・














 僕は歌い終わり
緊張で大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

 ゆっくり視線を上げると
静まり返った、空間がそこにあった・・・・

 あぁ・・・やっぱり、僕の歌は・・・・

 そうして、僕の視線は徐々に下に落ちていく・・・。


 パチパチパチ


 拍手の音がする・・

下を向く視線を、体を震わせながら拍手の方向に向ける

そこには、やっぱり、シャルがいた・・・・

うん・・・それだけでいい、シャルが喜んでくれるなら・・・

 
 パツパチパチ


 それは、シャルの横で、涙を流していた店の亭主が
シャルの拍手に気がつき、いきなり拍手をしだした音だった。

 そして、奥さんは拍手ができないほど涙を流し
エプロンで流れる涙を拭っていた。


 パチパチパチ


 それからは、店にいる客全員が、拍手する
何人もの人間が、なみだしていた・・・・・・

 そこには、あ3を笑う存在など、1人もいなかった・・・。


 そして、店の亭主が口を開く。

「これは・・・今のは歌なのか・・・?
 こう・・・言葉が心にしみる
 揺さぶられる・・・・
 こう・・・綺麗で・・・・
 言うならば、どんな絵画より美しく
 心を打つ・・・
 本当に感動した!」

 その言葉の意味は、僕にはワカラナイ
でも、シャルが喜んでくれた
みんなも喜んでくれた事は僕にもわかる

 今は、それだけで嬉しい。

「なぁ、ボウズ、もう一回歌ってくれないか!」

 いきなり後頭部を叩かれる亭主。

「あんた、この子は女の子だよ、そんな事もわからないのかい!」

 酒場に笑いが灯る。

 奥さん、あなたもさっき男だと間違えたでしょ・・と
僕はシャルと視線を合わせ、クスクスと笑うのだった。

 そして、酒場のお客からも

「もっと歌ってくれ!」と多くの声が聞こえ

 引き続き歌うことになったのは、言うまでもないかも知れない。

 そして、またシャルに、どれを歌えばいいか聞く。
こればかりは、どうしようもない
僕にとって、全てが大切な歌であり
甲乙つけたがいし、人付き合いの無い僕では
その場に合わせた、歌を選択できないでいたから・・・。

 だけど、そんな事は気にもせず
シャルは嬉しそうに、歌を選んでくれた。

「それじゃぁ、あ3、次はこれにしよう」

 そうして、僕はシャル言うまま、この後4曲ほど歌うと
すでに店を閉める時間は過ぎていたようで
僕は迷惑だからそこで辞める事にした。

 そして、お店のお客さん達は帰るさいに、僕に声を掛けてくれた。

「変わった歌だけど、感動した」とか

「楽しかった」とか

「心沸いた」と・・・・

 僕は、こんなに沢山の人と話したのは初めてで
頷くか「ありがとう」としか言えなかった。

 おかげで、店に残った最後のお客は、僕とシャルだけにになっていた。

 僕たちの帰り際、奥さんから

「明日の朝、顔を出しなさい」と言いつけられた・・

なんでも朝飯をご馳走してくれらしい・・。

 僕とシャルは奥さんと約束し、宿屋に帰る。


 僕は疲れていたのか、宿屋の部屋に帰ると
ベットに倒れこむ・・・・・



 すごかった・・・・・。

 よくわからないけど、すごかった・・・・。

 みんな喜んでくれた・・・・・。

 ふふ、あの大きな女性の人、泣きながら喜んでいた。

 ねぇ・・・・僕の歌が褒められたよ

 とっても・・・・

 とっても・・

 嬉しかったんだ・・・・・・





 いつしか、睡魔に負け
 
 僕のまぶたは、瞳を覆うのだった。
 
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