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覚醒編

18話 鈴・・・。

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 紫音は、左太腿を撃たれた、蘭を守るため
井門圭人の前に立ちふさがった

そして鈴は、蘭を救うため、蘭に回復魔法を発動させた

蘭は、足を撃たれ、その機動力を失い戦えなくなったことを自覚する
そして、半ば覚悟し、井門に申し出る

「わかったよ、井門圭人、子供の安全は保証してくれるんだろうな」

その言葉で、井門も、ホッと息を吐き

「はい、従って頂けるなら、安全は保証します、戻り次第医者も手配しますので
 しばらく安静にしてもらえると、嬉しいです」

 「あぁ、足をやられては、もう逃げれないしな・・・・・」

そして、膝を落とした蘭と井門の間に立ちふさがる紫音のケツを右手で叩き

「紫音もういい、下がれ」

そして鈴の頭を撫で

「鈴もありがとうな」

「・・・・・うん・・・・」

静かに返事をする鈴


蘭は気がつかない
普段の紫音なら、ケツを叩いた瞬間に何かの反応を起こすのだが
今の紫音は、目の前の男に集中し、何も反応しない事に
それは、紫音は未だ諦めていないことを、この状況を覆す方法があるはずと

そう、紫音は考えを巡らす

リーダー格である、やまさん
責任者は、このメガネの男、指揮系統である、メガネの男を一撃で倒し
それに動揺した、やまさんが、0、5秒も動きを止めれば、どうにかしてみせると


そして、蘭が諦めた事によりメガネの男、井門圭人は張り詰めた心を緩め
安心したように、手に持つ拳銃を懐にしまった

その一瞬、紫音は、右拳を固め、地面を蹴る
スキルを乗せた右拳、メガネ男の腹部にさえ当たれば
この男は最低でも十数秒は動きを止めるはずと・・・


「ガコ!」



紫音の頭にそんな音が響いた・・・・
その視界、世界が高速で流れる
詩音は何が起きたのかさえ分からないでいた

いや、すでに、紫音には意識すらなく
その脳は、その働きを放棄した

そう、紫音が、井門圭人を攻撃する瞬間
紫音の意識の外から、神業とも言える一撃
やまさんの蹴りが、紫音の右即頭部にヒットしたのだ

その、完璧な、スピード・パワー・タイミングで、紫音にヒットした蹴り
即頭部にヒットした、その打撃は、紫音の脳にも多大な衝撃を与える
自身に強化魔法を掛けていない紫音を殺すには十分な威力であった


その蹴りの威力は、紫音を身体ごと吹き飛ばした
数日後に10歳の誕生日を控えた紫音
その身長は、鈴より多少高いといっても、135cmほど、体重は30Kgも無いのだ
おもちゃか、人形かの如く、意識の無い紫音の体は
その四肢を不規則に振り回し、頭から回転しながら十数メートル飛んでいく

そして、道を塞ぐように止められていた、トレーラーのコンテナに
頭から衝突し、身体全体でトレーラーに張り付くが
神の一撃とも思われた、やまさんの蹴りの威力は未だ持続する
コンテナに、張り付いたまま、渦を捲くように回転する

そして、蹴りの威力が失われると
糸が切れた操り人形のように、滑り落ち
これが最後の止めかのように、後頭部をアスファルトに叩きつけた
そして、紫音の体は地面に横たわる

紫音の瞳は、蹴られた時のまま、見開かれ
横たわる視線の先には、膝を付く蘭と
蘭を回復している鈴の姿が映し出されたいた

だが、その瞳に光はなく、その目には意識は感じ取れなかった

蹴りの衝撃・トレーラー衝突の衝撃・地面に落ちた後頭部への衝撃・・・
すでに、紫音の脳は、その機能を停止し、生きた屍と化す


脳機能は止まり


その意識は既に無く


体は動かない


だからこそ


紫音の意志は


紫音の心は


魂と言う形で、動き出す




(・・・・・・あぁ・・・・・

 体が動かないや・・・感覚もないや・・・

 僕は死ぬのかな・・・・

 まぁ・・どうせ死んでも・・・

 どうせ死んでも?・・・なんだろう?・・・

 まぁいっか・・・死んでも・・・・

 それにしても・・・・・・蹴られた?のか・・・

 負けたのか・・・・・・あんな、おっさんに・・・・

 神さえ・・・・殺した・・・・この俺が?

 神を?・・・・・

 そんな事より、蘭さん・・・・・鈴・・・・・・

 2人が無事であるなら・・・・それだけで・・・・

 だけど・・・・死ぬ前に・・・・・

 PCの・・・・あのフォルダー消したかった・・・

 そして・・・・・・本棚に隠してる、あの雑誌も・・・・・・

 やばい・・・・・死ぬより・・・・・恥ずかしぃ・・・・・)


紫音は自分の死を、受け入れようともしていた




****************




鈴は、吹き飛び、そして倒れた紫音を、チラリとのそ視界に収める

そして、立ち上がろうとして、足の痛みで倒れかける蘭を
助けるように抱きついた

トクン・・・・・トクン・・・・・・・

鈴は、その小さな鼓動を感じていた
それは、鈴の心臓の鼓動ではない
鈴の中に感じる、もう一つの鼓動、それが徐々に大きくなってゆく

そう、これはきっと紫音の鼓動
双子の超感覚であると、私にはわかる、紫音は無事だと
そして、その鼓動は大きくなってゆく、もうすぐ紫音が目覚める
今度こそ、紫音が助けてくれる

そして、蘭に告げる

「大丈夫、紫音は大丈夫」


トクン  トクン  トクン

鼓動と共に、魔力、魔力量が膨れ上がってゆく鈴
だが、鈴はそれに気が付くことはない
紫音の事も気にはなるが、今は蘭を守る事を優先する



そんな中・・・・・・


西神虎亜の暴走

マシンガンの乱射


それによって、蘭と鈴はその銃弾を受ける事となる



その銃撃から、鈴を守ろうと抱きしめる女性は、おおきな叫びをあげた
その叫びと共に、鈴を抱きしめる腕から力が抜け
鈴の隣に倒れ込んだ
彼女の脇腹には、銃弾が貫通し、白かった白衣が徐々に赤く染まってゆく


その姿に、鈴はその瞳に涙を溜めながら、母の名を呼ぶ

「ら、、、ん、、、、、さ、、、、、、ん、、、、、、」

紫音の鼓動は大きくなっていく、だが紫音は未だ動かない
なら、今は私が蘭さんを守らないと、助けないと、二度と蘭さんを・・
その脳裏に昔のトラウマを浮かべながら
どうにか、言う事を聞く両手を蘭の脇腹へとかざす
それは、残りの力を使って、蘭に回復魔法を使うため

「いま、、、、た、、、、すけ、、、る、、、か、、、、、」

母を名を呼び、言葉をかける、それと同時に体から力が抜けていく

腹部の痛み?そんな事はどうでもいい

母を・・・蘭さんを失う、辛さ悲しみは・・・・
あの時感じた、心の痛みは、こんな物ではなかったと・・・
その瞳に貯めた、涙が溢れ出す

蘭の脇腹を貫通したその弾丸は、そのまま鈴の腹部に穴を開けた
大きな血管に当たったのだろうか
鈴が呼吸するたび、言葉を発するたび、大量の血液が噴き出していた

薄れる意識、腹部の痛み、集中力は欠け、回復魔法は発動することはない

だが、鈴の気がつかない所で、膨れ上がる、魔力

そして、たった数秒で、大量の血液を失った鈴は、その意識を失いかけるが



「らん、、さん、、、、、、、、、、
  お、、おかあ、、、さん、、、、ごめ、、、ん、、、、なさい、、、、、、
   もう、、、、ち、、、から、、、、が」


涙で、蘭の顔がハッキリと見えない・・・・・・・

大量の血を失ったことから、耳鳴りが起こり

何かを発する母の言葉さえ聞き取れなぃ・・・・



「ぉか、、、ぁ、、さん、、、、、、、、



       おか、、、、、あ、、、、



                 さ、、、ん」


鈴は残った力の限り母の名を呼ぶ・・・・

言葉を発する度に、腹部の穴から、血液が吹き出る

それは、更に鈴の命を縮める事となる

だが、鈴は母を呼ぶことを辞めることはない

自分の為に2度も、母は命の危険に陥ったのである

母の為、その名を呼ぶことで、死にかけた母の意識をつなぎ止める

母にかざした、その手は、すでに魔法は発動していない

それでも、回復して欲しい、元気になって欲しいと

鈴は、諦めはしない

その強い意思をもって、手をかざす





だが、その強い意思を持ってしても

しだいに、全身の力は無くなり

次第に母を呼ぶ声も、小さくなり、力尽き

鈴は母の胸に倒れ込んだ・・・・・・・

そして、最後の力を振り絞って伝える


「しおん、、、いるから、、、だい、、じょ、、、、う、、、、ぶ」

それは、小さな 小さな とても小さな声であった

未だ感じる鼓動は、止めど無く大きくなってゆく
もう来る、紫音なら蘭さんを助けてくれる
この状況さえも、解決してくれる
きっと、私が目を覚ました時には
何もかも終わっている
紫音ならきっと・・・・・・・・

そして、鈴はその意識を失った・・・・


 
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