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覚醒編
13話 絆
しおりを挟む「しおぉぉっぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
蘭の悲鳴と言える絶叫が、谷間に響く!
そう、それは、大きな音に、身体が反応し、蘭は音の方向に首を振った
そこに横たわるは、目の前にいたはずの、紫音の体があり
そして、蘭は顔面蒼白となり、紫音の名前を叫んだのだ
その声は紫音の耳には届いたが、その声に反応することはなかった
太腿を銃で撃たれ、膝を付いていた蘭は、紫音に駆け寄ろうとするが
その痛みで立ち上がる前に、左によろける
それを支えたのが、蘭に回復魔法を使っていた鈴である
そして、蘭がその場を動かないように、抱きつき、静かに
「大丈夫、紫音は大丈夫」
その言葉は震えていたが、確かな意思があった。
蘭が、後に、思い返した時、そこには違和感があった
私が紫音の姿を見たとき、死んだかと血の気が引いたことを覚えている
だが、鈴に至っては、紫音の姿を見ることもなく、無事だと判断を下していた
双子の持つ、感覚なのだろうか?私には分からない絆なのだろうか?
双子ではあるが、物心つく前には、紫音は鈴の面倒を見ていた
そう、紫音、鈴が4歳になる頃には
私も旦那も仕事で、月に数度ほどしか家に帰らないようになっていた
4歳の2人の子供を、家に残し数日も家を空けるなど、今なら虐待と言ってもいいだろう
そんな、異常とも言える家庭環境であり
育児放棄をしたと言われても否定できない私達であったが
だが、それでも、それ以上に、紫音と言う息子は異常であった
知らない間に、手の掛からない子供になり
知らない間に、鈴の面倒まで見ていた
料理は私に似て苦手みたいだが
それ以外の家事は、そつなくこなすようになっていた
朝、鈴が起きれば、洋服を準備し着替えさせ、2人で保育園に行き
帰りに、お店で、自分達の夕食の弁当を買って帰り
帰ってくれば全自動ではあるが、洗濯もする
できる範囲で、片付けや掃除もする最後には
「じぶんたちのことは、じぶんでできます、りんも、しんぱいないです
ぼくもりんも、たのしそうな、ふたりのかおが、だいすきだから
らんさんも、おとうさんも、したいことをしてください」
びっくりもしたし、嬉しくもあったが
当時、3歳の子供の言う言葉ではなかった
それまでは、夜には・・・
いや、月の半分位は・・・
いや、月に10日は・・・夜には
私か旦那が家に居るようにしていたが
それ以降、徐々に家を空け、子供2人に留守を任せることが多くなったのはたしかである
もしかしたら、私と旦那が
どちらが家に泊まるかで口喧嘩をしていた時期がある
それは、険悪な仲違い、顔を合わせれば、口喧嘩
私の頭の中には、離婚の文字すら浮かんだ事があった
そう、子供を旦那に押し付けて、自分の研究に没頭したかった時が
今思えば、旦那も同じだったのだろう
私に子供を押し付け、自分のやりたい事をと
それを紫音が見ていたのかもしれない・・・・・・・
私も旦那も若かったのだ
大学時代に、子供を授かり結婚して
20代前半の、まだまだ遊びたいと、やりたい事をがまんできなかった
若かりし罪深き時・・・・私より旦那より
3歳の紫音が一番、大人だった、一番家族を愛していたと
私達、家族を救ったのは紫音だと
そんな紫音の好意に溺れ、徐々に家に帰る回数は減っていった
それでも、できる限り日曜には家に帰り、子供達と触れ合い愛すと決めた
ただ、それは現実にはならなかったが・・・
鈴も紫音ほどでないが、小学生になる時には
ある程度の事は、自分で出来る様になっていた
それは、親を見て育ったわけでは無い
全ては、紫音を見て育ったのだ
そう鈴の育ての親は紫音なのかもしれない
そんな2人の関係は、私には解らないところに有るのかもしれない・・・・・
そして、そんな鈴の視線の先には、紫音を蹴り飛ばした男の姿があった
その男は、すでに蘭に対して攻撃態勢をとっていたのだ
「やま! 何をするんだ、今話は済んだはずだ!」
井門は、やまさんに、振り向き叫ぶ
紫音を蹴り飛ばした男は、一歩下がり
飛んでいった紫音と、蘭・鈴を視界に入れたまま戦闘態勢を維持し
「だまれ!お前は解らなかったのか?あのガキの異様さを
魔法なしで、アイツ等2人を倒したんだぞ、それも時間にして約2分ほどで
そして今狙われたのは、お前だ井門、俺が手を出さなかったら
今倒れているのは井門、お前だ」
何かに苛立っていたが、その声には緊張がうかがえた
そう、やまさんは、その異様さに気が付いた
蹴り飛ばした、その足に残る感覚、そして吹き飛んだ子供
それは、この子供は、強化魔法なしで、大人2人を倒したのだ
魔法が不得意という情報があったとしても、2人の大人を倒したのだ
接近戦での基本魔法であろう、肉体強化をしていて当たり前だろう
その強化魔法が、かかっていなかったのだ
そうでなければ、あそこまで吹っ飛ぶ事はないのだ
やまさん程の力量、経験則から
対峙すれば、その力量、ある程度の戦闘力は測れるだろう
魔力は別物だが・・・
それでも、あの子供の力量を測ることができなかった
日々鍛錬をしている身体ではない
武術を志している雰囲気はない
歩き方から、重心移動もチグハグである
まるで、10歳の子供のようである
そんな子供がと・・・・・
動かない子供を視界に入れたまま、戦闘態勢を崩さない
それは、未だ頭の中で、アラーム鳴っているからに他ならない
井門は、やまさんに言われ、倒れた紫音を再び見つめ
蘭の車の脇で、倒れている男を見る、今度は、やまさんと同じように
少し離れた所で戦闘態勢を取っている2人に目線を送る
2人は、それに気づいたのだろう、軽く頷く
それを確認すると、井門は背中に寒気を感じた
そして、横たわる紫音の姿を、その視界にいれる
「あの子供に、そんな力が・・・・・・」
「紫音にそんな事出来るわけないだろう、まだ9歳の子供だぞ」
くってかかる蘭
いや、蘭は知っているのだ
それが出来るからこそ、紫音なのだと
普通の理屈の通じる9歳の子供ではないのだと
「先生さんの意見はどうでもいいんだ、静かに付いて来てくれればな
嫌だと言うのなら、そっちの、お嬢ちゃんも痛い目にあうぞ」
そう、それは蘭を庇うように、蘭に抱きついている、少女のことである
「チッ・・・」
やまさんの、言葉に、奥歯を噛み締め、言葉を返せない蘭
井門は、一度その瞳を閉じ・・・・・開く
右手で、トレーラーの助手席を指し
「降りて来い、そして、その倒れている子供をコンテナに運べ」
そして、やまさんの後ろで、構えを取っていた2人に
「お前たちは、車の向こうで倒れている2人だ」
一番後ろで、両肩にマシンガンを下げていた男に
「お前は、そこの丸焼けになった奴を運べ」
そして、一度やまさんに目を送り
「三千風先生、あちらの、コンテナの方にお願いします、お子様もご一緒に
車の方は、こちらで移動させますので」
蘭は一度紫音に目をやる
その瞳は開いてはいるが、生気を感じない
それでも、うっすらと、動いている肩それは呼吸をしている証拠であった
「わかった、だがこれ以上の・・・・」
蘭の言葉が、止まる
そして
「うわ、、やめろ」
蘭の視界の先、井門と、やまさんの背後で、それが起こった
それは、両肩にマシンガンを下げた男が
井門の指示で、丸焼けになった虎亜(こあ)を介抱に近づいた時だ
いきなり、虎亜に襲われたのだ
虎亜は、男の持っていた、マシンガンの1丁を奪い取り
その銃口を、やまさんに向けた
「やぁーまぁーー てめえは、ゆるさねぇーーーーーーー」
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